6章㉕ 獣王の四肢
『腕』の発言を聞くといっ時『心臓』は無言だった。
無言の応答に『腕』が更に問い詰め様とした時だった。
『心臓』の小さな笑い声が聞こえた。
「?」
その声を聞き『腕』は一瞬聞き間違えかと思ったが、徐々に『心臓』の笑い声が大きくなった。
「何がおかしいんだ『心臓』」
すると『心臓』が笑い終わりに答えた。
「あぁ、いやアンタがそんなこと言うとは思わなくてな。本当に私の事を調べたのか?」
「どう言う意味だ?」
「アンタは私の事を分かってないって事だ。まぁ、質問に答えるなら、私は裏切り者じゃない。そもそもスパイとしてアイツらと一緒にいただけだ」
「それじゃ、その元仲間達が何故この世界にいる? お前が手引する以外に、考えられないだろ」
その発言に『心臓』は軽くため息をついて答えた。
「有り得ないよ。私がアイツらをここに呼ぶメリットがない。それに、私がこの世界へ自由に出入り出来ない事くらい知っているだろ『腕』」
「っ....」
「私を厄介者扱いしたい気持ちは分かるが、根拠の無い事で迫られるのは、仲間として辛いな」
「....」
「それじゃ、用事も終わったようだし私は抜けるよ。私も暇じゃないんでね」
そう言って『心臓』は通信を切った。
その後しばらく『腕』は黙って残っていると報告を聞いていた女性が『腕』に声をかけた。
「....『腕』様?」
「....あぁ、すまない。私も通信を終わろう」
そのまま『腕』も通信を切った。
そして最後の女性も通信を終了し、報告用に繋がっていた通信が完全終了した。
ーーーー
時は少し遡る。
場所は東の砂漠地帯の端。
そこに突然、人が通れる程の長方形のゲートが出現する。
出現したゲートからぞろぞろと〈神守護〉が現れる。
「本当にここであっているのか?」
「一面砂漠だな」
サードとフィフスが疑問そうに呟くと、セカンドが答えた。
「座標に間違いはない。現に後ろの方は完全に地面もなく、宇宙空間みたいになっているだろ」
「本当だ〜。兄ちゃん、兄ちゃんほらここ見てみなよ」
フォースがその光景を見ると少しテンションが上がっていた。
皆が少しざわついていると、ゲートからファーストが最後に出て来て空気を変えた。
「あまりはしゃぐなお前ら。各部隊長は、人数確認をしろ」
ファーストの一声で、セカンドからフィフスまでが自分が連れて来た部隊人数を確認し、全員揃っている事を報告した。
「で、ファースト。戦う相手は何処にいるんだ? なんて言ったかな....確か【獣王】だったか?」
「フィフス、聴いてなかったのか?」
「?」
セカンドの言葉に首を横に傾げるフィフス。
「【獣王】の戦力を完全に把握していない状態で攻撃は仕掛けないと言ったろ。先に相手の戦力を確認してから、攻め方を考えると」
「そうだったけか? まぁ、俺は全力でぶちのめせる相手がいれば何でもいいや」
「あのな....」
フィフスの態度にため息を漏らすセカンドに対して、フォースはくすくすと笑っていた。
「それで、どの隊から偵察を出すんだ? そもそもこの一面砂漠の何処に【獣王】がいるのか分かっているのか?」
サードの問いかけに、セカンドが答えようとしたが割り込んでファーストが答えた。
「各隊から2名選出し、放射線状に偵察に出てもらう。わざわざ宣戦布告し、場所まで指定して来たんだ、必ず何処かで待ち受けているはずだ。それを見つけて最初の判断をする」
「了解」
ファーストの素早い指示の下、各隊10名程の中から2名選抜し、偵察へ出した。
「なぁ、兄やん。やっぱりセカンドの立場がないように見えるけど、私の気のせい?」
フォースが小声でサードに呟いた。
「気のせいじゃないだろ。ファーストの補佐であるセカンドの仕事が出来てないんだからな」
「そっか」
サードの発言は、小声でありながらも近くにいたセカンドに聞こえる様に呟いていた。
それを聞いたセカンドは、特に何も言わずにその場から少し離れた。
そして残ったメンバーが偵察隊の帰りを待っていると、続々と偵察隊が帰って来た。
だが、大半の偵察隊の報告では【獣王】の情報はなかった。
しかし最後に帰って来た偵察隊の報告にて、【獣王】と思われる部隊を見つけたと言う報告を受ける。
