港の街 2
食事を終えるとメローブに手を引かれ寝ていた部屋に戻された。そして浴室へ案内され身体を擦る仕草をした。きっと風呂に入れということだろう。
着替えの服とタオルを手渡されたので頷いて、彼女を浴室から追い出した。
髪をわしゃわしゃと拭きながら部屋に戻ると彼女はベッドに座っていた。
結月に気づくと立ち上がり、名前を呼んで布団を捲ってとんとんとベッドを叩いた。
大人しくベッドに入るとカーテンが閉められて額にキスをされた。そういう文化なのだろうが心臓に悪い。額を抑えて顔を赤らめると彼女は微笑んで部屋から出ていった。
もうすぐ夜がくる。今まで起こっていたことが全てわからないまま布団をかぶる。
眠って起きたら夢が覚めていればいいのに。
そう思いながら目を閉じた。
「ユズ」
軽く揺すられて目を開けるとあまりの眩しさにもう一度目を瞑った。目が慣れてきた頃にやっと布団から出る。メローブは待っていてくれたようだ。慌てて立ち上がると濡れたタオルを手渡された。ほかほかとしたそれを顔に当てると温かくて気持ちがいい。顔を拭き終わると部屋から出て男達の部屋へ向かった。
扉を開けると既に朝食の用意ができているようで、いい香りがふわりとかおった。思わず腹を抑えてしまったのは仕方の無いことだろう。解せないのはそれを見て彼らが笑ったことだ。
食事が済むとまた部屋に戻らされ、服も着替えさせられた。そしてマントを羽織らされ部屋から出る。
男達ともロビーのような所で会いそのまま外へ出る。
街はまるで中世のヨーロッパのようだった。
石で作られた道、カラフルな建物、その他もろもろ。
新鮮な光景に目を奪われているとメローブに腕を掴まれた。そのままぐんぐんと進んでいく。もう少し見ていたいのに。
人も疎らになり、道も石から土になり、街のはずれのような場所へ出た。そのまま彼らが進むので自分たちはどこへ向かうつもりなのだろうかと不安になった。
着いたのは一軒の家だった。古い家のようだが、それなりに綺麗にしてある。ケベルがドアを叩くとしばらくして結月と同じくらいの年に見える少年が出てきた。会話の内容は分からない。どうやらこちらを見ていることから自分についての話をしている、ということは察した。少年が引っ込むとケベルは頭を掻いてゼレクノーンと話し始めた。
暇を持て余すとはまさにこの事だ、と欠伸を一つ。
すると突然ドアが開いて背の高い男が出てきた。
ケベルを見てその後結月をじろりと一瞥する。
思わずびくっとすると、彼はふんと鼻で笑ってドアを開けたまま戻ってしまった。ケベルとゼレクノーンが家の中へ入ってしまったので、嫌だなと思いながら少しの期待を込めてメローブを見上げる。
メローブは困ったように笑い、結月の名前を呼んで中を指さす。仕方なく結月は嫌な予感しかしない家に足を踏み入れた。