6章㉑ 捜索の手掛かり
旧校舎での戦いから2日が過ぎた。
あれから一空の怪我が完全に回復し、本日世界征服部室に再度集まる事になっていた。
そして、『ガラッ』と部室の扉が開くと部室には一空が既に座って待っていた。
「早いな、万城。」
「んっ、御神楽か。」
そのまま仁は開けた扉を閉めて、一空と真逆のソファーに座った。
「それでお前以外は、まだ来てないのか?」
「あぁ、まだだな。」
と2人が話していると再び、扉が『ガラッ』と開いた。
そこには翡翠と三原学園の東堂以外の生徒会メンバーがいた。
「外にいたので、お連れしました。」
「お待たせしてすいません。失礼します。」
そう言って生徒会副会長のショートカットが特徴の桃瀬がお辞儀して部室の中へ入って行く。それに続いてヘルメットを被った楯守と三つ編みの双葉も部室へ入って行った。
最後に翡翠が部室に入り、扉を閉めた。
「そんなに、かしこまらなくていいですよ。」
「そう、ですか・・・分かりました。」
一空の言葉に桃瀬が頷いた。
「それじゃ、早速始めますか。」
そして一空が話し始めた。
部室に集まったメンバーは、彩音の今後の捜索について話し合う為に集まっていたのだった。
三原学園の3人が加わったのは、桃瀬の方から一緒に探したいと言い始め、それに楯守と双葉も加わった。
理由は、3人とも中学の時彩音と同じクラスだった事もあり、特に桃瀬は彩音の数少ない友達だったらしい。
また、三原学園にて迷惑をかけた事も含めて協力したいと言って来たのだった。
一空達側としては、人数が増える事に悪い事はないと判断し受け入れていた。
「・・・と、これが現状分かっている事だ。」
一空が現状の説明を終えると桃瀬が呟いた。
「なるほど、七宮さんを探すにしてもほとんど手がかりがないと・・・」
一空は小さく頷いた。
そして、楯守が呟いた。
「じゃ、これからどうするんですか?」
その言葉に周りが沈黙してしまう。
それを見て、楯守はマズイ事を言ってしまったと思ってヘルメットを深くかぶって小さく謝った。
すると、仁が口を開いた。
「これは話すか迷っていたが、彩音の事と無関係とは言えないから、話しておく事にするよ。」
そのまま仁は、自分の首元からネックレスの様に付けていた御守りを取り出した。
そして仁は御守りの中から小さく畳まれた紙を取り出し、紙を広げると3枚の紙となってそれを机に置いた。
「御神楽、これは?」
紙を見た後に一空が問いかけた。
仁は、一度息を吐いた後答えた。
「これは俺の兄、京介から託された獣王に関しての情報と俺が調べた獣王についての情報だ。」
「!」
それを聞き、一空が驚く。
「ほう、なかなか興味深い情報ですね。」
そう言いながら翡翠が、仁が提示した情報に目を通し始める。
「俺の情報はあまり正確なものは少ないが、京介の方は確実なものの筈だ。アイツは、獣王の幹部であったからな・・・」
「・・・」
「まぁ、彩音を探すなら獣王にも繋がる筈だから、これを提示した。それとアイツには個人的な恨みもあるしな。何か新しい手掛かりも見るかもしれないしな。」
すると翡翠が、仁が提示した情報について聞き始めた。
「御神楽さん、これについて・・・」
「ぅぅっ、むず痒いな!さんは付けるな。普通に呼び捨てで良いわ。話し方も普通にしろ、よそよそしいわ!」
翡翠の呼び方に、我慢しきれず仁が訴えると一空も続いて話した。
「あっ、俺も『さん』は要らないんで、御神楽同様呼び捨てでお願いします。」
それ言われて翡翠は、ゆっくり頷いてもう一度話しだした。
「それでは、改めて御神楽。この獣王の拠点についての情報についてなんだが。」
「あぁ、それか。京介の情報だが、俺もイマイチ分からないんだ。それが一番の近道だとは思うんだが。」
一空達もそれを覗き込む様に見ると、そこには『獣王は次元の空間に潜む』とだけ書かれていた。
「次元の・・・空間?」
双葉が口に出して首を傾げた。
「何の事ですかね?もしかして、他の何かを指しているものだったりするんですかね?」
「ミチの言う事も一理あるが、何を指しているか分からないな。」
楯守と桃瀬が文から読み取れる事を話していた。
「何も心当たりはないのかい?」
翡翠の問い掛けに仁は首を横に振った。
「俺は、何か別の事を指していると言うより、そのままの意味として捉えてもいいんじゃないかと思うんだが。」
「万城は、この次元の空間という場所があると言う事かい?」
「そうとは言い切れないけど、何かそんな気がしたんだ。」
「まぁ、他にも新しい情報があるから他のも一旦確認して見たほうが良いと思うが、どうかな?」
「確かに伍代の言う事も一理あるな。これだけに今囚われる必要はないな。」
翡翠の意見に仁が賛同して、紙に書かれている別の情報を確認する様に促した。
そして、仁が提示した他の情報をにも目を通し始め数十分が経過した。
「この幹部については他より詳しく書いてあるね。」
「呼び方も特徴的だな。腕、牙、爪、脚と分かりやすい名前だな。」
「それがそのまま部隊名的なものになっているんだな。」
一空達が、幹部達と思われる情報の事を話していると部室の扉が『ガラッ』と開き、全員がその方を向いた。
「やっぱりここにいたか。」
「っ!!」
