2章⑯ アポロ乱入
一空の落下していく中庭には、幸い多くの木々が茂っていた。そして落下する一空の真下には木があり、そこへ突っ込んだ。
「いだぁっ、いでぇでぇ、いてぇ……」
木の枝や葉が多く生い茂った事が幸いして、クッションになり切り傷のみで済んだ。最後は、お尻から地面に落ちた。
「はぁー、マジで焦った……木の上で良かった」
体についた葉っぱや枝を払って立ち上がった。そして、上を見上げて叫んだ。
「上はどうなったんだ! 彩音ー!」
一空は、屋上の状況が気になり下から叫んだが、反応はなかった。
「返答なしか……とりあえず屋上に戻るか」
そう言って、その場から動いた時だった。大きな音と共に、壁から東堂が吹き飛ばされる様に飛び出て来て、一空の目の前を通った。そして東堂は空中で体勢を整えて受け身を取っていた。
「と、東堂!?」
一空は驚き、東堂を呼んでいた。それを聞き、一空の存在を認識し視線を向けると一空の方へ向かって走ってくる。
「(嘘だろう! もう武器は出せないって時に……)」
そう思い後ろに下がった時、東堂は一空が思いもしない行動を取った。
「今すぐ伏せろ! そのままじゃ、死ぬぞ!」
東堂は一空に向かってタックルして、一空ごと地面へと倒れた。その行動に一空は目を疑った。次の瞬間、倒され仰向けになった一空の上を炎の刃が通過し、中庭の木々が切られて燃えると消え去った。
「熱っ!」
「危ないとこだった……大丈夫かい?」
東堂は一空を、心配する言葉をかけると、それに軽く頷く一空だが、全く今の状況が理解出来ず戸惑っていた。
「あ、あんた敵だよな……なんでこんなことしてんだ?」
「すまない……ちょっと前までの記憶が曖昧なんだ……」
東堂は一空の問いかけに申し訳なさそうに答えた。
「はぁ?」
一空が首を傾げていると、遠くから部長の声がした。
「東堂、無事だろうな? さっさと戻って来い!」
「すまない、今行く!」
そう言って東堂は飛んできた方向に向かって走って行った。一空は『ポカーン』とした顔をしていたが、部長の声も聞こえたこともあり、すぐに東堂の後を追いかけた。
追いついたそこには、部長と東堂、そして両手両足と背中から炎を出している人影があった。
「何だよ、あれ……」
その声を聞き部長が振り返る。
「いいとこに来た。お前も手を貸せ、あの神やろうをぶっ潰す!」
「え?」
思わず聞き返す一空。
「俺達の前にいるアイツは、君達にホアロと名乗ってた奴だよ」
「え、あれが、ホアロ!?」
東堂からの説明に目を疑った。一空には見るからに別人にしか見えなかった為、驚いていた。すると、ホアロが叫ぶ。
「あぁぁぁぁーー台無しだぁあ! お前、いつから分かってた!?」
部長に対してイラつきながら問いただす。
「お前が馬鹿なだけだ。〈アポロ〉の名を継ぐ者」
「ちっ……ここの奴らを使って戦わせたのは良かったのにヤロウ、情報が違うじゃねぇか」
ホアロことアポロは『ボソッ』と呟く。その一瞬、よそ見をした間に東堂が、アポロの懐に入り込み、大剣で斬りかる。だが、それを片腕で受け止めるアポロ。
「弱りかけのお前じゃ、相手にならねぇんだよ」
受け止めた腕を払い、東堂の腹部に炎をまとっている足をねじ込んだ。
「ぐはぁぁっ……」
焦げ臭く、東堂の腹部が焼けてくいく。ズルズルとどんどんアポロの足が腹部に入っていく。
「このまま、貫通してやろうか?」
笑いながらアポロは東堂に言ったが、東堂はそれを見てニヤける。
「なんだ、その顔は?」
すると、東堂はアポロの足を掴んだ。『ジュッ』と音がして、手が溶けそうで痛いはずなのに東堂は離さなかった。アポロはその行動を見て、ふと部長の方を見た。
「気づくのが遅い」
部長は右手で銃剣のグリップを持ち、左手で銃口部分を支え、右手でトリガーを引いた。そして、銃口からレーザーが放たれ、アポロを包んで吹っ飛んでいった。そして、『バッゴォォーーン』という音が辺りに響き渡った。部長は持っていた武器を肩に乗せて東堂に呼びかけた。
「東堂、無事か?」
そして煙の奥から声が返って来る。
「なんとか生きてるぞ……」
この状況に一空は、ただ見てるだけだった。そして部長に話しかける。
「部長……どういう状況なんだ?」
「あぁ、まぁ話せば長いが端的に言えば、東堂のヤロウをぶっ飛ばして正気に戻した。それと、ホアロの正体を暴いたら、奴が本性出したってとこだ」
「??」
全く理解が追いつかない一空は、頭を傾けていた。それを見て、部長は一度ため息を漏らす。
「分かったよ、奴には最大火力で撃ち込んでやったから、すぐには戻ってこれねだろう。だから、経緯を話してやる」