6章㉓ 裏世界
結論から言うと部室に広がった大きなヒビは、その後割れ人が通れる程の壁への穴となった。
そのまま東堂自身が穴に入り中を確認し、裏世界と繋がっている事は確認出来た。
だが、その穴の先は部室と同じくらいの広さの地面しかなく、草木や石が転がっているのみだった。
そして、その空間の周りには何もなく宇宙のように真っ暗い空間が広がっており、ポツンとこの土地のみが浮いている状態だった。
その後穴は徐々に小さくなり、消滅した。
また、どうして時間差で壁に穴が空いたのかは東堂自身にも分からない事だった。
だが、このメンバーの中で唯一、壁に人が通れる穴を空けられる桃瀬がいた事が大きな収穫だった。
「人が通れる穴を空けられると言う事は、後は獣王がいると思われる空間を当てるだけだな。」
「まぁ、さっきまでの話からすればそうなるな。」
仁の言葉に東堂が反応した。
「だが、壁に穴を空けるのには当人にかなりの負担がかかると言われる。だから、桃瀬君の体調も考えながら今後は行う事になる。」
すると桃瀬が前のめりに発言した。
「私なら全然大丈夫ですよ、会長。七宮さんを見つける最善策なんですから、やらせて下さい!一日でも早く探し出したいんです!」
「・・・いいかい、俺が無理だと判断したら止めるからな。」
「はい!会長、ありがとうございます。」
桃瀬は東堂に向かって頭を下げた。
「では、早速ですが東堂さん。次はどこに空けてもらいましょうか。やはり同じ部室が良いんですかね?」
翡翠は東堂に問いかけた。
「いや、一応学園内で人目がつかない所で空けるのがいいだろう。同じ場所だと同じ空間の可能性もあるからな。」
そう言いながら、ガントレットをもう一度桃瀬に手渡した。
「よし、それじゃ学内探検と行こう。」
一空がそう言いだして皆で部室を出て学内探索へ向かった。
たまたまその日は、部活動を行なっている所が少なく生徒が少なかった為、体育館から向かった。
3階構造の体育館では、バレー部など部活を行なっていたので、その中で3階にて人がいない事を確認し桃瀬に穴を空けてもらった。
だが、その穴の先は部室で見た穴の先と変わらない場所であった。
次に向かったのは、地下の訓練場であった。
元々、世界征服部しか使ってないのでそこで穴を空けた。
穴の先の景色は、今までの二つに比べたら広く訓練場と変わらないが、何もない土地だった。
その後、本日閉館の図書室や空き教室と人がいない箇所を周り、壁に穴を空け続けた。
だが、どの穴も何もない土地や木々が少しあるのみの場所が多かった。
そのまま桃瀬にも疲れが見えたため、一旦区切りをつけて部室に戻って来た。
「くぅー・・・想像以上に似たり寄ったりの場所ばっかだな。」
「そう簡単に見つけらるもんじゃないんだよ、御神楽。」
東堂が仁のつぶやきに答えた。
その中で桃瀬は、少し息切れをして疲れが出ていた。
「大丈夫?凛?」
「あぁ、大丈夫だ。」
楯守の言葉に笑顔で答える桃瀬だが、明らかに顔色が悪くなっていた。
「無理しないって言ったでしょ、凛。嘘はダメ。」
「・・・ごめん、のぞみ。ミチ。」
双葉の言葉に桃瀬が2人に誤った。
そこに東堂が近付いて来て、手を差し出した。
「今日はもう終わりだ。だからガントレットを外すんだ桃瀬君。」
「すいません、会長。」
桃瀬がガントレットを外そうとした時だった。ガントレットが急に何かに反応したように、桃瀬はガントレットに引っ張られた。
「な、なに!?」
「!?」
その動きにその場全員が驚いた。
「どうなってるんですか、これ!」
桃瀬が声を上げて問いかけた。
そのままガントレットは、部室の奥の机の前で止まり両腕がゆっくりと後方に下がった。
「東堂さん、どうなってるんですか?」
「分からない。とりあえず止める事が先決だ。」
そのまま東堂が桃瀬の下がった腕を掴み、仁と翡翠と一空も後からガッチリと掴んだ。
だが、桃瀬のガントレットは止まる事なくゆっくりと前に突き出し始める。
「なっんつう力だ。」
「くっそっっ!!」
「ボタンで外せるんじゃないのか?」
「もうやったが、反応がない。」
するとガントレットは、一度その場で止まり掴まえている人達を剥がすように、一気に後ろへと突き出した。
「!!」
まさかの動きに掴んでいた全員が後ろへと倒れてしまう。
「会長!」
「桃瀬君!」
そのまま桃瀬の両腕は、自分の意思ではなくガントレットの意のまま動き両腕を脇に抱える様な構えを取った。
