森の中 4
湿った空気の中でけもの道をひたすら進む。マイナスイオンがたっぷりあるようで、息をするのは楽に感じた。
歩いていて気づいたのは、やけに静かだということ。風で揺れる木々のざわめきは聞こえる。しかし動物の鳴き声は聞こえない。
まるで息を潜めて、何かから隠れているように--。
きっと考えすぎだろう。
『湖だ』
例によって静かな湖畔に出た。
水面には波一つ立たない。
率いた女性-ヘレンというらしい-は気付いているのかいないのか、水をすくって飲んでいた。
『毒は無いようだよ。みんなも飲んで、これから頑張るために』
彼女たちは各々水を飲んでいたが、結月はなんだか気味が悪くて飲む気がしなかった。
それはカーリーも同様で、ただ結月の近くに座って水面をじっと見つめていた。
『あなた達は飲まないの?』
不安にしている様子を感じたのだろうか、ヘレンがやって来て腰を下ろした。カーリーが何かを言って、ヘレンは考えるように口元に手をやる。
英語をもっと頑張って勉強しておけばよかった、と本日二度目の後悔。
自分の名前が呼ばれた気がして彼女たちに顔を向けると、身振り手振りで何かを伝えようとしていた。
首を傾げてもう一度、とお願いしようとすると、多くの足音が聞こえてきた。
『なにかしら』
『あたし達をここに連れて来た奴ら?』
ヘレンは立ち上がって女性たちを一箇所に集める。
音は次第に大きくなる。馬の足音に似ていた。
心臓が早く鼓動を打つ。隠れん坊をしているようだ。息を潜めたってどこにも隠れる場所はない。
そして現れたのは馬に乗り、銀色の鎧に身を包んだ人々だった。
『あたしたち、タイムスリップしたの?』
先頭にいた人が頭の鎧を外すと、周りにいた人々も習って外し始めた。
ヘレンが近づいて話しかける。
『あなた達は一体誰?ここはどこ?あたし達をどうするつもり?』
馬から降りた男達は困ったように顔を見合わせた。
嫌な予感がした。
そして口から出てきた言葉は案の定、結月には全く理解できない言語だった。
『.....ごめんなさい、あたし理解できないわ』