6章㉒ 悩む者達
「秘密兵器?そのガントレットが?」
仁が東堂に聞くと、東堂はガントレットを『トントン』と軽く叩きながら答えた。
「あぁ、コイツを使って壁を壊す。万城君のあの力じゃ、人が通れるだけの穴は空けられないだろ。」
「確かに万城が空ける穴は、手のひらいっぱいくらいの大きさですが、そのガントレットなら人が通れる程の大きさを空けられるんですか?」
翡翠の疑問に東堂は答えた。
「それは、使い手次第だな。」
「?」
翡翠が首を傾げていると、双葉が口を開いた。
「と言うか会長。それ以外に、裏世界に行く方法はないのか?ほら、よくあるゲートとかさ。」
「あるぞ。だが、それはもう消えた。俺が知っている方法はそれだけだ。だから、自分達で入口を作るしかないんだよ。」
「そうですか。」
双葉は、少し残念そうに俯いた。
「話は戻りますが、使い手によってと言うのは、どう言う事でしょうか?」
「言葉で言うより、見せた方が早いな。」
そう言って東堂は、机にある両腕のガントレットを自分の腕にはめた。
するとガントレットが、自動的に東堂の両腕にフィットする形に変化した。
「変わった!?」
「こいつは、ある発明家が作ったもんで装着者の腕に完全にハマるように変化するんだ。」
「それって、もう取れないって事じゃ・・・」
楯守が不安そうな声を出して、東堂を見つめると東堂は優しく答えた。
「そんな事はないぞ。肘辺りにあるボタンを押す事で解除される様になっているんだ。」
東堂はやって見せた後に、再び腕に装着した。
「それじゃ、壁に穴を空けて見ようか。」
すると東堂は、立ち位置を変えてホワイトボードの正面に立った。
そして、一度息を軽く吐いた直後に正拳突きを繰り出した。
『バンッ!』
と空中で東堂の拳が止まると、そこの宙にはヒビが入っていた。
「おぉ〜」
それを見て数名が声を出すと、東堂は先程とは逆の拳を突き出した。
すると更に先程ヒビ入った所が広くなり、パラパラと溢れ始めた。
「アレが、壁に穴を空けると言うことか・・・」
それから更に数十発殴り続けて、やっとヒビが壊れ10センチ程の穴が空いた。
「空いた。」
「でも、小さいな。」
そして東堂は、そこで腕を下ろし皆の方を向いた。そしてガントレットの装備を解除しながら話し出した。
「見て分かったと思うが、穴を空けるのも俺だと一苦労だ。だが、他の奴なら簡単に空けられるかもしれないんだ。」
「そう言う事ですか。だったら万城が一番適任ではないですか?現に同様の穴を空けいる能力があるんですし。」
「それだといいんだが・・・」
「任せて下さいよ。そんなの簡単にやってやりますよ!」
一空は自信満々で答えて、東堂からガントレットを受け取り腕に装着した。
「よし・・・」
一空が先程と同様に東堂が居た位置に立つと、先程空いていた穴は既に無くなっていた。
「言い忘れていたが、穴は小さいとすぐに元に戻るんだ。」
「じゃ、大きな穴を空ければいいって事ですね!」
そのまま一空が勢いよく拳を突き出した。
だが、その拳は空振りに終わった。
「あれ?」
「おい、万城真面目にやれ。」
再び拳を突き出すも空振ってしまう。
「おい、万城。」
「真面目にやってるんだが、全然何にも当たらないんだよ。」
仁からの言葉に答えながら、数回拳を振るうが東堂の様に壁に当たる事は無かった。
「な・・・何でだ・・・」
一空は息を切らして膝に手をついていた。
すると一空は思いついたかの様に体を起きあげて呟いた。
「纏ってないからだな・・・『Type−Ⅱ』」
そして一空の姿が変化した。
そのままもう一度殴りかかるが、勢いよく空振ってしまう。
「な、何でだよー!」