そして一気に前に突き出した。
「うっ!!」
急に放たれた両腕の反動に苦しい声が漏れる桃瀬。
放った両腕は、その場で壁に当たった様に止まると急に意思がなくなった様に『ダラン』と両腕が垂れた。
桃瀬は、その場で崩れる様に膝をついた。
「桃瀬君!大丈夫か!?」
「・・・会長。肩が少し痛むくらいで後は何とか大丈夫そうです。」
そのまま桃瀬のガントレットをすぐに外し、肩を貸してソファーに座らせた。
「双葉君、楯守君、保健室で治療キット一式を借りてきてくれるか。」
「分かりました。」
「案内は私がします。」
翡翠はそう言って、双葉と楯守を連れて保健室向かった。
その間東堂が、桃瀬の状態を確認していると後ろからヒビが入る音が聞こえた。
そのヒビは一気に広がり、穴が開いた。
「穴が空いたか。・・・だが今は桃瀬君が優先だ。」
すると桃瀬が口を開いた。
「念の為、中を見てもらってもいいですか?」
「俺達で確認しておくから、安静にしててくれ。」
そう一空が答えると、仁と一緒に空いた穴に入って行きの中を確認した。
入れ替わる様に翡翠達が治療キットを持って帰ってきた。
「今戻りました!」
「凛大丈夫か!」
翡翠が声を上げながら扉を開けて、双葉と楯守が会長の元へ駆け寄った。
「外傷はないが、肩に強い衝撃を受けたと見受けられる。包帯、テーピングでしっかり固定する。」
すると楯守が治療キットから、包帯とテーピング道具を取り出して、東堂に渡した。
そのまま東堂が桃瀬の片肩ずつ包帯とテーピングを使ってしっかりと固定をした。
「痛みはあるか、桃瀬君?」
「いえ、両肩とも痛みはないです。」
「ひとまず1週間は、激しく動かすのは控えて様子を見よう。」
すると、穴の奥に行った仁が戻ってきて東堂に慌てる様子で声をかけた。
「お、おい東堂!ちょっと来てくれないか!」
「どうした、そんなに慌てて。」
「とりあえず見に来てくれ。」
そのまま仁は穴の奥に戻って行った。
東堂は、桃瀬の治療も終わった為片付けなどは双葉達にお願いし、穴の奥へ入って行った。
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「来たか、東堂。こっちに来てくれ。」
穴の奥は、小さな洞穴の様な所に繋がっており今までの場所とは違うと一瞬で理解できた。
仁は、小さな洞穴から出ると坂を登って行った。
「御神楽達は、洞穴の外に何を見つけたんだ・・・」
仁の後を追って洞穴から出て、坂を上がって行くとそこには、一空もいた。
「何を見つけたのか先に言ってくれてもいいんじゃないか?」
東堂の問いかけに、一空は振り返らずに一点の方を見たまま答えた。
「ここは本当に、裏世界って所でいいんだよな。」
「何言ってん・・・っ!」
東堂が一空に近付きその先を見るとそこには、森が広がっていた。
「それと、あの奥にボヤッとしている何かがあるが見えるか、東堂。」
「いや、俺にはハッキリ見えないが何かがあるのは分かる。それにこんなに広い場所に出たのは初めてだ。」
目の前に広がっているのは、間違いなく森であるが、首を右や左側に向けると完全に真っ暗な空間が広がっていた。
今立っている真後ろを見ると少し地面が伸びているだけで、その先は削り取られた様に何もなくなり、真っ黒空間が続いていた。そして空にも太陽や空がない事は確認出来た。
「さっきの質問だが、ここが裏世界であるのは間違いない。証拠に右側や左側と真後ろまで見ると奥まで広がっていないし、真っ暗な空間がある事が証拠だ。」
そのまま3人は、呆然と立っていると東堂が口を開いた。
「ひとまず一度戻るぞ。空けた穴も維持させないと消えるなから。」
「そうだな、行くぞ万城!」
「・・・あぁ。」
そして3人は一度穴を通って部室に戻り、簡単に穴の先の事を話し、東堂が穴の固定を始めた。
「どうやって固定なんてするんだ?」
「それは、こいつで固定させるんだ。」
仁の質問に東堂がガントレッドを持ち上げて答えた。
そのままガントレッドを両腕に装備した。
先程謎の暴走があったばかりで、皆構えていたが何事もなく東堂は、穴の周囲をガントレッドで掴み、そのまま周囲を一周した。
「よし、これで数日は固定出来ただろう。」
そのまま東堂は、ガントレッドを外しながらもう一度穴を潜るとすぐに戻って来ると穴が見えなくなった。
「これで、向こう側から布を被せたから穴は見えなくなっただろ。それと散策は明日を希望したいがそれでいいかな、万城君?」
