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森の中 1

ベージュのカーテンが閉められた可愛らしい雰囲気の部屋のベットに少女は眠っていた。規則正しい寝息をしている......と思いきや唐突に飛び起きる。時刻はまだ深夜である。


「ああ、どうしよう!」


三角座りで頭を掻き毟る彼女の唯一の悩み事は、翌日のテストであった。

全く勉強していないというわけではないが、どうして何時間も机に向かっていなくてはいけないのか。あんな紙っぺらで自分の価値を決めないでほしいと、よくいる"思春期"の少年少女にありがちな文句。

立てた膝に顔を埋めてしばらく頭を働かせる。どうにか明日を来させないようにする方法はないか。


「明日が来ないよりあたしが行かない方が早いか」


小さな脳で絞り出した結論に我ながら名案だと自画自賛して布団に潜り込んだ。

彼女は自他共に認める単純な少女だったのだ。



しかし現実はそう甘くなく、少女は泣く泣く道路を歩いていた。いつもより遅く準備をしていたのでとっくに友人達は行ってしまっている。彼女の家から学校までは10分程。今から出ても十分間に合う時間である。


「ほら、早く行きなさい」

「本当に行きたくない。隕石でも降ってこないかな」

「馬鹿な事言ってないで」


母はこの重大さが分からないから言えるのだ、と心の中で文句を垂れる。

靴を履き、玄関のドアに手をかけた。


「いってきます」


空は憎たらしい程の快晴である。



のろのろと道路を歩く。もう同じ制服の生徒は見えない。が、焦ることはなく彼女はちんたら足を動かしていた。どうせ始まる時間には余裕で間に合う。

もう逃げられないことを彼女はよく理解していた。

足を止められる唯一の場所は信号だった。緑色が点滅し始めたので彼女の足は止まる。どうせまだ間に合うなら少しくらい休憩したっていいじゃないか。誰ともなく心の中で呟きぼんやりと前を見つめていた。


「危ない!」


そういうわけで彼女が暴走してきた車を避けられなかったのも、曰く学校のせいだというのは道理にかなうといえばそういえる。

しかし彼女がその日最後に見たのは絵の具で塗りつぶしたような青空で、そのうえ愚痴を零す時間は無かったので、彼女の声は誰にも届かなかったのだ。


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