神の森 2
「貴様!」
一人が男に刃を向けたが、彼は怯えることなく胡散臭い笑みを浮かべていた。
女達を庇うように囲んでも全く表情を崩さない。
アルゾールは呻き声を上げたのでどうやら死んではいないようだ。
やつはどこから来たのか分からないが一人だけということはなかろう。
トルドロは周囲に気を配りながら口を開いた。
「お前、何者だ」
「君らの敵の味方さ」
突然黒いマントの集団が現れて女達に向かっていった。
すぐに戦う許可を出したが、内心彼は動揺していた。
奴らが隠れる場所は森の中しかないがこちらからは丸見えだ。動いたなら木々も揺れるはず。それなのに、まるで何も無いところから現れたように。
「お嬢さん方はこちらへ!」
光る刃と甲高い音に怯えていた女達に安全な場所へ逃げてもらう。
奴らの目的は彼女たちを連れて帰ることだけだろうか。なんにせよあちらに捕まるよりこちらで保護する方がいい筈だ。あんな不気味な集団より。
気付いたマントの一人が黒い髪の少女に飛びかかる。
「こい!」
悲鳴をあげて暴れるが、力の差ではかなうはずもない。その近くにいた少女が助けようとするも、同じように捕えられて動けないように抱えられた。そして布のようなものを口元に当てると少女たちは大人しくなった。眠らせる薬だろうか。
二人もいれば充分だと思ったのか、奴らは高く跳ねたかと思うと煙のように姿を消した。
「消えた......」
「思い出した、奴らはアベラスの密偵だ!」
神の奇跡の力を使って暗躍すると噂の集団だった。しかしその神はトルドロ達が信仰する神とは異なる。忌み嫌っている類のものだ。
トルドロは剣をしまうと命令した。
「また襲ってくるかもしれん。気を引き締めろ。これ以上神の使いを危険に晒してはいけない」
そうして振り返り震えている女達に笑いかけるが、なんの効果もない。寧ろ怯えさせてしまっようだ。
やっぱりおじさんより若者の方が需要があるんだな、と見えないようにため息をついた。