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港の街 3

結月は彼らの話を右から左へ受け流しながら不思議な味のするお茶を飲んでいた。

色は紅茶のように赤っぽいが味はよく分からない。甘いような酸っぱいような。


「ユズ」


メローブに名を呼ばれた。はっとすると彼らは既に席を立っていた。慌てて立ち上がる。お茶を淹れてくれた少年と家主らしき男に礼をしてメローブの後をついていこうとした。

彼女はまた名前を呼んで結月の両肩を掴んだ。そして結月を指さして、少年たちを指さした。


それはつまり。


きっと彼らはもうここへは戻ってこないのだろう。表情が物語っている。

メローブは泣きそうな顔をしていた。普通泣くのはこっちだろうに。なんだか笑えてくる。


「ユズ、」


彼女は何か口にした。聞き取りやすい言葉だった。

別れの言葉だろうか。この場面でそれ以外思いつかない。


「メローブ」


彼女の言葉を繰り返すと、驚いたように目を見開いて美しい顔を歪ませた。頬を涙が伝う。

そんなに泣かなくてもいいのに。




彼らと別れると結月は少年達に向き直った。

そういえば彼らの名前を知らない。

自分が知っている言葉は別れの言葉だけだ。

どうやって名前を聞こうかとかんがえあぐねいていると幸運なことに少年の方から教えてくれた。


「アダム」


不思議なことに彼の名前は聞き覚えのあるものだった。今までは発音の難しい名前しか聞いたことがなかった。

それならば男の名前はイブだろうかと間抜けな考えをしていると男も少年-アダムに急かされて嫌そうに名前を口にした。

男はイブではなくノアというらしい。

彼らの名付け親は、実は自分と同じように連れてこられた人だったのだろうか。だからメローブ達もここへ置いていったのでは。


すこし期待したが、そうだったらこんな所で生活していないだろう。

結月はメローブ達に(比較的)丁寧な扱いをされていた。森の中で会った騎士達もとても恭しい態度で接していた。だからもし彼らが想像通りの境遇だったなら、もっと良い扱いをしてくれているのではないか。

いや、自意識過剰か。

考えを振り払って彼らの名前を繰り返した。

発音は合っているらしい。

アダムは満足げに頷いて結月の手を取った。ここの人たちもフレンドリーなのか。

すこしどきどきしながら家の中を歩く。こじんまりした部屋に案内された。ここを使えということだろう。荷物(鞄は処分され、中身だけがここでよく使われている麻に似た素材でできた体操着袋のような物に入れていた)はそこに置き、また家を連れ回される。

全部回り終えると丁度結月の腹が鳴ってアダムは笑い声をあげた。またこのパターンか、と赤面すると彼は台所の見える椅子へ座らせてなにやら作業を始めた。

食材に不安要素はなかった。どれも見た事のあるものばかりだ。厳密に言うと似ているまでだが、それでも食べられなくはない。

肉の焼ける匂いがする。結月は大して食べ物に拘りはない方だったので、これはあれでこれはそれだ、というように味を判別できる人は単純にすごいと思っていた。

本心としては食べられればなんでもいい。流石にゲテモノは遠慮するが。

そうこうしているうちに完成したらしく、皿に乗って出てきた料理はそれはそれは美味しそうだった。

いつの間にか来ていたノアも結月の斜め前の席に座ってアダムは結月の目の前に座る。

いただきますのような言葉を唱えて食事を始めたので、それに倣って復唱し、遠慮なくご馳走にかぶりついた。

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