6章⑭ 想像超えた一振り
一空の前に立ち塞がった人物は、三原学園の生徒会長であり、部長の友人である東堂大和であった。
東堂とは、過去に三原学園に訪れた際に神の名を継ぐ者であるアポロに操られていた時に初めて出会い、それ以降何度か共に戦った中である。
「久しぶりだね、万城君。」
「と、東堂さんが、何でここに居るんですか?」
部長だと思っていた相手が、まさかの東堂だった事に一空は、力が抜けていた。
「どうしてと言われてもね。俺がここにいるって事は、何をしに来たか分かっているんじゃないか。」
その返答を聞き、しばらく沈黙した後一空が口を開いた。
「貴方も部長側の人なんですね。」
「まぁ、言っても無駄だろうが一応言っておくが、戻る意思があるなら戻ってくれないか。」
「例え、貴方が立ち塞がっても、俺の意思は変わりません。」
そう言って一空は、攻撃態勢を取った。
「それは残念だ。」
東堂は、一空の答えを聞くと腰につけていた剣のストラップを引っ張った。
そして右手で剣を握り、地面に突き刺した。
「初めに言っておくが、君では俺には勝てない。例え〈野性〉を暴走させたとしても勝てない。だから、彩音君の事は諦めろ。」
「なっ!」
東堂からいきなり敗北宣言をされ、一空は動揺した。
「何故、君が彩音君を、自分を犠牲にしてまで助けたいかは分からないが、君にそんな事をさせる訳にはいかない。部長にも言われたろうが、自分の立場を分かっていなさすぎだ。」
「またそれか...」
「君の行動次第で、世界の均衡が崩れ、また戦争が起こるかもしれないんだ。そんな重要な存在が、《三本柱》の【獣王】を探しに行くと言うのは許可出来ない。」
東堂は険しい顔で、一空に言い放った。
「それは、貴方達の事情や想定であって、必ずしもそうなる訳じゃないでしょう。そんなに俺をここに閉じ込めておきたいんですか。」
「そうだ。それに、俺達が想定する事は0%ではない。それは7年前に体験済みだから、言っているんだ。...だが、ずっと閉じ込めたい訳じゃない。ただ、1カ月はここにいてもらう。」
「何で1カ月なんだ。」
「いいか今、外でお前が目立つ行動をされると困るんだ。お前の持つ力を狙う奴らが、活発的に動いていて危険だからだよ。」
「っ....」
一空は東堂の口から初めてここに閉じ込められた理由を聞き少し驚いていた。
「【革命者】、〈神守護〉と既にお前は目をつけられている。そして、〈ハデス〉〈アポロ〉の神の名を継ぐ者達にも存在は知れ渡っているだろう。そこにわざわざ彩音君を探しに【獣王】にも目をつけられに行く必要はない。今は、奴らが落ち着くまでここにいてもらう。」
「.....目的は分かった。だが、それでも俺は....」
と一空が言いかけた時、東堂が小さく呟いた。
「そうか。なら、仕方ないな....」
すると東堂が、前に体重を乗せ一瞬でも地面に突き刺した剣を抜き、逆手で握ったまま一空の目の前に移動し首元に剣を振り下ろした。
一空は、咄嗟に剣が向かって来る方とは逆に体重を乗せながら、左腕を上げ東堂の剣撃を防いだ。だが、抑えられる事が出来ず徐々に押され、首元に刃が当たり『プクッ』と血が滲み出始めた。
そして一空は、真横に倒れ東堂の剣撃をかわし、すぐさま後方に2、3点転がり態勢を立て直した。
「ハァ....ハァ.....ハァ.....いきなり何するんだ。」
「何をするんだ、だと。万城君は、相手にわざわざ攻撃する際に、一声かけるのか?しないだろ、そう言う事さ!」
そして東堂は、一空に息つく暇さえ与えずに再び距離を詰めて、剣を振り抜いた。