「東堂さん、これはどう言う事なんですか?万城は、穴を空けられる力はあるはずなのに、壁にすら当たらないのは?」
東堂は、片手を腰に当てて答えた。
「多分だが、万城君が穴を空けられるのはあの姿の時の素手だけと言う事だろう。ガントレットでの適性は無いと言う事だ。」
「あのガントレットは、そんなものまで見てんのかよ。」
仁が割り込む様に話に入ってくるが、東堂は冷静に答えた。
「だから言ったろ、使い手次第だと。あのガントレットの仕組みは完全には分からないものなんだ。だが、あのガントレット自身が使い手の何かを読み取って壁を壊す力を発動している。」
「それじゃ、もし他のメンバーも同様の結果だった時は・・・」
仁は一度息を飲んで問いかけると、東堂は少し間を空けてから答えた。
「その時は詰みだ。俺じゃ人が通れる穴は空けられないからな。」
「・・・」
その言葉に周囲は静かになった。
「このガントレットでダメなら、素手でやってやる!」
そう言って一空は、ガントレットを外し素手で宙を殴り出した。
するとその拳は壁にぶつかりヒビが入り出し、遂に穴が空くがその時点で一空は息を切らしていた。
だが、そのまま殴り続けるがヒビすら入らなくなり空けた穴も塞がってしまう。
「はぁ・・・はぁ・・・クソッ・・・」
「やめておけ万城君。君の素手ではそれが限界だ。」
「くぅっ・・・」
そのまま一空は少し俯いたまま、後ろに下がった。
そしてそこからガントレットを使用しての適性者探しが始まった。
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その者は、背にマントを付け廊下を『スタスタ』と歩き目的の場所へ向かっていた。
「お〜い、二代目。こんなとこにいたのか。」
歩いていた者は、その声を聞いて足を止めて振り返り、呼び止めた者に言い放った。
「その呼び方は辞めろ、サード。呼ぶならファーストと呼べ。」
「はいはい。気をつけますよ、ファーストさん。にっしても、慣れないもんだセブンスからサードに昇格したが、呼ばれにイマイチ慣れん。」
サードは、片手で軽く頭をかきながら愚痴をこぼした。その背にはファースト同様にマントが付いていた。
「サード、そんな無駄口を叩くために呼び止めるのは辞めろ。」
そう言ってファーストは、再び歩き出そうと前を向いた。
「ちょっと待て、違うんだよ。今のは悪かったが、アンタに用があって来たんだ。」
「なら、要件を早く言え。」
ファーストは、首を少し曲げてサードの方を少し見ながら答えた。
「はいはい、悪かった。それで、例の返事が返って来た。」
「っ!?」
その言葉に体を向けて驚いた表情を見せた。
「今残りの8人は、もう部屋に集まっている。だから、アンタを呼びに来た。」
「・・・分かった、行こう。」
そう言ってファーストは歩いて来た方に歩き始めた。その後ろをサードが追うように歩いて行った。
2人は両開きの扉の前に到着すると、ファーストが扉を開けるとそこには、長方形の机に4人づつが向かい合う様に座っていた。
「兄さん、呼んでくるの遅いよ。もう、待ちくたびれた〜」
「フォース、ファーストも居る前だぞ。」
「セカンドさんは、口うるさいな〜」
フォースは机に突っ伏せた状態で話すと、セカンドが注意するが、フォースは口答えしていた。
「いや〜全然見つからなくてな。」
そう答えながらサードは、空いていた椅子に座った。そして、ファーストは奥の椅子に座り話し出した。
「で、返事が返って来たと言うのは?」
「あぁ、これだ。」
そうシックスが答えると、机のボタンを押した。そして、机の中央から宙に映像が映し出された。
部屋の全員がその映像を見つめると、そこにスーツを着た秘書の様な女性が現れて一礼した。
