2章⑪ フラッグゲーム
「北の地方で競技とかにもなっている有名な、あれか?」
「そうです。ルールは多少変更しますが、想像通りのものです」
部長は知っていたのかすぐに反応していたが、部長以外の世界征服部のメンバーは勝負内容を理解できていなかった。
「部長、フラッグゲームって何ですか? というか、そう簡単に勝負受けていいんですか?」
彩音が部長に小声で問いかけると、東堂に向かって部長が勝負内容の説明を求めた。
「東堂、こちらは勝負を受けるんだ。こちらは勝負内容を知らいない奴もいる。まずは、その戦闘態勢を解いて、説明ぐらいはしてくれるよな?」
部長は東堂に向けて要求をすると、部長以外のメンバーがストラップに手を伸ばしているのを下げるように部長が合図する。すると、東堂も自身の武器を元のストラップに戻し、他のメンバーにも戦闘態勢を解くように指示を出す。それに従うように各メンバーも武器をストラップに戻した。
「では、《フラッグゲーム》について簡単にご説明いたします。」
――――――
《フラッグゲーム》とは北の地方では、1つのスポーツとして扱われているものです。本来のルールは、詳細に決まっていますが、今回はルールを簡略化したもので行います。
今回のルールは3つ。
1つ、各陣営ごと3本のフラッグを所持し、それぞれ好きな箇所に配置する。敵陣営は、先に3本のフラッグを奪うと勝利となる。
2つ、各陣営ごとにリーダーを決める。リーダーの役割は特にないが、敵陣営に倒されるとその時点で倒された陣営は敗北となる。
3つ、戦闘スタイル、参加人数、使用武器共に限定はしない。
以上が、今回の《フラッグゲーム》のルールとなります。
――――――
「ちなみに、制限時間は2時間としフィールドは、三原学園の第一校舎のみとします」
東堂は簡単に《フラッグゲーム》のルール説明を終えると、竜胆や彩音はルールを理解し頷いていた。
「なるほど、リーダーを倒すか、フラッグを先に3本取った方が勝利か」
「その通りです。簡単な勝負でしょ」
遅れて一空がルールについて理解すると、竜胆が東堂に問いかけた。
「そっちは5人、こっちは4人って時点でこっちが不利じゃないか?」
「確かに、本来ならば人数制限をするところを今回のルールではしていないので指摘されても何もしないのですが……今回は、こちらがちょっとしたハンデを負うのはどうですか?」
その答えに少し驚く竜胆。竜胆自身、ルールなのでと突っぱねられると思っていた事を、まさかハンデを負うと言いだした為だった。
「ハンデというのは?」
「こちらの1名は、守備のみを行うというのはどうでしょう? まぁ、これをどう捉えるかはそちら次第ですけど」
その提案に対して部長が答えた。
「そちらが、そうしてくれると言うのならそれで問題はない。で、何分後に勝負を始めるんだ?」
「そうですね……フラッグの設置や戦術相談も含めて1時間後でどうでしょう? ちょうどチャイムがなる時間ですので、それを開始の合図としましょう。そして、あなた方はこちらの校舎側から。私達は真反対の場所からスタートとしましょう」
東堂の提案に部長は頷いて承諾した。
「では、1時間に……」
そう言うと三原学園生徒会メンバーは、生徒会室を後にしていった。その後、部長が他の3人の方を振り返り口を開いた。
「それじゃ、まず言いたい事がある奴は自由に言っていいぞ」
その問いかけに1番目に申し出たのは、竜胆だった。
「部長、何故独断で勝負を受けたんですか? 理由を教えて下さい」
「それは、この手紙だ」
そう言って部長は彩音に渡して返してもらった手紙を見せた。
「これは……」
それを見て一同は驚いた表情をした。そこにはある一文が書かれていた。
――――――
『僕は僕でなくなっている』
