1章⑦ 3つの願望を叶える
衝撃波が一空と彩音を襲った直後、周囲には煙が覆い何も見えない状態だった。
そこにキメラの徐々に高くなる笑い声が響く。
「くぅくくっ……あははははは!! どうだ! オレを怒らせたらこうなるんだよぉーー! あははははは!!」
自身の力を見せつけた事で、気分が良くなっていたキメラだったが、徐々に煙が晴れてくるとそこに人影が見えてきた。
「……あぁ? なんだ?」
それに気付いたキメラは笑いをやめ、目を凝らしていた。
そして、人影の正体が露わになる。そこに立っていたのは、腕と脛は鎧の様な物で覆われ、上半身は上着を着ているが、肘あたりから手首まで鎧で覆われていた。
腰にはベルト、その下に短いローブがあり揺れている。手の甲に腕と同じように鎧に覆われており、手は黒い手袋をしていた。
「なんで、まだ生きてやがる……」
キメラは歯ぎしりを立てて、イラつき始める。
彩音は目を閉じた後に、物凄い風を感じたが、それが止むと同時に目を開くと一空が先ほどとは別の姿なのに気付く。
「一空……まさか、本当に……」
彩音は呆然として、後ろ姿の一空を見つめる。
「あぁ、成功したみたいだ彩音」
一空は自信を持って彩音に言うと、キメラに対して撤退するように話しかける。
「なぁ、そのまま帰ってはくれないか?」
「!?」
「お前の力が凄いのは分かった。でも、これ以上の戦いはやめて欲しいんだ。これ以上やって何になる? ただ、苦しくて辛いだけじゃないか!」
一空の訴えは、キメラの気持ちを逆撫でする結果となる。
「戦いをやめろだと……何の意味があるだと……ふざけるなよ、偽善者振りやがって……」
キメラは強く拳を握り、奥歯を噛みしめる。
「全てお前ら人間のせいで、こうなってんだろうが! それを知りながら戦いに意味がない? 何の意味があるだと? ふざけた事言ってんじゃねぇーーーぞーーー!!」
一空は、全くその主張の意味を理解できなかった。
「俺たち、人間のせい? どう言う意味だ?」
「どこまで、侮辱する気だ……! 既にあの方は決められている! お前ら人間の抹殺をな!」
「!?」
「そんな……」
「おい、どういう意味だ? あいつは何を言ってるんだ彩音?」
一空は彩音に聞くが彩音は下を向いたまま、黙り込んでいた。
一空は状況が分からないまま、すぐにキメラの方へ視線を向ける。
「オレはただお前らを抹殺する! それだけを実行する!!」
そうして、また両手を突き出し先程の衝撃波を再び放つ態勢をとる。
その姿を見て一空は決断する。
「お前がまだ戦うなら、俺の力でねじ伏せて辞めさせる!」
すると、キメラは先程より早めに衝撃波を放つ。
「この一撃で吹き飛べぇー!!」
それに対し一空は、右腕の鎧に3本のゲージのようなラインが横に入っておりそれを見せつけるように構える。そして一空が唱えた。
「全てを切り裂く、鋭い刃を我が手に出現させよ!」
次の瞬間、右腕のゲージが1本なくなり、右手に短刀が出現する。
向かってくる衝撃波に対し、頭部の上まで右手にした短刀を上げて、衝撃波めがけて一気に振り下ろした。
そして、振り下ろした通りに衝撃波が割れる。
キメラは衝撃波が割れたことに気付き、右へと回避行動を取る。
「(なんだ今のは、衝撃波が斬られたのか?)」
そんな事が起こるとは思わず驚くキメラ。
一空は、振りかざした直後にキメラが回避した方へ走り出す。
「ちっ……あの野郎速い」
キメラは向かってくる一空に目をやり、反撃をする態勢をとる。
一空が飛び込んでくると確信し、キメラは自らの尻尾で薙ぎ払うように振りかざす。
