2章⑩ 東堂の心変わり
その東堂の問いかけに、部長だけでなく彩音や竜胆も驚いた表情をした。すると竜胆が声を荒げた。
「おい、お前何言ってんだ!」
「そうだよ、東堂さん。今までそんなこと言ったことなったじゃないですか。何かあったんですか?」
「それはどう言う意味だ……東堂」
最後に部長がドスの効いた低い声で東堂に問い返すが、東堂は怯むことなく、部長の問いに爽やかに答えた。
「言った通りですよ。もう辞めましょうよ、【神の名を継ぐ者】に対抗することを。あの方々に逆らう事がどんなに無意味なことだったか分かったんですよ」
その答えに部長は、奥歯を噛みしめていた。
「僕達生徒会は【神の名を継ぐ者】と戦ってそのことを理解したんです。今まで、どんなに愚かな事をしていたのか。【神の名を継ぐ者】は本当に神として崇めるべき存在ですよ」
その答えに我慢出来ずに、竜胆が吠えた。
「ふざけるな! さっきから聞いてれば、【神の名を継ぐ者】と戦い心でも折られたか? そんなことで心変わりでもしたってのか! あいつらは俺達と変わらない人間だぞ!」
だが、東堂は軽く首を振った。
「あなたはまだ分かっていないだけです。【神の名を継ぐ者】がどんなに神々しいか。目の前にして初めて分かるのですよ、あの素晴らしさが」
「そんなことあるか! お前も分かっているだろう、奴らが行なった事、やろうとしてる事を! そんな奴らに従えってかよ!」
竜胆は東堂に【神の名を継ぐ者】が何を企んでいるかを改めて訴えたが、それが東堂に響くことはなかった。
「従えばいいではないですか。逆に何が不満なのですか? あの方々こそ、世界を統べる者に相応しい方々ですよ」
「……本気で言っているのか?」
「もちろんです」
その答えに竜胆だけでなく、彩音も首を横に振り信じられないという顔をしていた。すると部長が口を開く。
「東堂、お前変わったな。前は、同じ気持ちだと思っていたんだがな」
残念そうに話す部長に東堂は笑顔で答える。
「変わってはないですよ、気づいただけです。僕が理解した事実を、世界征服部の皆さんにも知ってもらって、僕達と同じようになってもらいたかったんですが……先程からの返答からすると、そんな事はないみたいですね」
東堂は目を瞑ってため息を漏らした。
「話はもう終わりだ。もう話す事はない。帰るぞ、みんな」
そう言って部長が立ち上がると、他の3人も促されて席を立った。だが、東堂がその足を止めるように声を掛けた。
「1つ聞きますが、まだ【神の名を継ぐ者】に抗うんですか?」
その問いかけに部長が足を止めて答えた。
「もちろんだ。そもそも、今はあいつらから攻めて来てるんだ、こっちも黙ってやれる訳にはいかない」
「……そうですか、抗いますか……ならば、素直に帰す訳には行きませんね」
すると立ち上がる東堂。
「どう言う意味だ?」
竜胆が東堂に向かって問い返すと、東堂は腰からストラップを取り出すと紐を引っ張った。すると、東堂の目の前に大剣が出現し机に突き刺さった。東堂は大剣の取手を握ると、大剣を部長に向けた。
「あなた達には、これから【神の名を継ぐ者】に、二度と抗えないように僕達と勝負をしてもらいます。それが、あの方々の為になりますしね。もし、断るなら……」
そう言うと、ホアロ以外の生徒会メンバーがストラップを取り出し紐を引っ張った。各々が自身の武器を出現させ、戦闘態勢をとる。そしてホアロは、入ってきたドアを塞ぐように立った。
「なるほど、お前はもう奴ら側と言うことか……」
部長は東堂に向かって辛そうに呟いた。部長以外のメンバーは、相手の戦闘態勢を見て咄嗟にストラップを握る。
「それで勝負していただけますか? それとも、承諾していただけないという事でしょうか?」
「いや、その勝負受けてやるよ。断ってここで襲われるよりましだ」
それを聞くと東堂の口角が少し上がる。部長以外のメンバーは返答に驚いた表情をする。そして、部長が東堂に勝負内容について問いかける。
「で、どんな勝負をするんだ? 一騎打ちか、チーム戦か?」
「いいえ……勝負内容は、《フラッグゲーム》でどうでしょう」