2章⑦ 決断と部長への手紙
竜胆と一空の勝負と部長からの衝撃の真実を語ってから1日たった。
本日から学園の新しい年度の開始日であり学園の生徒が多くいた。初日ということもあり、午前中で授業なども終わり、午後からは部活動が様々な所で行われていた。
そして、世界征服部の扉前には、彩音がドアを開けると部長がすでにいつも椅子に座っていた。だが、竜胆や一空の姿はなかった。彩音は中に入るとドアを締めて、部長に話しかける。
「部長、昨日の話ですが、やはり一空には、いきなり全てを話し過ぎだと思います。私でさえ徐々に聞いたものをいっきに聞いたらどうなるか……」
彩音は一空の状態を心配するように部長に進言した。
「彩音は万城のことが心配か。昨日も言ったが、決めたのはあいつ自身だ。私は忠告はしたぞ。それでどうなろうが、私には関係ない」
部長は冷たく彩音へ答える。
「さすがにそれは、冷た過ぎです。それに、昨日のあの件だって話してないじゃないですか」
彩音は部長に近寄り小声で話す。
「あれこそ、まだ言うべきじゃない。それにあれが、なんだったかも不明なんだ。それを万城に伝えてみろ、余計に混乱するぞ。……まぁ、もう来ないかもしれないがな……」
部長は諦めているように話した。
「……それは、何とも言えませんが……真との勝負後に起こった事は、やはり伝えておくべきでは……」
彩音は部長に反論したが、部長は首を横に振る。
「あれは、私と彩音だけの秘密としておく。竜胆にも話すな。もちろん万城にもだ。いいな」
部長は彩音に釘をさす勢いで言い返した。そこで彩音は1つの疑問が出ていた。
「一空は分かりましたが、なぜ真まで言ってはいけないんですか? 問題はないかと思いますが?」
「……とにかく、この話は終わりだ」
部長は少し沈黙したのち、強制的に話を終わらせた。
彩音は納得がいかない為、部長に追求しようとした瞬間、部室のドアが開く音がした。その音に気づき彩音は、振り返った。
「えっ!」
そこにいた人物に少し驚く彩音と同じ様に部長も少し驚いていた。
部室のドアを開けて立っていたのは、一空だった。
「一空、どうしてここに?」
彩音からの問いかけに一空は疑問に思い頭を少し右に傾けたが、すぐに返答した。
「どうしてって、俺はここの部員だし部室来ちゃいけないのか?」
当然のことの様に聞き返す一空に、彩音は目を見開いて何度か瞬きをしていた。そこに部長が一空に話かける。
「よく来たな。昨日の話を聞いてもう来ないんじゃないかと思ってたぞ。あんなの聞いてよく、またここに来たな」
部長はすこし呆れるように一空に対し伝える。
「まぁ、確かにあんなこと聞いて驚いたり、落ち込んだりして、自分だけじゃ何の整理も出来なかったよ。だから、とりあえずあんた達と、一緒にいて昨日の話が本当かどうか確かめる事にした。独自でやるより、張本人がいるところの方が確かめやすいしな。それに、世界征服もしないといけないし、手伝ってもらえる所はここしなないからな」
一空の返答に彩音は何とも言えない表情をしており、部長は鼻で笑った。
「な、なんで鼻で笑うんだよ!」
「いや、昨日の事を聞いて、本当か確かめようとするか? 普通なら信じないし、ここへなんて来ないだろ?」
部長は、少し笑いながら一空に言い返した。
「バカにしてんのか!」
「いいや、そうじゃない。お前がそう決めたのなら納得できるまで、いればいいし、行動すればいい。私は反対などしない。だが、ここにいる以上は部活動はやってもらうぞ」
一空はそれを聞き、部長を真っ直ぐに見つめて答える。
「あぁ、やってやるよ。だが、命を奪う様な事は絶対にしねぇからな。もし、するよう事があんならあんた達と戦って止めてやるからな!」
一空は自らの信念を部長と彩音に宣言した。
「私達は基本的には学園を守るだけだ。ただ、命を狙われる、命がかかる場合は状況が変わるがな。にしても、やたらと命について力説するなお前は」
「俺はただ、無意味に命を奪ったりする事が許せないだけだ」
それを聞き部長は、一空を茶化す事を言う。
「それはいいが。まぁもし、私が敵なら今の素人のお前こそ、無意味に命を差し出しているような奴だと思うがな」
一空はそれに対しては、何も言い返せなかった。
「とりあえずは、戦闘訓練でもして素人から上がって見せろ。センス自体は良さそうだしな」
部長は一空に対して助言をすると彩音も同じ様な事を話す。
「確かに、昨日の真との勝負を見る限りではセンスは良さそうだね。部長、一空の戦闘訓練は私が付き合ってもいいですか?」
彩音の発言に部長は頷く。
「元々、そのつもりだ。彩音、ガッツリしごいてやれよ。ある程度戦えるぐらいにまではしてやれ」
「はい。じゃあ、行こうか一空!」
「え、どこに?」
そう言って彩音は一空を引っ張って部室を出て行った。部室には、部長1人になり独り言を呟く。
「あいつは凄いな……あんなことを言うとは、思ってもいなかったよ。お前はこうなると思ってたのか?」
そう誰もいない部室に、問いかけた部長。そして、部長の後方から返答が返って来た。
「いいや、全く」
部長は椅子を回し窓の外を見ると、そこには閻魔を名乗っていた人物がいた。
「それで、どうするんだこれから?」
「とりあえずは様子見だ。それより、あいつらと最近、連絡が取れなくなったから、会いに行く予定だが、何か知らないか?」
そう言って部長は机の引き出しを開けた。そこには1通の手紙と裏返しにされている写真たてが入っていた。そこから手紙を取り出し、再び引き出しを閉じた。
「あぁ、奴らか……噂じゃ最近【神の名を継ぐ者】とやったと聞くがな。本当かは知らんが……」
「噂は入ってきている。私の数少ない知り合いだし、今後の事も話し合おうとしていた矢先だったから、少し心配なんだが」
部長は手紙を手に持って、それを前後に振りながら、話す所に閻魔を名乗る人物が割り込む。
「そうそう、[あの集団]が動いているのは知ってるだろ。お前のとこにも来るかもしれんから気をつけろよ」
「分かってる。……それより頼みがあるんだが」
部長からの頼み事を聞く前に閻魔を名乗る人物は、持っていた扇子を口元に当てた。
「ほぉ、珍しい。とりあえずは聞いてやろう」
「1つ目は、お前のとこに預けた古臭い奴を呼び戻してくれ。2つ目は、奴らに会いに行くからお前の移動手段を使わせろ」
閻魔を名乗る人物は、それを聞きため息を漏らした。
「前にも言ったかもしれんが、頼む時はもう少し言い方があると思うんだがな」
「で、やってくれるのか? やらんのか?」
閻魔を名乗る人物の問いかけには、聞きもせずに閻魔に聞き続けた。
「分かった……1つ目は時間がかかるぞ。それでもいいな」
「頼んだ。2つ目は、行くときに連絡するからそん時に頼む」
「はいはい……じゃ、私は帰るぞ。……たまたま通りかかっただけで、こんななるとは思わなかったわ……」
閻魔を名乗る人物は、ブツブツと言いながら振り返り、黒いゲートを出現させ入って行った。それを見送ることはせずに、椅子を回転させ部室の方に戻し、机に向かった。
「さて、私も準備するかな」
そう言って持っていた手紙を上着にしまい、椅子から立ち上がり部室を後にした。