「誰ですが、この女の人?」
「黙って見てろフォース。」
セカンドが注意する中映像は進み、その女性が話し始めた。
「お初にお目にかかります。私は、獣王様の部下の一人です。本日は、獣王様に変わり先日のお返事をさせて頂きます。」
「・・・」
「〈神守護〉貴様らの宣戦布告受け取った。やれるものなら、やってみろ。所詮、神の金魚の糞に過ぎない貴様らが来たところで、相手になる訳がないがな。」
「っ!」
「おっと、一つ訂正しよう。神の金魚の糞と言うには言い過ぎた。神にも相手にされないお前らだったな。」
「コイツ・・・」
「まぁ、何にしろこちらはいつ何時来てもらっても構わないと言う事だ。そもそも、来れればの話だがな。・・・以上で獣王様のご返事とさせて頂きます。」
そう言うと女性は再び一礼して画面から消えると、映像も終わった。
「これが奴らからの返答だ。」
シックスがそう言うと、ファーストが口を開いた。
「何だ、この映像は?」
「へ?」
その言葉に周囲が困惑する。
「いやいや、アンタが獣王に宣戦布告布告する映像でも送ったんでしょう?」
サードの言葉にファーストはキッパリと答えた。
「私は送ってなどいない。そもそも獣王自身の居場所が分からない私が、どう送ると言うのだ。」
「!?」
「じゃ、誰が送ったと言うんだ。」
「そうだそうだ。」
シックスの呟きにフォースが便乗する様に話すと、ファーストが立ち上がった。
「犯人探しは後だ。経緯や理由はどうであれ、奴らは私らにも宣戦布告をしたと言う事だろう。なら、見つけて潰すだけだ。元々獣王は、粛清対象でもあったからな。」
そう言ってファーストは、部屋から出て行った。
「で、俺達はどうしろと?なぁ、二代目セカンドさん?」
「うっ・・・」
サードの言葉に詰まるセカンド。
「あっ!兄やん。フィフスが腕組んだ状態で寝てるよ!凄いね。」
「いや、凄いけど寝る場所じゃねぇ。おい、起きろフィフス。」
「っぁあ!お、俺か?」
「あぁ、お前だよ元ナインティナインス。」
するとフィフスは、大きく背伸びをして目を覚ました。
「いや〜その呼び名なれないんですよね〜。え〜っと、セブンスじゃなくてサードでしたっけ?」
「はぁ〜」
サードは、呆れたため息を漏らして話を戻した。
「で、どうすんっすか?元フィフスさんよ。」
「とりあえずは、皆各持ち場に戻れ。追って連絡はする。」
「はぁ〜またそれっすか、セカンドさ〜ん。」
フォースの返答にまた詰まるセカンドを見てシックスが口を挟んだ。
「ひとまず皆各自の作業に戻ってくれ。ファーストとは、俺とセカンドで会って今後の話を聞いてくる。」
「シックスさんがそう言うなら、そうしますよ。」
そう言ってサードが出口へ向かおうとした時に、最後にセカンドの方を向いて呟いた。
「アンタ、このままじゃファーストの金魚の糞だぜ。」
「っ!?」
そのままセカンドとシックスを残して、全員は部屋を出て行った。
すると、セカンドが椅子に座ったまま頭を抱えた。
「何も言い返せなかった・・・あの日の激突以来、序列に変動があったとは言え俺は本当にセカンドとしてやって行けるのか?」
セカンドは自身の悩みを口から漏らすと、シックスが近付いて来て話し出した。
「あの日元フォース事、美咲に挑んだのは元セブンス・エイス・ナインティナインスの三人のみ。結果は、美咲の一人勝ちだったな。」
「そのままファーストと認められ、美咲独断の序列変動があったんだよ。俺はそのままセカンドの地位を貰ったが、お前は何で断ったんだ?」
セカンドの問いかけにシックスは一息入れて答えた。
「簡単な事だ。序列などに俺は興味はないし、例え上がってしまえばやる仕事が増えるだけだ。俺は現時点の仕事量で手一杯って事があるから断ったんだよ。」
