欺く朋 1
タイトルを変えました。
テーブルを挟んでノアとケベル達は椅子に座った。アダムにお茶を頼んで早速要件を求める。
「で、わざわざこんな所に何の用だ」
「お前に誤魔化しは効かないね」
ゼレクノーンは苦笑してすっと真面目な顔になる。
彼は何年も共に仕事をしてきたが、いつも飄々とした態度で過ごしていた。滅多なことではその笑みを崩さなかった。たとえ自身が危険にさらされていてもだ。
「.....一先ず聞いてやる」
「ありがとう」
彼の話はこうだった。
この少女はケベルの知り合いで、魔法をかけられて記憶を全て無くしてしまった。覚えているのは名前だけで、他の記憶はもちろん言葉さえ忘れた。この魔法を解くためにゼレクノーンらは旅をするが、その際彼女は足でまといになるためノアの所に住まわせてほしい。
確かに自分たちの話に興味を示さず、ただ部屋の中をきょろきょろ見たり、窓の外を眺めている様子から、全ての記憶を失ったということは嘘ではなさそうだ。
「ただ預けるなら他にいい所があるだろう」
「お前が一番安全だからだよ」
その言葉に引っ掛かりを感じた。
問いただそうとする所で丁度アダムがお茶を持って入ってくる。
「ありがとう」
カップに注がれたお茶に興味を示す少女。しげしげと眺めて、口に含もうとする。が、熱くて断念したようだ。
「淹れたてなんで熱いですよ。ミルクを入れますか?」
そう言ったアダムに首を傾げて困ったようにメローブを見る。
そしてアダムも困ったようにノアを見た。
「この子ちょっとした魔法で言葉が分からないのよ」
「言葉が.....」
アダムの母親は彼が幼い頃に狂って亡くなった。原因は分からない。
だから彼女に母親を重ねているのだろう。
彼はノアを振り返って何かに期待するように見つめた。
「嫌だぞ」
「だって可哀想じゃないですか!師匠が嫌なら俺が面倒見ます」
アダムは頭を抱えた。一人でさえ面倒だったのにもう一人増えるとは。更にそれは厄介な呪いにかけられているときた。
忌々しげにゼレクノーンを見ると彼はいつも通りの笑みを浮かべていた。
くそっと悪態をついて条件を突きつける。
「俺を面倒事には巻き込むな。家事全般を出来るようにさせろ。俺は何があっても責任は負わない、いいな?」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうに笑う一番弟子。
何もわかっていなそうにお茶を飲んでいる少女。
厄介事から逃れるためにこんな所まで来たのに、却って厄介事に巻き込まれるとは。
ノアは溜息を吐いて程よく冷めたお茶を啜った。