神の森 3
「二人だけでいいんですか?」
おおよそ馬の足では追いつけない距離まで飛んだ後、ほっとしたのか部下がカグに問いかけた。
歩みを止めず、気を配りながら口をひらく。
「清らかな者がこの二人だけだったんだよ。あと誰が聞いてるかも分からないからその口閉じて」
この森は馬で走っても通り抜けるまでまる二日かかるほど広いが、自分たちと同業者がどこにいるのかも分からない。
加えて権力者は、少女たちをのどから手が出るほど欲しがっているのだ。自分の命を犠牲にしてまで。
「でも休みませんか?使いすぎたようで、疲れてしまって」
部下の一人が申し訳なさそうに頬をかいた。
見回すと確かに全員に疲れが見える。
安全性からいうと今日中に森を抜けた方がよい。しかしこの疲労感ではその間に襲撃されればこの少女たちを守りきれないかもしれない。
「.....分かった」
腰を下ろさせると、カグは周りに罠をしかけた。
気休め程度だが無いよりはましだろう。
糸を張り、得物を括る。
すると休憩を求めた部下が近づいてきた。
「手伝います」
「あっちに張って」
火は自分たちの場所がばれてしまうので使えない。そのためにこのマントがあるのだ。
暖を取り、武器を隠し、暗闇に紛れるために。
本来はこんなに明るいうちに仕事はしたくないのだが。
「見張りは二、三人で交代ね。やりたい人がいるなら別だけど。あと食事はなるべく避けて。それから--」
言葉は続かなかった。
光るそれが見えた時とっさに後ろに跳ねると辺りは真っ白な煙で覆われた。
誰が。
裏切り者か。
巫女を守れ。
どうやらこちらを攻撃するつもりは無いらしい。
得物を投げたのはあの部下だった。そのために休ませたのか。失態だった。
横を通り過ぎようとした者の腕を掴んで捻りあげる。敵でも味方でも構わない。この怒りが収まるなら。
暴れる様子からして敵のようだった。
煙が薄まってきた頃目視で人数を数えると四人ほど見当たらない。
どうやら全員が裏切り者ではなかったらしい。
「お前、どうするつもりだったの?」
「神の御心のままに」
そう言って舌を噛もうとしたので手をねじ込んで阻止する。
自分たちをこけにしたのだ、そう簡単に死なせるものか。
「巫女は一人だけ無事でした」
「そう」
依頼人の怒る顔が目に浮かぶ。
溜息を吐きながら裏切り者を眠らせて猿轡を噛ませ手足を縛る。
そしてその辺に転がせておき、見張りを頼んで罠を見に行く。
案の定、彼の罠は手薄だった。子供でも楽に通り抜けられるほどに。
いつから計画していたのかは分からないがやってくれたものだ。
カグは糸を引きちぎると、どう料理してやろうかと目を細めた。