「俺は、そんな仕事うんぬんより、アイツの側で支えてやりたいと思っていただけなのに。この地位がこんな重圧があるなんて・・・」
セカンドになって以来、多くの決定権を持つ存在だと気付いた。しかもそれは、自身で判断し決めなければいけない事ばかり、ファーストに聞こうにもファースト自身も多忙でそんな重荷になりたくないと考え、打ち明ける事はなかった。
ただ唯一シックスには、前々から相談はしていた。
「今じゃお前の下と俺の上には、美咲に挑んだ三人が入っている状態だし、下からの圧があって大変だよな。」
「他人事だからと言って、こっちは悩んでんだぞ。はぁーーーー・・・」
「まぁ、俺は相談にしか乗れないからな。その道は、お前が決めた道だろ。だから、お前のやり方で進め、前任者は前任者だ。」
「そうは言ってもな・・・」
「とりあえず、頑張れ。それと今は獣王の件についてだ。早くファーストに相談しに行くぞ。」
そのままシックスが先に部屋を出て行くと、セカンドはゆっくり立ち上がって深呼吸した。
「おしっ!行くか。」
そしてセカンドもシックスの後を追って行った。
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世界征服部の部室では、ガントレットの適正者探しが続いていた。
あれから、仁と翡翠が行なったが両者とも挑戦したが壁にヒビが入るだけで、穴までは空かずで終わった。
その後、三原学園生徒会メンバーが挑戦し始め、最初に書記の双葉のぞみが臨むが一空と同じ結果に終わる。
次に会計の楯守ミチが挑むと壁にヒビを入れ穴が空くも、東堂と同様の結果に終わる。
そして、最後に残った副会長こと桃瀬凛が挑む事になった。
「さぁ、桃瀬君。君が最後だ。」
東堂がそう言って楯守が引き取ったガントレットを桃瀬に渡す。
桃瀬は、小さく頷き東堂からガントレットを受け取り片腕づつ装着した。
「ふぅー・・・」
桃瀬は大きく息を吐いて呼吸を整えた。
「(頼む、アンタで空けてくれ!)」
桃瀬の姿を見て一空は強く祈っていた。
そして桃瀬が息を整え終えると、一言呟いた。
「行きます!」
そのまま勢いよく右腕を突き出した。
するとその腕は、空振る事はなく空中で止まっていた。
だが、それ以降ヒビが入るといった変化は起こる事はなかった。
その結果にその場全員が目をそらすように、俯いていたり左右へ視線をズラしていた。
だが、東堂だけは違った。
「桃瀬君、結果は結果だ。ただこの方法じゃダメだったと分かったのだから、一歩進んでいるんだ。そしたら、次はどうするか皆で考えればいいだけさ。」
東堂の言葉に小さく頷きながら桃瀬がガントレットを解除して手渡した。
それを受け取り東堂は、皆の方を向いて口を開いた。
「さぁ、次の可能性を決めようじゃないか。これで全て終わった訳じゃない。」
「・・・そうですね。終わった事を引きずっていても、進みはしませんしね。」
翡翠が、東堂同様に周りに話しかけるように呟いた。
「そうだな。東堂も来たし、コイツにも色々教えてもらって探しに行こうぜ。なぁ、万城。」
「御神楽・・・よし!そうだよな、どんどん可能性がある事はやって行こう!」
それに周囲の皆の表情も明るくなり、どうするかの話し合いを始めようとした時だった。
部室に大きく何かにヒビが入る『バギッ!』という音が響いた。
「っ!?」
その音に全員が反応すると、徐々にその音が何度も響き続けると、その場所は先程桃瀬が殴った箇所だと分かる。
「なっ、なんだよ・・・これ・・・」
そう一空が呟くとそこには、桃瀬が殴った箇所を中心に様々な方に長いヒビの跡が空中に広がっていた。