「目視しただけでも、部隊の人数は約200はいました。また、部隊全員が完全な人でなく何かしらの動物と思われる姿が交じった姿をしていました」
「獣人という奴らか? 正しく【獣王】の部隊って感じだな」
「なるほど、それで向こうはこちらを認識したか?その後の行動はどうだった?」
ファーストが、報告して来た者に問いかけると、すぐさま回答が返って来た。
「確実ではないですが、認識されたと思われます。ですが、向こうは追って来る事はありませんでした」
「見つけておいて、放置したのか」
「と言う事は、向こうは万全の態勢。もしくは、恐れる事はないと認知されているってところかな」
セカンドに続きフォースが自論を述べた。
「フォース、たまにはいい事言うな」
「またまた、いつもこんな感じでしょ兄さん」
いつものように絡んでくるフォースにサードは、そっぽを向いた。
「よし、それじゃ攻め込もう!」
「お前は、戦闘狂かよ....」
「え? 違うのか?」
サードの呆れた顔にフィフスが再び首を傾げていると、部下達が耳打ちで説明をし始めた。
そんなフィフスは置いてファーストが、話を進める。
「フォースの発言はその通りかもしれない。偵察隊を追ってこない時点で、相手は知られても問題無い状態と受け取るのが良いだろう」
「それは、こちらが攻めて来る事を誘っている?」
セカンドの小さい呟きにファーストが答える。
「私も同意見だ、セカンド」
「っ!」
突然の同意にセカンドも驚いていた。
「それは待ち伏せをしているって事か?」
「あぁ。倒すべき相手がいる状態で、偵察もなければ襲って来たりもしない。なら、向こうは我々に負けない戦力があるか、一網打尽に出来る打算があると言う事とも言える」
サードの問いかけにファーストは自身の考えを述べた。
その考えに部下達は頷いていたが、部隊長達は違った。
「だがよ、それはアンタの考えであって必ずしもそうじゃないだろ」
状況を理解したフィフスがファーストに意見する。
「でも、可能性としては捨てきれない物だよね。なんせ向こうは200人居るんだしさ」
「数の戦力としたら圧倒的にこちらが不利だな。だが、俺達と同レベルの奴が200人居るとも思えないな」
「俺的にはそっちの方が燃えるけどな!」
「戦闘狂は黙っててよ」
サード、フォース、フィフスがそれぞれの意見を出し合い続けていた。
ただ組織のトップであるファーストの意見を丸呑みにせずに、自身達の意見を出し共に戦略を考えていた。
「私としては罠を仕掛けている線で進めたいが、君達はどうだい?」
ファーストが話を進める為に問いかけると、部隊長達が答え始める。
「俺は賛成だな」
「兄やんそっちなの? 私は、戦力側かな。獣人の戦力を高く見積もってさ」
「俺は燃える方だ!」
そして最後にセカンドが少し考えてから答えた。
「俺は....どちらの可能性も高いと思う」
その答えに、サードとフォースが納得しない言葉をぶつけた。
「なんだその答えはよ。どっちも可能性があるから絞ってるんだろうが」
「優柔不断男子は嫌われるよ〜。どっちも欲張るのは何にも決めてないと同じだよ」
「それは分かっているが、やはりどちらの可能性も高いと思うんだよ」
その答えに呆れた様にサードが横に顔を振る。
「それで、どうするのファーストさん。多数決で決まらなかったけどさ」
フォースがファーストに問いかけると、悩む事なく答えた。
「ならば仕方ない。今回は私の指示で作戦を実行させてもう。異論はあるか?」
その問いかけに、他の部隊長達から異論の声が上がる事はなかった。
「では、このまま作戦会議に入る。各部隊長は副隊長と共に会議に参加。残りのメンバーは周囲の警戒を交代で行い休息を取るように」
「了解」
その後、各部隊長達から今後の流れをメンバー達へ伝え、副隊長を連れ会議へと参加した。
ーーーー
同時刻、東の森
一空達はあれから森の中を進み、突然現れた吊り橋前で立ち止まっていた。
「やっぱり、これを渡るしかなさそうだな」
「少し奥まで見て来ました、ずっと奥まで地面が割れていますし、橋もここしかなさそうです」
一空と仁が南側から帰って来ると、北側から翡翠と双葉が帰って来て東堂に報告した。