「っ!・・・あぁ、それでいい。」
「それなら、よかった。今日は、これで解散で明日もう一度準備を整えて集まろうじゃないか。」
「私もそれで問題ないです。」
翡翠も同意意見だと言う事を告げると、東堂達は、桃瀬に軽く手を貸しながら部室を後にした。
そのまま一空達も明日に備えて解散した。
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そして翌日の部室。
全員が部室に集まっていた。そこには、昨日怪我をした桃瀬の姿もあった。
東堂いわく、桃瀬本人立っての希望であり、決して無理はしない事を約束して同行する事になっていた。
「よし、それじゃ穴を出すぞ。」
そのまま、東堂は昨日穴があった場所に手を伸ばして掴み下に引っ張ると、穴が出現した。
東堂の手には、大きな布が握られていた。
「それで、東堂さん。このまま穴を通って散策でいいんですよね。」
少し一空は前のめりぎみに聞くと、東堂は軽く頷いてから答えた。
「詳しい事は、向こう側で決めようとしよう。」
そのまま全員が穴の奥に入って行った。
穴の奥の洞窟に、全員一度荷物を置いて坂を登り外を一見した。
「す、凄い・・・」
「普通にどこかの森にしか見えないです。」
「それじゃ皆、簡単にルールだけ決めておこうか。」
東堂が散策する上で注意する事やルールを簡単に話した。
「まずは、必ずグループで行動する。道の場所で単独行動はきけんだからな。」
「確かにそうですね。」
「次に最低限の荷物で行動する。拠点はこの洞窟にする。非常事態にも対応できる様にする為だ。」
「非常事態とはどう言う事ですか?」
「俺たち意外にも何者かがいる可能性を考えてだ。あくまで推測にしか過ぎないが。」
「なるほど。」
「最後に現状で目指す場所は、薄ら見えるあの場所までだ。」
そう言って東堂が森の奥に薄ら見える塔の様な場所を指さした。
「何ですかあれは?」
「俺にも分からないが、目的もなく散策するよりも目的地に向けながらの方が、無作為に行動するより良いという考えだ。」
「それと獣王の何かしらの手掛かりを見つける事だよな。」
「もちろんそれもある。」
仁の言葉に東堂は頷いて答えた。
「それじゃ準備をして行こうか。」
そうして全員は、一度荷物を整理し不要な物は穴の側に置き最低限の荷物で森へ向かい出した。
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一行が森へ入ってから二時間程経過した。
「一度この辺で休憩しよう。」
東堂の提案で全員は、森の中の開けた場所で休憩をする事になった。
倒れた木や岩などに寄りかかり、持って来た水で水分補給をしていた。
「ところで今どの辺なんだ?中に入ってから、目指していた物も見えなくなったし、その方向に向かっているかも分からないんだが。」
「方位磁石で事前に方向は見ていたから、そのまま間違いがなければ合っているはずだ。」
東堂のまさかの用意していた物に少し驚く一空。
「それに、念の為来た道は木に簡単に印をつけて来たから戻る時は問題ないだろう。」
「なるほど。」
その後各自の体調を確認し、再び歩き始めた。
だが数分歩いた所で東堂が突然止まった。
「どうしたんですか、会長?」
楯守が突然止まった東堂に問いかけると、答えずに周囲を何度か見回した。
一空もその行動に疑問を思い後ろを振り返ったりしていると、一番後ろにいた仁と翡翠が背を向けて東堂と同じように、周囲を見回していた。
「2人も何してんだ?」
そう一空が問いかけた時だった、周囲の木々や草木が揺れ始めた。
「っ!?な、何だ!?」
「全員すぐに戦える者は、準備をしろ!」
「っ!?」
東堂の言葉に驚いたが、仁・翡翠・一空は咄嗟に戦闘態勢をとり、楯守と双葉は桃瀬を守る様に構えた。
揺れていた木々や草木が徐々に大きくなり、何かが近付いていると気付く。
だが、周囲にその様な何かは確認出来ずにいた。
そのまま東堂達が警戒を続けていると、揺れがおさまったと思った時だった。
頭上より奇声を上げながら、何者かが真ん中の桃瀬目掛けて鎌のような武器を振り下ろして来た。
「っ!!」
その奇声に全員が上を向いたが、桃瀬の近くにいた楯守がストップを引っ張り楯を右腕に出現させ、その者の攻撃を防ぎ弾き飛ばした。
そのままその者は、木々へ突っ込み姿を見失ってしまう。
