6章⑳ 部長と伍代の秘密
部長は、校門に背を寄りかかり腕を組んで立っていた。
そして一空達がやって来たことに気付き、腕組をやめて正面を向いて話かけた。
「まさか、ここまで来るとは・・・」
「・・・」
一空と仁はすぐに攻撃態勢を取るが、翡翠は特に構えることなく立っていた。
その姿を見て部長が続けて発した。
「先に言っておくが、私はお前達と戦う気はない。」
「っ!?」
部長からでたまさかの言葉に、一空と仁は耳を疑った。
「まぁ、正確に言うと戦えないだな。・・・その様子だと、五代は何も言っていないようだな。」
すぐさま一空と仁は、翡翠の方を見るが翡翠は何も言わず、『チラッ』と視線を向けたがすぐに正面を向き黙ったままだった。
すると、仁が部長に問いかけた。
「部長が戦う気がないというなら、俺たちの考えを認めてくれたってことか?」
仁の問いかけに部長は首を横に振った。
「?あんたは、彩音を探しに行くことに反対しているなら、全力でもう一度力でねじ伏せに来ると思っていたが、何を考えているんだ?」
「だから、言っているだろ戦えないんだよ。」
そう言って、部長はストラップを取り出し引っ張り五源器を出現させた。
しかし、その姿はボロボロで破損個所が多く壊れかけの武器であった。
「見て分かるだろ?私の五源器は、この通りまともに使えない。その上、この体もまだ数本骨がいったまま完全に治っていない。」
それを聞き一空が口を開いた。
「それって・・・」
「そうだ、お前の暴走を止めた時の結果だよ。別に攻めてはいないし、それだけお前が強かったというわけだ。」
「・・・」
一空は黙ったまま少し負い目を感じていた。
そのまま部長は、五源器をストラップに戻して話を続けた。
「と、まぁそう言うわけで戦えないんだよ。これ以上、怪我を増やしも長引かせるわけにもいかないしな。それで、最後の説得に来たわけだ。」
「説得・・・」
そして、しばらく部長が沈黙したのち、問いかけて来た。
「本当に、彩音を探しに行くのか?あいつは自分から裏切ったと言い切ったんだぞ。そいつを探し出してどうする?逆にお前たちが殺される危険だってあるんじゃないか?」
その問いかけに、先に答えたのは仁だった。
「俺は、初めは部長の言う通り忘れようとしたが、やはりあの彩音が裏切る理由が分からない。だから、探して本人に本当に裏切ったかを確かめる為に俺は行く。このままじゃ、納得ができないからな。」
そして次に答えたのが、翡翠だった。
「私は、あなたに命を救っていただきながら裏切るような行為ですが、彩音様をこのまま見捨てるわけには行きません。私には彩音様と交わした約束を果たす使命があるのです。」
翡翠が答えたのち、少し間が空いてから一空が答えた。
「俺は、このまま彩音の手を離すわけには行かない。共に進んでくれるかもしれない相棒を簡単に見捨てられるか。俺は、もう悩まない!彩音を連れ戻す為に、探しに行くんだ!」
それぞれの答えを聞き、部長は小さく頷いた。
「・・・まぁ、分かっていたが今更説得は無理があるよな。」
部長はため息混じりに呟いた。
「それじゃっ!」
「最後の壁として、来てもらった東堂を突破したなら、もう何も言えないな。」
その言葉を聞いて一空と仁は、拳を『コツン』と合わせた。
「だた、今回の件はこれ以上私は口出しもしないし、手を貸すつもりもない。それだけは、覚えておけ。」
「あぁ、それで問題ない。」
「何だか急に、力が抜けるな。」
部長と戦う事なく、許可を貰ったことに緊張の糸が切れて一空はその場で座り込んだ。
「それと、門の外で隠れているお前ら。もう終わったから出てきてもいいぞ。」
「っ!!」
「?門の外?」
部長の言葉に一空が首を傾げた。
そしてその言葉を聞き、校門の外の木などに隠れていた連中が出てきた。
「お前らは確か・・・三原学園の生徒会だった奴ら。」
校門の外に隠れていたのは、三原学園生徒会の3人だった。
「お前達、東堂の心配でもして、そこにいたんじゃないか?」
「っう・・・」
「図星か。」
「申し訳ございません、会長には付いてくるなと言われたのですが、どうしても心配でここで隠れて待っておりました。」
そう言って生徒会の副会長こと、桃瀬が頭を下げると会計と書記の楯守と双葉も頭を下げた。
すると部長は、桃瀬達だけに聞こえる声で答えた。
「別に謝る必要はない。仲間の心配をするのは当たり前の事だ・・・」
「部長さん・・・」
そこに、一空達が近づいて来た。
「やっぱり、生徒会の奴らじゃないか。ここで何してるんだ?」
「それは・・・」
と桃瀬が一空の問いかけに答えている時に、翡翠と部長が少し離れたところで話していた。
「で、五代。あいつらはお前の考えていた戦力になるのか?」
「十分なくらいですね。」
「・・・そうか。にしても、お前があいつらより先に彩音を探しに行きたいと言った時は驚いたぞ。」
「命を救っていただいた直後に言ったことは、誤ります。ですが、彩音様をあのまま放って置くわけには行きませんでしたし、それに獣王の件もありましたので・・・」
「・・・そうだな、彩音にはうすうす何かあるとは思っていたが、こんな事態になるとは想定できなかったよ。」
