河崎爆発ッ!その4
家に帰ったあと、楓はずっとひねくれていた。
「なんだよ?負けた事がそんなに悔しいのか?」
「そうでは無い!最強兵器である私が、なぜ光線を受けただけで力尽きたのかッ!魔力もなぜ抜けたのか分らない!」
「どうせ、元々お前は異能力者では無いんだろう。連合の連中が最強兵器としての実験で作り上げただけの存在。でも、強い方だと思うぜ?なんせ、他の異能力者では100人が俺にかかってきても瞬殺だからな」
「それだけの力があるのに、なんで普通の高校生活を送るのだ?」
「目立ちたくないんだよ。俺はもう、戦うのはやめたんだ」
「分らぬ。力を持つ者は見せつけたがるのが世の常だ。現に私の姉は…。それなのに、なんで」
「世の中には分らねえことがあっても別にいいじゃねえか。にしても人間観察が趣味のお前でも分らないことってあるんだな(笑)」
「遥の考えてることなどさっぱりだ!」
あ、今遥って呼んだ?珍しいこともあるんだな。普段、お前とか貴様とかなのに。
「でも、良かったじゃん。明日は土曜日。学校も期末テスト後で何もねえしな」
食事も済ませ、寝ようとしていた頃だった。ピリリリピリリリ…誰だろう?こんな夜中に。
「もしもし?」
「あー済まぬ、私だ!裕子だ」
「あー、先生なんすかぁ?こんな夜中に」
「忘れたのか?噴水族の知り合いを紹介すると言っただろ。今これから栄で飲むところだ。テレビ塔の前に落ちあおう。もちろん今から来れるよな?」
そうだった。週末に噴水族の人と会うんだった。すっかり忘れていた!
「どこか出かけるのか?こんな時間に」
夜10時をまわっていた。眠そうに、というか戦闘で疲れたのだろう、だるそうな目の楓がベッドから顔を出した。
「ああ、ちょっと友達の家に!あ、俺のことは気にしなくていいから、寝といて!統也が夜勤明けで帰ったらそう言っといて!」
「ふむ、ってことは友達の家に行くのでは無いのだな、おそらく、私に知られたくない人と会うのだろう。しかし、私は眠いし疲れてる。遥の言う通りにしよう」
助かった。もしついて来てでもしたら厄介だからな。
こっからテレビ塔まで地下鉄を使うと40分だ。跳んだ方が早いな。
ヒュッ!
テレビ塔の前の大通りに着地、と同時に挨拶。
「こんばんは!裕子先生!」
「馬鹿!空から来るとは何事だ!周りに見られてでもしたら!」
「大丈夫ですよ!夜中だし見られないですよ。それにホラ、先生だってこっちがこんばんはって言うまで気付かなかったでしょ?」
「アハハ!面白い子だねぇ!この子がシナトラの異能力者?私は優里奈だよ!よろしくぅ!」
「初めまして、よろしくお願いします!優里奈さん!」
「今もう夜10時半か。すまんな、テストの丸つけと評価に時間がかかって、優里奈も社会人で忙しいんだ。遥も一応高校生だからな、こんな夜中でも大丈夫か?」
「一応ってなんですか!俺は普通の高校生ですよ!普通の16歳!」
「あはは!若いなあ!羨ましい…私なんてもう21だよ」
え、若い。裕子先生の知り合いだから27、28歳くらいだと思ってた。
「私の教え子でな。数年前に受け持ってたクラスの子だ」
「まあまあそんな話は置いといてぇ、飲みましょうよ裕子先生に遥君!」
「あの、俺…」
「大丈夫だ!私は未成年に飲酒させるような教師では無い!」
いや、そういう問題じゃなくて、、。16歳がそもそも居酒屋入れるのかなって…。
「いらっしゃいませー、何名様ですか?」
、、。はいれちゃった。
「何を驚いてるんだ?居酒屋は普通に未成年でも入れるところははいれるぞ?ただアルコールが注文出来ないだけで」
「遥君はまだ16歳だもんね!こういう店は経験無いからわかんないよねぇ!お姉さんが教えてあげよう!」
「そういえば、優里奈さんって異能力者なんですよね?」
「ああ、そうだった。その件で呼んだんだった。優里奈君、君は河崎の爆発について何か知ってるか?」
「いきなり急だなっ。まだ注文もしてないのにぃ。そうだよ。私は異能力者。でもここでは小声でね?隣の座敷席の酔っ払いのオッちゃんとかにも異能力者いるかもしれないんだから、で、裕子先生の質問なんですが、私は河崎の爆発については知りません。一応噴水族の緊急集会にも参加したんだけどね!」
ってことは、河崎の爆発について一番詳しく知ってるのは俺か。楓のことは黙っておこう。
「でも、河崎の爆発って闇属性の攻撃だよね!噴水族の会合では、協会の発表があるまで動かないでいようって取り決めたんだけど、横濱連合じゃないかなぁ?」
「なんで横濱連合だと思うんですか?あの連合はもう噴水族との戦いの後消滅したんじゃ」
「私もそう思った。でも闇属性の攻撃は横濱連合のリーダーの性質と同じ。連合は当時、一般人を改造して異能力者にする研究をしていた。確か、その研究の素がリーダーの闇魔力だったんだよ!だから、連合は息をひそめて研究を陰でこそこそやってたんじゃないかな?研究所があったのも、河崎の攻撃された地区にあったんだ」
なるほどね。それで横濱は証拠隠滅で攻撃したのか…
「そうなるとあれか?噴水族は再び攻撃準備に入るのか?」
オニババがいつもになく怖い表情をしている。
「いえいえ、さすがの噴水族も、民間人を巻き込むようなことはしませんよ!あの抗争以来、反省してるんですから!先生もご存じでしょ?協会から色々言われたのを」
「ああ。しかし、あの抗争は酷かった。名護屋の死者は1000人を超えた、異能力者グループの抗争至上過去最悪だったからな。飛騨会でも食い止める際、負傷者が出た」
そんなに酷い抗争だったのか。
「でも、協会の報道だと、噴水族は色々問題起こしてるって言ってますけど?」
「確かに、噴水族は他の異能力グループとは違うね。この間も一般人に手を出したとかで協会にしょっぴかれた人いたけどさ、こっちは規模が大きいから、そういうのもたまにいるんだよね…。ウチは規則はちゃんと順守してるよ!」
「まあ、長話もなんだ、お二人さん、注文はどうする?気にするな。ここは私のおごりだ!」
そうだった、俺達は席についてから一品も注文してなかった。店の人もこっちをちらちら見ていた。