「大丈夫か、楯守君に桃瀬君!」
「はい、問題ありません。」
「大丈夫です。」
「何なんださっきの奴は?人間だったよな?」
「一瞬でしたが、人間には見えましたね。」
周囲が再び静寂に包まれたと思った瞬間だった、仁と翡翠の後ろに木と同じくらいの巨大な人物が現れた。
「っ!」
その気配にすぐさま気付いた仁と翡翠は、振り返りながらストラップを引っ張り武器を出現させた。
それと同時に巨大な人物は拳を振り下げていたが、拳は仁と翡翠の武器によって防がれた。
「な、何だコイツ・・・こんな奴いつの間に近づいて来たっ!!」
「今は無駄口叩く前に、目の前のコイツをどうにかするのが、優先ですよ!」
「わかってるわっ!」
そう言って仁と翡翠は、一気に力で押し返して巨大な人物を退かせた。
そのままその人物は、尻餅をつき大きな音が響いた。
『ドーン!』
そのまま間髪入れずに、一瞬背を向けた東堂目掛けて、鋭いクチバシの様な武器が迫っていた。
「殺気が丸分かりだ!」
東堂はそう言って、ストラップを引っ張り大剣で攻撃を防いだ。
「ぐぅっ!」
その者は、とんぼ返りをする様にすぐさま森の奥へと消えてった。
「視界が悪くてコチラが不利だ。全員伏せろ!」
東堂の掛け声と共に、全員が咄嗟に地面へ伏せると東堂は、大剣の長さを変化させ伸ばし、勢い良く体をひねった反動を使い、剣を振り抜き周囲五メートルの木々を斬り倒した。
「これで奇襲は無くなるだろう。」
「(ん、さっきの巨漢野郎がいねぇ。)」
東堂が剣を振り終わった事を確認し全員が立ち上がった。
「で、ああ言うのはよく、この裏世界では居るもんなのか?」
仁の問いかけに東堂は、首を横に振って答えた。
「そんなわけないだろ。穴を空けない限り、この世界には来れない所だ。」
「それじゃ奴らは、何処から来た何者何ですかね。」
「さぁな。俺に分かるのは、襲って来た時点で奴らは俺達を敵だと認知してるってことだ。」
すると何処からか声が聞こえて来た。
「ここに知らない人間供がいるって事は、お前らが〈神守護〉だな。」
「っ!」
「俺達は、〈神守護〉じゃ・・・っ!!」
その言葉に一空が反論しようとした時だった。後ろから翡翠が、手で一空の口を塞いだ。
「んんっんん!!?」
「何故、そう言い切れる?」
一空の口を塞いだまま翡翠が代わりに答え始めた。
「ハッ、正体を隠そうとしても無駄だ。ここに来れる奴は決まってるんだよ!」
「そうですか・・・それであなた達は何者なんですかね?」
翡翠は、そのまま会話を続けた。
「何者だと!?貴様らが喧嘩を売ってきておいて、俺達を馬鹿にしているのかテメェら!!」
「(〈神守護〉が何処かに喧嘩を売った?)」
次の瞬間、翡翠の背中目掛けて鋭い針が翡翠の後方の森から向かって来た。
だが、それは仁が木刀で振り落とした。
「お前らは不意打ちが好きな様だな。正面から戦う気が無いのか?」
仁が更に相手を怒らせる様な言葉を発する。
すると突如、一空達全員の周囲が薄暗くなった。
「(何だ?)」
その原因にすぐ気付いたには、東堂だった。
「!皆、前に飛べ!上からだ!」
その言葉に反応し、仁はすぐに前方に飛び、翡翠は一空を前に投げると中央に居た楯守と双葉を掴み、息およく前に飛んだ。
また東堂も同じく、真ん中にいた桃瀬を掴みそのまま奥へと飛んだ。
その直後、頭上から先程倒れた巨大な者が降って来たのだった。
『ズゴーン!』
先程までいら場所は、土煙で見えづらくなっているが、巨大な者が完全に押し潰しており地面も凹んでいた。
「な、何なんだ!?」
土煙が晴れてくるとそこには、巨大な者の他に鎌の様な武器を持った者と、鋭いクチバシの様な武器を持った者が、巨大な者の肩に立っていた。
そして再び何処からか声が聞こえて来た。
「お前ら〈神守護〉は、ここで殺す!」
その声と同時に、巨大な者の肩にいた2人が仁と翡翠に向かっていき、己の武器を振り落とした。そして巨大な者は、一空目掛けて拳を振り下ろして来た。
しかし、それぞれの攻撃は全て防がれる。
「「っ!?」」
一空は、『Type-Ⅱ』となり片腕で拳を受け止め、仁は木刀で防ぎ、翡翠は槍の持ち手部分で防いでいた。
そのまま仁・翡翠・一空は同時に弾き飛ばすと襲ってきた3人は、中心でぶつかった。
「何!?」
その場にはいない何者かの声が再び聞こえると、一空が一歩前に出て口を開いた。
「何だか分からないが、俺達の邪魔をするならここで片付ける。」