一空は右へ左へ避けながら後退して行った。
しかし、東堂の鋭い攻撃を完全にかわす事はできず切り傷をいたる箇所に負ってしまう。
「(このままじゃマズイ......!)」
一空はすぐさまゲージを使用して『Type-Ⅱ』 へと変化をし、一気に後方へ移動し東堂との距離を取り直した。
「それが『Type-Ⅱ』 だな。身体能力を向上させ一気に距離を取っても無駄だ。俺の武器は伸縮自在だ。」
すると、東堂は左手に剣を持ち帰るとそのまま腕を前に突き出した。
その直後、東堂の逆手で握っていた剣の刃の長さと幅が広がって窓を突き破り、壁まで破壊した。
「なっ!?」
その光景に驚く一空だったが、東堂はそのまま剣を振り抜き始め壁を破壊しながら、一空へ向かって行った。
「そんなのアリかよっ!!」
一空は狭くて来る刃に、これ以上後退しても意味が無いと判断し咄嗟にその場に地面に張り付くように倒れた。
直後、倒れた一空の真上をスレスレで巨大化した刃が通過し、渡り廊下の上半分を切断すると中庭の方へとスライドして落下して行った。
『ドゴーンッ!』と雷が落ちた様な巨大な落下音が辺り一帯に響き渡った。
「な、なんつう破壊力なんだ...」
一空は自身がいる渡り廊下の天井が切り落とされ、丸出しとなった事実を改めて見て言葉を失っていた。
「少し大き過ぎたな。」
東堂はそう呟き、剣の長さを一般的な長さに戻したが、幅は大剣程にしていた。
一空は伏せていた態勢から立ち上がり、すぐに動ける態勢をとった。
「(ここでまともに戦う事はしなくていい、『Type-Ⅱ』の最高速スピードは、『Type-Ⅳ』よりは遅いが十分に抜ける。)」
そう考えながら、東堂に気付かれ無いように体を少し沈め足に力を入れた。
「(一気に突っ込み、寸前で方向を変えて残ってる横の壁を蹴り、東堂さんを抜く。トップスピードでならついてこれないはずだ。『Type-Ⅳ』を使いたい所だが、ゲージはなるべく温存しとくべきだ。)」
そして、一空は力強く地面を蹴って東堂に突っ込んだ。その間に更に地面を蹴りスピードを上げていた。
東堂は、想像以上のスピードで突っ込んで来る一空目掛けて咄嗟に剣を右手で握り右足を前に踏み込み振り抜き出した。
その動作を確認した直後に、一空は直角に右へ方向を変え、壁に向かい足をバネにして東堂を抜かした。
「(よし!)」
そして、スピードに乗ったまま東堂から離れて行こうとした時だった。
左側から東堂の剣が現れ、腹部に直撃した。
「ぐぅふっ....!!」
剣は刃が着いていない方が腹部にめり込み、一気に口の中が酸っぱくなる。
そのまま背中から、地面に叩きつけられた。
「がはぁっ!!.....ゴホッゴホッ.....な、何で.....」
一空は、かすれた声で東堂に向かって問いかけた。
「何で抜かそうとしている事が分かったのか、を聞きたいんだろ。」
そう言って東堂は、一空の腹部に剣を押し付けた状態で答えた。
「まず、突っ込んで攻撃する気配を感じなかったのと、視線が何度か俺から外れていた事が要因だ。」
「(あの一瞬で、そこまで....)」
「それで、こいつは攻撃はしないと踏んだ。が、あえて攻撃動作をしたら、回避行動を取ったからそのまま剣を持ち替えて、振り抜いたんだ。」
「そんな事が.....」
「確かに普通は出来ないな。....だが、俺は普通じゃ無いんだよ。」
「っ!」
そして東堂が倒れる一空へ顔を近付けた。
「万城君、忠告を無視して逃げられると思うな。俺と当たった以上、ヤルかヤラレるかしか無いんだよ。」