部長は少し俯きながら答えた。
「今更何を言っても現状は変わらないが、あいつらが思っていた以上に意思が強いやつらで少し驚いてはいるよ。それに、決闘で実力を見る案もなかなかだったな。」
「そうですが、部長さんあなたにそんな怪我を負ってしませたのは想定外ですよ。」
部長の怪我の具合を心配そうに話す翡翠に部長は軽く答えた。
「別にお前が気にすることじゃない。どんな結果になったにしろ、私は彩音を探しに行く気はなかったのだしな。」
「・・・それは、彩音様を嫌っているからですか?」
翡翠の問いかけに、部長は少し間を空けて答えた。
「そうではないよ。・・・ただ、怖いだけさ・・・」
「・・・怖い?」
それ以上、部長は答えることはなかった。
するとタイミングよく、そこに桃瀬がやって来た。
「お話し中の所すいません、部長さん。うちの会長は、今どこにいるかご存知ですか?」
「東堂の奴なら、ここにいればすぐ来ると思うぞ。というかお前ら、こんな所で待ってるくらいならうちの部室にで行ってろ。東堂の奴は、私が連れてってやるからさ。」
「・・・っ、分かりました。それでは、お言葉に甘えてそうさせてもらいます。」
「その、ついでになんだが、そこの2人の怪我の具合も見てやって欲しいんだが、頼めるか?」
「はい、お任せください。会長から手当ての知識は叩き込まれてますから。」
元気よくそう答えた桃瀬は、すぐに一空達の元へ行き少し強引に肩を貸したりして、旧校舎を後にした。
「こっちはもういいから、お前も付いてってやれ、五代。」
「分かりました。」
翡翠は、軽く会釈をしながら答えると連れていかれた一空達の後を追って行った。
そして、しばらく校門付近で部長が1人で待っていると、下駄箱の方からゆっくりと東堂が現れた。
「あれ?部長、1人ですか?・・・もしかして、俺最後ですか?」
「そうだ、東堂。後、お前のお仲間が心配して待っていたぞ。今は万城達と一緒に部室へ向かってもらったがな。」
仲間が来ていたと聞いて、驚く東堂。
「まさか、あいつら来てたんですか?来なくていいって言ったのに・・・」
「お前も分かっているだろ、そんなことを言ったって来る奴は来るんだよ。」
「・・・そうですね。」
東堂は、少し懐かしいことを思い出したような表情で答えると部長の方へ近づいて話し出した。
「それであいつらは、行かせるんですか?」
「あぁ、行かせるよ。お前も負けたしな。」
「それを言われると、返す言葉もないですよ。」
東堂は苦笑いをしながら答えた。
そして、少し間を空けて東堂か独り言のように呟いた。
「俺も、あの時万城君みたいな強い意志があればアイツを救えたのかな・・・」
「・・・」
東堂の言葉に部長は黙ったまま答えなかった。
「東堂、これから先お前はどうする?」
「そうですね、俺は少し考えます。」
小さく東堂が答えると、旧校舎を後にして部室へと向かった。
そして残った部長は、旧校舎を見つめていると電話が鳴る。
「はい・・・あ〜そのまま坂を登った方ですね。はい、はい。門の前にはいるんで。」
そのまま電話が切れると数分後、トラックが数台やって来て業者の人間が沢山やって来た。
「じゃ、壊れてる所壊れそうな所全部修復お願いします。分からなければ、言って下さい。」
「承知いたしました!オラァ!オメラァ、仕事に取り掛かんぞ!!」
「オォォッ!!」
野太い声が旧校舎の校門で響き渡りゾロゾロと業者の方が校舎の中へと入って行った。
それを部長は見つめていた。
「(すぐ元に戻してやるからな。)」
そして、旧校舎の大修復工事が始まった。
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『カツ、カツ、カツ、カツ・・・』
と歩く足跡がドーム状の廊下に響き渡る。
そしてその足音が止むと、その人物の前にマントを羽織った人物が立ち塞がった。
背中のマントの中心には、獅子が両腕を振り下ろそうとしている模様が描かれていた。
「今、少しいいか?」
「はい、問題ありません。それでどのようなご用件でしょうか、腕様。」
「お前は、どこまで知っていたんだ。獣王様の側に付いて、俺の次に長いお前の事だ『心臓』の存在を知っていただろ。」
すると秘書の様な格好をした女性が、素直に答えた。
「申し訳ございません。私ですら、心臓様の存在は存じておりませんでした。」
「・・・そうか。時間を取らせてすまなかった。」
そう言い残し、腕はその場から立ち去った。
そのまま秘書の様な格好をしている女性は、奥へと歩き続け扉を開ける。
そこには王座に獣王が座っていた。
「どうだ、アイツらは順調に準備を進めていたか?」
「はい獣王様、順調に進んでおります。」
その答えに満足して口元が笑っていた獣王は、もう1つ尋ねた。
「後、何か変わった事はないか?」
「・・・1つだけ、ございます。腕様が心臓様の事を気になさっておりました。」
「そうか。報告ご苦労。下がっていいぞ。」
そのまま秘書の様な格好をした女性は、軽くお辞儀をして部屋を後にした。
「さて、こっちは準備万端だ。いつでもかかって来い〈神守護〉どもが。」