尻尾の軌道を直前で目にする一空だが、慌てる事なく先程の短刀で斬りかかった。
すると、尻尾は短刀によって綺麗に切り裂かれる。
「ぐぅぅうっ!」
キメラは声を殺し、そして拳に力を入れ一空の足元めがけて殴りかかる。
地面は大きく凹み、更に周囲にヒビが走る。
すると、一空はすぐに後方に飛び回避した。
だが、キメラは一空を追撃せずにそのまま翼を広げ上空へ飛び上がり、空中で停止する。
「ハァー……ハァー……ハァー……」
息を切らしながら、一空を睨むキメラ。
そして息を整えながら一空の力を考え出す。
「(なんだ、あの力……オレの体を簡単に切り裂くとは、あのオンナと同じ魔法じゃねぇな……)」
一空は下からキメラを見つめていた。
すると、右手にしていた短刀が煙となって消える。キメラもそれを見ていたが、動こうとはしなかった。そして一空は、再び唱え出す。
「何物も貫き、強靭な弦を持つ弓矢を出現させよ!」
そして右腕のゲージがもう1本なくなると、目の前に弓と1本の矢が出現した。
そのまま一空は、矢を持ち弓に合わせキメラを目掛けて引き始める。その際、大きく息を吐いて吸った。
一方でキメラは新たな武器の出現を確認すると、更に上空に飛び上がり、ホールの屋根近くまで行き停止する。
「(ここまで、人の腕力で矢が飛ぶことはあり得ないだろ)」
キメラはそう決めつけると体力を回復させていた。
一空は限界まで弓を引き、息は止めながらキメラに標準を合わせる。右腕は小さく震え出し、長くは引っ張り続ける事は出来ない状態まで至る。
そして、一気に溜めていた矢を放つと同時に止めていた息を一気に吐き出した。放たれた矢は一直線にキメラに飛んで行き、勢いが弱まる事なく、キメラの右翼を貫いた。
「なに!?」
キメラは飛んでくる矢が早すぎて、認識出来ず避けられなかった。
右翼を撃ち抜かれ、空中で留まる事が出来なくなり、落下し地面に打ち付けられるキメラ。
一空は弓を左手に持っていたが、キメラが落下してきた直後、短刀同様に煙となって消えていた。
「フゥー……フゥー……」
一空は少し息が切れ始めていた。更には、体が先程よりも重く感じ始めており、長く戦うことができないと理解し始めた。
そして、キメラは地面に打ち付けられた衝撃が残っているのか、ヨロヨロっと立ち上がる。
「なんなんだお前は!」
キメラも相当体力を削られるが、次の一撃で一空を消し去る力を溜め始める。
そして、一空は最後の攻撃をする為に残りの体力を絞り出し唱える。
「斬れる事なく、重い一撃を与えられる剣を出現させよ」
右腕の最後のゲージがなくなると、右手に西洋の剣が出現した。それを両手で持ち、正面で構える。
「これで……終わらせる!」
徐々に思い通りに動かなくなってくる体にムチをを打って走り出す一空。
キメラも右手を上げると、両腕の黒い球も右腕に集合し溜めたエネルギーが右腕を覆い出す。
そしてキメラも、一空に至近距離で放つ為に走り出す。
「うぅぉぉぉぉ!! 吹き飛べぇーー!」
先にキメラが左足を踏み込み、力が溜まっている右手を前に突き出した。その直後、一空が両手持つ剣を真横にし、キメラの拳を避けるように左に体を反った。そのまま、倒れて行きながらキメラの腹部めがけて剣を思いっきり振り抜いた。
「ぐぅぅがぁあぁ……」
キメラの拳は空を切り、一空の勢いのついた剣が腹部へめり込んでいた。決して斬れない剣だった為、そのまま振り抜かれるとキメラは後ろへ倒された。
そしてキメラが同時に放たれたエネルギーが、壁へぶつかり大きな音がホールに響き渡った。