縋る者 1
以降全ての会話は基本的にこの世界の言語になります。主人公は意味が分からずに話している事もあります。ご注意ください。
「元気?」
勢いよくドアを開けて入ってきた、金髪で長身の女性に人気がありそうな男。名をフォルトという。
ノアの友人だと話し(本人は否定していた)結月をこの世に舞い降りた女神だと天を仰いでは(アダムがわかりやすく説明してくれた)アダムを口説いていた(曰く美しい人は老若男女問わず愛を囁くのがモットーらしい)。
結月がやってきた次の日に初めて顔を合わせたが、どうやらノアとはずっと昔からの仲らしい。
「女神、今日も美しい.....。ねえ、こんな男はやめてうちに来ない?」
「結構です」
か弱い女子供には優しくという信念のもと、洗濯やらを手伝ってくれるのは有難いが、その度に何か訳の分からないことを言われて正直困っている。
ほぼ聞き流しているが。
アダムは街へ買い物をしており、結月は夕飯の下ごしらえをしていた。ノアは優雅に本を読んでいる。
流れるようにフォルトは洗い物を手伝うため、結月の隣へ歩み寄った。
「そういえばアベラスに巫女がやってきたみたいだな」
「そうらしいな。それでお前は何の用だ」
ノアが彼の腕を掴むと目にも止まらぬ早業で床へ転がした。ご丁寧に両手両足を縛り上げて。
ぎょっとしてノアに理由を求めるとそれには答えず、荷物をまとめろとだけ言った。
「説明してあげればいいのに」
「こいつはただの居候だ」
わけも分からず自分の部屋に行き、筆記用具が入った鞄を大きめの鞄に詰めてから、カモフラージュに適当にあったものをぶち込んで駆け足でまた部屋に戻った。
するとフォルトは椅子に縛られており、ノアはアダムの分の荷物も持って待っていた。
「行くぞ」
「それは私の知っている場所ですか?」
「さあな」
「フォルトさんはそのままでいいのですか?」
「優しい!やっぱり君は、」
「ほっとけ」
家から出ると街へと続く道ではなく、逸れたけもの道へ踏み入れていった。
正直草が生い茂った道は歩きたくない。何があるかたまったもんじゃない。昨夜は雨が降ったのでまだ少し露が残っている。それが肌に触れて気持ち悪い。
「ノアさん」
「静かに」
突然止まったので慌てて口を抑える。
腰をおろせと手で示されるので大人しく言う通りにする。
人の声がした。
「あいつはいたか?」
「まだ見つからない。あいつどうやらここで信頼を得たらしいな」
「一体どんな手を使ったんだか、想像できるなぁ」
嘲りを混ぜた下品な笑い声。
甲冑に身を包んだ数名の男達はそこで屯っていた。
笑い声が止まらないうちに隣にいた男は、そいつらの意識を容易く失わせる。
「彼らは誰かを探しているのですか?」
「ああ、そうだろうよ」
また歩き始めた。
それ以上の質問は認めないというように。
それでも結月は疑問に思っていた。
「なぜ私達は、」
「人には、知らなくてもいい事がある」
明らかな拒絶だった。
それからはどちらも声をあげず、ただ無心で足を動かした。