――――――
「これは東堂の字だ。これとさっきの対応からの推測だが、奴らは【神の名を継ぐ者】と戦って何かしらをされたと思われる」
「そうですよね。東堂さんが、あんなこと言うとは、やっぱり思えませんし!」
彩音は安堵した表情で前のめりに発言した。
「あいつ自身も手紙の内容は覚えていないみたいだしな。それに、戦ってからそう時間もたっていないと考えると、まだ奴らが潜んでいる可能性もある。それをあぶり出す為にも勝負を受けた」
「そう言うことですか……」
竜胆は手を口元に持っていき、口元を隠しながら呟いた。
「それに、戦ってぶっとばせば、元に戻るんじゃないかと思ってる」
「その発想じゃ、壊れた物を叩いて直すのと変わらないんじゃ……」
一空が部長に聞こえないようにボソッと呟く。
「それで部長、どのような戦法で行くんですか? 考えてはいるんですよね?」
竜胆は部長の理由に納得したのか、直ぐに勝負に向けた話を切り出した。
「あぁ、今回の《フラッグゲーム》で肝になるのがフラッグの争奪だ。いくらハンデを貰ったといえ、人数差は変わらない。そこで今回は守ることはしないで、攻める作戦で行く」
すると、彩音が反論する。
「それだと、相手に先にフラッグを取られて終わりじゃないですか?」
「彩音、思い出してみろあいつらは私達を二度と抗えないようにするって言ってるんだ。そんな奴らがフラッグなんて狙うか?」
「あっ! 確かにフラッグなんかより、私達を直接狙いますね」
彩音は部長の返答に軽く頷きながら答えた。
「まぁ、読みが外れてフラッグを狙われたら終わりだけどな」
「部長の読みが合っていることを信じますよ」
「それで、詳細な作戦だが2チームに分けてフラッグ争奪を行う。チームは私と万城、彩音と竜胆だ。チーム内の役割だが、敵と遭遇した場合は、片方が戦闘しもう片方は、フラッグを優先して行動する」
それを聞き、3人とも頷いて反応する。
「私の方は決めているから、彩音達の役割はそっちで決めろ。それとリーダーだが、万城とする」
その発言には、3人と驚いた表情を部長に向けた。
「部長、なんでそいつをリーダーにするんですか? やられたら負けなんですよ!」
「さすがに一空じゃない方が、いいんじゃないですか? 本人も驚いてますし……」
「な、なんで俺!? それはあんたがやれよ!」
それぞれ部長に対して意見を言うが、部長の意見は変わらなかった。
「いいか、奴らは私が持っているストラップのこともあり、優先的に私を狙って来るはずだ。彩音や竜胆もリーダーにしたとしても、相手にはお前らの情報もあることから、対策は取られているはずだ。だが、奴らの中で情報が何もないのが万城だ。そこをリーダーとして来るとはさすがに考えていないだろう」
「裏をかくつもりなんでしょうが、納得ができないです!」
竜胆が部長に食い下がる。
「だから、先程のチーム分けだ。私が戦闘を引き受け、その間に万城がフラッグを取る。お前も知ってるだろう私の強さを。しいて言えば、唯一あの中で私と対等に戦えるのは、私と同類のストラップを持つ東堂だけだ」
そう言って竜胆の反論を跳ね除ける。竜胆も部長の強さを知っているだけに、反論することができなかった。だが、そこで一空が口を挟んだ。
「もし、あんたが東堂以外と戦闘した直後に、俺が東堂と当たったらどうするんだよ俺は?」
「そんなの、後は私なしでやるんだよ。何の為に戦闘訓練してたんだ。倒されないように私の元に連れてくるか、逃げ続けろ。お前が倒されたら全て終わりだからな」
「えぇ……無茶ぶりすぎる」
「さぁ、時間も限られているから、サッサッと次の話に移るぞ」
部長はそう切り返すと、相手戦力と東堂達のストラップ武器やフラッグ配置位置の話し始めた。そうして、勝負開始時刻5分前になった。