6章㉔ 得るための代償
「で、お前ら何者だ?」
一空は、襲って来た3人と姿を見せずに声を出していた者もあぶり出して縄で縛って問い詰めていた。
「こ、この〈神守護〉共が....」
一空達を襲撃した3人は気を失っており、姿を隠していた者のみに質問していた。
が、全く答えようとしない為、翡翠が前に出て来た。
「一空変わって下さい」
そう言って翡翠は、槍を座って縛られている人物に向けて勢いよく突き刺し出した。
「ひぃっ!!」
だが槍は寸前の所で、両足の股に方向を変えて地面に突き刺した。
「へ、へっ!お、脅したって話やしないぜ」
「(どうせ、何もさせないんだからな。黙ってやり過ごすのみだ)」
「そうですか」
翡翠がそう呟くと突き刺した槍を抜いた。
そして、目の前の奴の右足の甲に槍を真上から突き刺した。
「ぐぅっ!!!?」
そのまま翡翠は、槍を何度か捻るように食い込ませていた。
「いっってぇぇーー!!な、何すんだっ...!!」
「何って拷問ですよ。話す気がなさそうなので話させるまでですよ」
翡翠は淡々と答えた直後、勢い良く槍を抜くと次は、縛っている奴の左足の甲に槍を突き刺した。
「うっぐぅぅぁああ!!」
「黙ってれば逃れられると思っていたのでしょう。残念ですが、私は貴方が情報を吐くまで続けます。話さないのは結構ですが、貴方は死んでもそれを話したくない事なんですか?」
「うぅぐぅくっ!!」
近くにいた一空達は、翡翠のまさかの行動に驚き何もする事はなく固まっていた。
思いもよらない行動に頭がついて行っていなかった。
「素晴らしい忠誠ですね。でも私も教えて貰わないと困るんですよ。私の主人がここにいるかもしれないんでね」
そう言って翡翠は再び槍を抜き、次は左肩に突き刺した。
「あ“あ”っぅぅ!!」
「......」
遂に翡翠も無言になり、槍を再び抜いて右肩目掛けて突き刺そうとした。
だが、後ろから槍を握って止めた者がいた。
「!?」
翡翠が振り返るとそこには、仁が槍を後ろから握って止めていた。
「何やってんだ、お前....」
「....何って、情報を聞き出しているんじゃないか」
「何もそこまで....」
「そこまで? コイツらは私達に敵意を剥き出しなんですよ。そう言う関係で、生温いやり方で情報を得られる訳ないだろう!」
徐々に声が荒くなっていく翡翠に仁が少したじろぐ。
「もしかしたら、ここに彩音様がいるかもしれないんだぞ! 何も情報がない今の現状で、コイツらは何か知ってるかもしれないんだ。だったら何としても情報を聞き出すしかないだろう!」
「っ....」
ここがどう言った場所で、目の前の奴らが何者かも分からない今、翡翠が言った事も否定しきれない状況だった。
だが、仁は反論する。
「確かにお前の言う事も分かる。だが、何も出来ない相手を一方的に傷つける必要はないだろう!」
「甘いですね、御神楽」
翡翠はその場で仁の方に体を向けて、正面を向いた。
「今の貴方の行動は、貴方の過去の出来事が影響していると思います。が、いつまでも過去に囚われていては、いつかそこを突かれますよ」
「っ!」
と言った瞬間だった。
翡翠の後ろで縛られていたはずの奴が、縄を切りはなすと背を向けた翡翠に襲いかかって来た。
しかし、翡翠は振り返る事なく槍をそのまま後ろに突き刺した。
「がぅぁっ!?」
奴は、そいつの脇腹に刺さり後ろの木に押し付けられた。
「な、何故だ!!」
刺された奴は、槍の部分を両手で握り引き抜こうとしながら、声を荒げた。
それに翡翠が応え始める。
「簡単な事ですよ。お前の余裕な雰囲気とその回復能力だ」
「回復能力....」
「槍を初めに刺した箇所は今じゃ血も出ず、回復し始めている事に気づいた。そして、お前の余裕な態度から隙を見せれば襲って来ると想定していた」
「くそっ!! 何で抜けねぇんだ!」
そして翡翠は、仁に背を向けて槍の持ち手を押し込みながら、手を滑られせて襲い掛かった奴に近付いた。
そして右手で相手の両手を押させ込み、ポケットから折りたたみの小型ナイフを左手で取り出した。
「もう喋る気はなさそうだから、死ぬか? あぁ、でも傷付いても回復するんだから苦しくて、辛いよな....」
そのまま翡翠は、襲い掛かって来た奴の右首にナイフを突き立てて、ゆっくりと奥へと押し始めた。