そこに立っていたのは、三原学園の生徒会長こと東堂であった。
「な、何で東堂さんが!?」
一空が東堂に驚きながら問いかけると、部室へ入って来ながら答えた。
「決まってるだろ。お前らに協力しに来たんだよ。」
「か、会長!」
東堂は、部室に入って来ると右肩に紐で背負っていた大きな荷物を降ろした。
「本当に協力してくれるのか?あんなに反対してた奴がよ。」
仁が東堂に疑いの目を向けながら呟いた。
「確かに御神楽の言う事は、最もだな。口で信じてくれって言うより、お前達の悩みを解決してやるよ。」
「悩み、ですか。」
翡翠の呟きに東堂は、一空達が抱える悩みを言い始めた。
「そうだな〜お前達は、今裏世界への行き方を知りたいんじゃないか?」
「裏世界?」
その言葉に首を傾げる者が数名いた。
それを見て、東堂は補足するように伝え始めた。
「あ〜・・・確か他には、別次元とか狭間とかで呼んでる奴もいたな。あそこは正式な名前は無いんだよな。」
それで『ピンッ』と来たのか、翡翠が口を開いた。
「もしかして、次元の空間とも言いますか?」
「それは分からんが、そう言う奴もいるだろう。」
「っ!!」
「俺は裏世界と言っているが、お前らはそこへ行きたい。だけど、存在や何なのかが分からなくて困っている。違うか?」
「当たっていますけど、でも会長が何でそれを?」
翡翠の発言で、その場の全員が仁が提示した獣王の居場所である次元の空間の事を東堂が言っていると理解した。
「役に立つかなっと思って持って来た情報がたまたま当たっただけだ。」
「まぁ、何にしろ知っているなら教えていただきたいですね。」
翡翠は東堂に裏世界について聞き始めると、東堂は部室のホワイトボード側に移動して、全員に対して絵を描いて説明し出した。
「簡単に言うと、裏世界というのはこの世界のすぐ側にあるものだ。」
東堂はホワイトボードにペンで真ん中に縦の一本線を描き、左に現実右に裏世界と文字を書いた。
「この通り、一つの壁でしか別れてないんだ。つまり、ここでその壁を壊せばすぐに裏世界に行けるんだ。」
サラッと説明した内容に全員は、まだ理解しきれていなかった。
「質問いいですか。その壁というのは、目に見えるものなのでしょうか?それと、壊すというのは簡単に出来る物なんですか?」
翡翠の質問に一空や三原学園の生徒会のメンバーが頷いていた。
「まず、壁というのは目には見えない。だが、自分でそこを壁と認識すれば壁となるものだ。・・・そうだな、身近で言うと万城君の空中にヒビを入れるアレだよ。」
「えっ!あれは、壁を壊してたのか!?」
「何で、お前が驚いてるんだよ万城。」
東堂の答えに一番一空が驚いていた。
「それでは、万城が空中にヒビを入れ破壊して奥から剣を出すのは、いわゆる裏世界から剣を出していると言うことですか?」
「そこまでは分からないが、近い原理と言うだけだ。」
「なるほど。仮説ではありますが、万城が空けるあの穴の奥が、裏世界である可能性はあるのですね。」
「それは、ありえるな。」
東堂は、翡翠の問いかけに答えながらホワイトボードに一空の原理を書き加えた。
「東堂、疑問なんだがその裏世界ってのは一つなのか?イメージ的には、もう一つの地球があるイメージなんだが。」
仁が東堂に自分が思っていた認識を確認する問いかけをすると、東堂は絵を描きながら答えた。
「間違ってはないが、合ってもない。裏世界ってのは、いくつも存在するんだ。例えば、さっきの話の続きをすれとだな・・・」
東堂は、ホワイトボードに四角を描くと周囲にいくつかの丸を描いて番号を降った。
「この四角をこの部屋だとして、ここで壁に穴を空けると繋がるのは1の世界だ。だが、この四角の端で穴を空けると、2の世界に繋がる事もある。」
「それって穴を空けた先の裏世界は、決まってないのか?」
「俺の経験ではそうだが、稀にどこで穴を空けても同じ世界に繋がる事もあるから、原理は分からない。」
東堂は、仁の問いかけに首を横に振って答えた。
「何となく分かって来ました。」
翡翠がそう呟くと、三原学園の生徒会メンバー達が一斉に見つめて来た。
その目は教えて欲しいと言う強い目で見つめられていた。
そこで、翡翠は要点だけ伝え始めた。
「現状で抑えておく点としては、三つですね。一つ目は、獣王の拠点と思われる場所は裏世界である。二つ目は、そこに行くには壁と言われるものを壊す必要がある。三つ目は、仮に裏世界に行けても必ずしも獣王の拠点がある世界ではない。なので、何度か穴を空けて確かめるしかないと言う事ですね。」
翡翠が伝え終えると、三原学園のメンバーは、納得した表情で頷いていた。
すると一空が立ち上がってストラップを抜いた。
「じゃ、とりあえず壁に穴を空ければいいんだろう。そんじゃ・・・」
と一空がゲージを使って『Type-Ⅱ』へとなろうとした時だった。
そこに、東堂が止めに入った。
「ちょっと待ちな、万城君。」
「えっ」
一空の動きはそこで止まると、東堂が肩にかけて持って来た荷物を部長がいつも座っている前の机に置いた。
「会長、それは?」
そのまま東堂は、荷物を縛っていた紐を解き袋を開けた。
「これは、秘密兵器ってやつさ。」
袋の中から出てきたのは、両腕に装備出来るガントレットだった。