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港の街 1

結月はふかふかの布団にくるまっていてもう少し寝ていたいと思ったが、こんなに明るく感じるのだからもう起きる時間なのだろうとゆるゆると瞼を開けた。

西日が差し込んでいる。夕方のようだ。


「うそ!」


慌てて飛び起きるとこの布団が自分のものではないということ、森の中からいつの間にか出ていたということに気付いた。

服も着替えさせられていて、制服から肌触りのいい素材のワンピースになっていた。見知らぬ人に裸を見られたことに羞恥心を覚えたが、黒いマントの集団に連れ去られたことを思い出した。

彼らが結月をここへ連れてきたのか。


「.....カーリー?」


ベッドから降りて彼女を探す。部屋にはベッドとソファー、クローゼットがあり、出口らしき扉ともう一つ扉があった。出口で鉢合わせしたくないのでもう一方の扉を開けてみる。

どうやら浴室のようだ。隠れる場所は無い。


もう一度部屋に戻って自分の鞄を探す。

それはベッドの隣の棚の上に置いてあった。

中身を確認すると全てが揃っていた。

なぜ持ち物を奪わなかったのか疑問が残るが、ひとまずカーリーがどこにいるのか、無事なのかが知りたい。彼女だけがこの世界で信頼出来る人なのだ。


コンコンとノックの音がした。

ベッドへ潜る暇もなく開いてしまったので、鞄を胸に抱きしめ扉の方へ身体を向けた。

入ってきたのは女性だった。

何やら話しかけてきたが生憎全く理解できない。

部屋の外を指して招くようなジェスチャーをしたのできっとこっちへ来いといったところだろう。

ここで逆らってもいいことはないので大人しく従うことにする。


どうやらここは木造の宿のようだ。様々な人と廊下ですれ違った。見た目は自分たちとそっくりなのに、なぜ言葉だけが違うのだろう。ここはどこか知らない世界なのだろうか。それとも長い夢を見ているのだろうか。

そうして一つの部屋に招かれると、知らない男性が二人ベットに腰掛けていた。カーリーの姿は見えない。別の部屋にいるのだろうか。


また話しかけてきたが分からない。先程は窓の外を見る余裕がなかったが、眺めてみると白い鳥が飛んでいて、船が泊まっている。ここは港町なのだろう。海に太陽が沈んでいくという光景を見た時がなかったので感傷に浸っていると肩をとんとんと叩かれた。

振り向くと女性は男性の一人を指さしており、彼はなぜかがっくりと項垂れていた。

わけがわからなくてもう一度女性を見ると何を思ったか頭を撫でられた。敵か味方かも分からない人に触られることは嫌だったが、それで腹を立てられても困るので大人しくされるがままになっていた。


女性は自分を指さして何か言った。そして男性達を指さしてそれぞれ違う言葉を言った。

名前なのだろうか。

最後に結月を指さした。

彼らに本名を明かすべきだろうか。しかしここがどこで彼らが何者か分からない以上、下手に名前を明かしてトラブルに巻き込まれてしまったらとんでもない。

そんなことを考えていると理解出来ていないと思われたのか、もう一度女性は自分たちを指さして同じ言葉を繰り返した。

仕方なく結月は自分を指さして、


「ユズ」


と言った。彼女の家族や仲の良い友達が使う愛称だった。

女性はにっこりと笑ってそれを反復、結月の反応を見た。何度か呼んだあと、自分を指さして先程の言葉を繰り返した。

きっと名前を覚えてほしいのだろう。このままでは埒が明かないので仕方なく付き合う。


「メローブ」

「めろーぶ」


彼女-メローブは満足そうに頷くと男性たちも同じように指をさして名前を呼んだ。

その結果、項垂れていた男はケベル、もう一人の男はゼレクノーンだと分かった。名前に親近感がないのでいよいよここは異世界か、はたまた自分の甚だしい想像力から生み出された夢なのかに絞られてきた。

メローブは自分の名前を呼んでほしいらしく、自分を指さしていたが、丁度結月の腹が盛大になったので、ゼレクノーンは笑いながら扉の外へ出ていき、ケベルも笑いながらあとに続いた。

顔から火が出そうだと思わず持っていた鞄に顔を埋めるとメローブが肩を抱いてベッドに共に腰を下ろさせた。

なにか慰めるようなトーンで言葉を紡いでいるが、残念なことにこれっぽっちも伝わらない。

ただ良いことをひとつ見つけて、それは悪口も一つも理解できないということだった。


頬の赤みが薄れてきた頃顔を上げると、扉が開いてケベルとゼレクノーンがお盆を持って入ってきた。

そこにあったのはパンとスープ、サラダだった。

美味しそう、と呟くより早く腹の虫が反応した。

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