ナイフに刃が首に当たると、そこから汗の様に血が溢れ出す。
「ま、まて! そ、それはっ!!」
だが翡翠はその言葉に耳をかさずに、左手をゆっくりと押し続ける。
「俺を殺したら情報が....」
「他に三人もいるんだ問題ない」
「っ!」
それを聞くと襲い掛かった者は息が荒くなり、溢れ出てくる血が首筋を通り垂れていくのに、更に動揺し始める。
そして遂に口を割る。
「わ、わかった! 話すからナイフを止めてくれ! 頼む!」
だが翡翠はナイフを押す手を止めずに呟いた。
「持ってる情報を全部言え」
「うっ....俺達は命令を受けてるだけだ! ここに知らない奴らが来たら、通さずに殺せと!」
「誰の命令だ?」
「それは....」
言い渋ったと分かると翡翠はナイフを押し進める。
「分かった! 言う、言うから!....『爪』と言われる方からだよ!」
「っ!....それはまさか、獣王の幹部の奴のことか?」
「そうだよ! お前ら〈神守護〉が宣戦布告して来たから、こっちは受けてたってんだよ!」
それを聞くと翡翠は、ナイフを離し押さえていた手も離し槍も引き抜いた。
すると、攻撃を仕掛けて来た奴は地面に膝をついた。
「はぁ....はぁ....はぁ....んっ」
その者はナイフを押し付けられていた箇所に手を当てると何かに気付く。
だがその前に、翡翠はそのまま槍を逆にに持ち返ると、柄の底にある石突の部分を勢いよく、相手の後頭部目掛けて振り下ろした。
『ゴッ!』
と鈍い音が響くと、膝をつけていた奴は意識を失い地面に倒れていた。
「得るものは得た」
そのまま翡翠は振り返り東堂の方へと歩いていく。
その途中で仁との横を通る時に呟いた。
「私は彩音様の為なら、手段は選びません。どんな事であろうと」
「......」
仁はそのまま黙って言い返す事はなかった。
そして翡翠が東堂の近くで止まった。
「と、言うわけなので、ここに彩音様がいる可能性が高いでしょう。それに獣王や〈神守護〉までもいる場所だそうですよ」
「あぁ、聞こえていたよ伍代君」
そのまま東堂は、翡翠の行動に何も告げる事はなく、周囲にまだ敵が居ないかを確認しに行った。
残ったメンバーは一旦休憩となった。
その間に一空が翡翠に近付き、話しかけた。
「おい、伍代さっきのは....」
と先程の行動について話そうとしたが、翡翠が自らの左手を強く握りしめていた。
その手から血が流れていた事に気付く。
「伍代。お前、手....」
一空がそう呟くと、そこで翡翠は一空の存在に気付いたのか、一空の方を見た。
そして自身の手から流れる血を見て呟いた。
「これは代償ですよ....情報を得る為のね....」
翡翠は手の血を拭き取り、持っていた医療用のテープを二周程巻き付けた。
「まぁ、私も自分を偽ってたって事ですよ....御神楽の事は言えないですね....」
その時仁は離れた場所にいた為、翡翠の呟きは聞こえていなかった。
その後一空は、何も言わずに翡翠から離れて行った。
そして数分後、東堂が帰って来てから、再度出発した。
ーーーーーー
とある一室にて、女性が目の前にあるマイクに向かって言葉を発した。
「皆様、聞こえていますでしょうか?」
その声は、耳につけた機器から聞こえて来た。
「こちら『腕』、問題無く聞こえている」
「こっちも問題な〜い」
「私の方にも聞こえていますわ」
「『爪』も聞こえています」
聞こえて来た声に答える形で、四人が返答した。
「こちらも皆様の声を受信出来ました。では、状況の報告を『爪』様からお願いいたします」
そして『爪』が話し出す寸前に『牙』が報告を求めて来た人物に問いかけた。
「おい、ちょっと待て。秘書さんよ、何で『心臓』のヤロウはここに参加してねぇんだ?」
「『心臓』様は、獣王様からの直属命令を受けている為、別行動です。その為こちらには参加しておりません」
「また、アイツだけ特別かよ!」
『牙』が愚痴を言うと、それをなだめるように『腕』が入ってきた。
「獣王様のお考えに口出しするものじゃないぞ。それより今は与えられた作戦実施中の報告を聞け」
「はいはい」
「では、報告の方を再開させていただきます。『爪』様よろしくお願いいたします」
女性がそう話すと『爪』が報告を始めた。