「そうか。2組共確認ありがとう。なら、行くしかないな」
そう言って一空達は目の前の吊り橋を渡り始めた。
「にしても、いきなり地面が割れてるのは驚いたな。吊り橋もあるのもだけど」
「【獣王】らが架けたにしては、かなり技術が古く見えるので、もしかしたら別の何者かが作った物かもしれませんね」
翡翠が吊り橋の状態を見て一空に話した。
「確かに古びた感じだけど、見た目以上に頑丈だよな」
「....」
一空が目線を仁の方に向けたが、仁は何かを考えているのか反応はなかった。
そのまま一空達が吊り橋を渡りきると少し開けた場所となっていた。
その次の瞬間だった。突然、甲高い動物の鳴き声が、何重にも重なって辺りに響き渡った。
甲高い動物の鳴き声に、一空達は耳を塞ぐが完全に防げずその場で立ち止まってしまう。
「な、なんだこの音は!?」
「耳が痛い!」
「金属音の様で気持ち悪い!」
甲高い動物の鳴き声が響き続いていると、一空達の前に奥の森からぞろぞろと人の姿が現れて近付いて来る。
「次はなんだ!?」
「敵襲だったか」
「アイツらは、この音が聞こえてないの?」
奥の森からは途絶える事なく出て来ていた。
「このままじゃ、何も出来ない!」
「まずはこの音をどうにかしないといけないですね!」
すると東堂が楯守へ視線を送ると、楯守が軽く頷いた。
楯守は腰元から亀の甲羅型のストラップを引っ張ると右手に亀の甲羅型の盾を出現させた。
直後、楯守がその盾を頭上に上げると盾の形状が変化し、一空達全員を覆って隔離した。
「音が聞こえなくなった....」
「楯守君助かったよ」
「いえ。でも会長、この盾はそこまで防御力があるものじゃないので大勢で攻撃されたら破られてしまいます」
「分かった。万城君、御神楽戦闘準備をしてくれ。この後、楯守君の盾を解除してあの声の奴を仕留める」
「東堂さん、それは賛成ですけどそいつの位置が分からないと思いますが....」
「そこは俺に任せてくれ。君達は、前から迫って来る奴らを一掃して欲しい」
「分かりました」
一空の返答に続き、仁も返答した。
「それじゃ行くぞ!楯守君!」
東堂が合図を送ると、楯守が盾を元のストラップに戻すと東堂は、渡って来た吊り橋の方へと走り飛び上がると《五源器》のストラップを引っ張り、剣の長さ幅を広げ先程通って来た森の端目掛けて振り抜いた。
『バギバギバギバギバギバギバギ!!』
と物凄い音を立てながら、次々に木々をなぎ倒すとそのまま地面の割れ目に剣を叩きつけた。
すると、割れ目の方から先程まで聞こえていた甲高い動物の声が微かに聞こえたが、すぐに消えてしまった。
東堂の攻撃と同時に、一空と仁が前に出て迫っていた人物目掛けて拳と斬撃波を飛ばした。
その攻撃は先頭にいた人物達にぶつかるとそのまま雪崩の様に後方まで、余波が届いて行った。
その光景に一空と仁が驚く。
「軽っ!?」
「これは....」
更に2人は、空を切るような感覚に戸惑っていた。
「なんか気持ち悪いぞ....」
「なんなんだ、さっきの軍隊は」
周囲に敵の姿が見えなくなり、東堂が近寄って来た。
「2人共無事のようだな」
「東堂の方こそ、大丈夫そうだな。それよりさっきの軍隊なんだが....」
そう口を開いた直後、前方の森の奥から仁の言葉を遮るように言葉が聞こえて来た。
「なるほど、貴方達が侵入者ですね」
「っ!?」
3人はすぐに体を構えた。
そして森の奥から1人の人間が現れた。
「見た所、〈神守護〉ではさそうですが何者ですか?」
「(〈神守護〉を知っている?)」
その人間の返答に、仁の顔が少しこわばる。
「まぁ、聞いてもどうせ答えないのでしょう。だからさっさと排除するのみ!」
そう言ってその人間は突進して来た。
そして右腕を前に突き出すが、東堂が一歩前に出て剣でその攻撃を防ぐ。
『ギィン!』
すると金属音が響き渡る。
「やりますね、貴方」
突っ込んできた人間の右腕には、鉤爪が装着されていた。
すぐさまその人間は後ろへ後退すると、急に名乗りだした。
「この『爪』である私の攻撃を初撃を防ぐのは、あまりいませんよ」
「お前が『爪』だと!?」
「えぇ、私が獣王様の手足である四肢の1人『爪』である!」