「こちらは現状異常はありません。現在、3チームが定時見回りに出ており、そちらからの報告はまだ受けていない状態です。問題が発覚した際には、報告致します。以上」
『爪』の報告が終了すると『牙』が次に報告し始めた。
「異常何てありませんよ。なんせ正面玄関ですし、来たら『爪』か『脚』の失態だしな。てか、暇すぎてつまらないからどっちかに行かせてくれよ」
「報告に無駄なものを入れるな『牙』。それに移動は現状認められない。」
「お堅いな、アンタはよ....」
『牙』のわがままに『腕』が対応すると『牙』はすんなりと引き下がった。
「次は私ですが、問題がなければ先に『腕』から行ってくれるかしら」
『脚』からの発言に『腕』が問いかけた。
「それは、お前の方で問題があったから先に問題がなそうな俺に報告をさせたいのか?」
「まぁ、そんなところよ。『腕』も私が色々話した後に報告するのも嫌でしょ」
その言葉を聞き少し『腕』が黙った後、『脚』の提案を受け入れ報告を始めた。
「分かった、『脚』の提案を受け入れよう。それでは私の方だが、現状例の装置が発動した信号はない。また、各所の目にも映った形跡もなし。その為問題はなしだ。」
そして最後に『脚』の報告が始まった。
「では私の方は、〈神守護〉の偵察兵を確認したわ」
「マジか!どうだったんだよ!」
『脚』の報告に『牙』のテンションが上がったのか前のめりで発言して来た。
「抑えろ『牙』!」
「あいあい」
そして続けて報告が再開された。
「偵察兵を見たと言っても二人だけで、本体は確認してないわ。あちらはこちらの人数を確認して帰ったわ」
「その後、追跡はしたのか?」
「いいえ、深追いはしてないわ。わざわざ向こうに出向く事はないでしょう。それにこちらは既に迎えうてる準備が完了しているのだから抜かりはないわ」
『脚』は少し自慢する様に報告した。
「『脚』、気を抜いて失態などするなよ。お前は一度失敗しているのだからな。その事を忘れるな」
「っ!」
「前回のは、以前の『爪』が戦犯とし排除されているが、お前は獣王様の温情で救われているのだぞ」
「分かっているわ!!そんな事言われなくともね!!」
『脚』は怒鳴るように言って通信を切った。
「あーあ、逆ギレかよ」
「念の為だ、『爪』に渡した『牙』と私の部隊から25名づつ東の砂漠側へ送る」
「ちょ、ちょ、何勝手に....」
『腕』の提案に『牙』が待ったをかけようとしたが、それは想定内とばかりにすぐに『腕』が切り返した。
「『牙』お前には私の残り部隊を渡すから好きにしろ。それでいいな」
「まぁ、それなら」
『腕』の提案に『牙』も納得したのかそれ以上は突っかかってこなかった。
「では、西の『脚』様に25名増援で225名となり、東の『牙』様は200名と、城内50名は変わらずという状態になるわけですね」
女性が最終的な確認をすると『腕』がうなづき了承した。
「じゃ、『腕』の残り部隊早めに俺のとこに回してくれよな」
そう言って『牙』は通信を切った。
「その手配は私の方で行っておきます」
「よろしく頼む。『爪』お前の方も注意しておけよ」
「お任せください」
そして『爪』も通信を切ったが、『腕』はまだ残って女性に問いかけた。
「....『心臓』につないでくれ」
「申し訳ございません。冒頭にも申し上げましたが、『心臓』様にはつながっておりません」
女性は出来ないと伝えるが、『腕』は引き下がらなかった。
「君がそう言うのは仕方ない。なら直接言おう。『心臓』お前がこの報告会を盗み聞きしているのはわかっている。お前に聞きたいことがある」
「『腕』様、勝手な事を言われましても....」
秘書の女性が困惑していると続けて『腕』が発言する。
「『心臓』お前の仲間についてだ。色々と調べさせてもらった」
その発言にいないと思われていた『心臓』の声が聞こえてきた。
「勝手に人の過去を調べるとか、お前は変態さんか?」
「!?」
「『心臓』....やはり盗み聞きをしていたか」
「その言い草だと、確信して言ってた訳じゃないのね」
『心臓』が『腕』のかまをかけて引っかかり出てしまった事に気付く。
「で、ここまでして私に聞きたい事はなんだ?」
「お前の仲間達がこの世界に来ている」
「っ!!」
『腕』の発言に一瞬『心臓』は少し驚いた声を出した。
「先に単刀直入に聞こう。お前は、裏切り者だろ」