6章⑬ 立ち塞がった人物は...
一空と仁の視線の先には、翡翠が両手を後ろで組んで待っていた。
「何故、私がここにいるのかは言わなくともわかりますよね。」
翡翠は、その場で2人に向かって問いかけた。
「部長の指示なんだろ。」
「はい、その通りです。では、言いたいことも分かっていると思いますので、その場で180度回れ右をして、歩いて行ってもらえますね。」
「残念だが、それは無理だ。」
翡翠の言葉を一空が『バッサリ』と切った。
「俺達は、彩音を捜しに行く事に決めたんだ。だから、そこを退いてくれ。」
一空は翡翠に言われた事を返すように、話した。
だが、翡翠が動く事はなかった。
「まぁ、そうだよな。」
仁がそう呟いてから、暫く沈黙があったが仁が翡翠に向かって問いかけた。
「そもそも、お前は何故部長の言う事を聞いている。何か企んでいるんじゃないのか。」
仁は翡翠の立場対しての不信感をこの場でぶつけ出した。
「いえ、何も企んでいませんよ。」
「どうだか。少し前まで、〈神守護〉のNo2であったお前が、急に人が変わってあれは違う人物だったと言われて、はいそうですかと、俺はすぐ信じられるか。」
仁は、翡翠に対して溜まっていたモノを次々と吐き出した。
「部長も部長だ。この前まで、敵だった奴を自分の側に置いておくなんてよ.....つまりだな、俺はお前を信用出来ないし、今回の彩音の件に何か絡んでいるとも思っている。」
「っ!」
その言葉に一空も反応し、翡翠の方を見た。
「貴方が私に不信感を持っているのは、分かります。ですが、私は何も企んでいませんし、彩音様の件に関しては何も知りません。」
「.....」
「部長さんに従っているのは、以前もお話ししましたが命を救ってもらった身であるためです。何かお力になれないかと頼んで側にいる身です。これは、私が望んだ事でそれを裏切るような行為は、一切していないと言い切れます。」
翡翠の真剣な表情と言葉に、仁は少したじろいでいた。
「なので、部長さんの信頼に応える為にも、貴方達には戻って貰わないと困るのです。」
すると翡翠は、腰元にぶら下がっていた槍のストラップに手をかけて引っ張った。
翡翠の右手には一本の槍が出現した。
「強行突破すると言うなら、実力行使で対処します。」
翡翠は、右手を前に突き出して槍を横にして通路を塞ぐ様にして言い放った。
「元々、誰が立ちふさがっても強行突破するつもりだったから、話が早い。」
一空がそう呟くと、仁も突っ込む体勢を取った。
そして、一空が『チラッ』と仁の方を見てアイコンタクトを取ると、同時に翡翠目掛けて走り出した。
一空と仁は徐々に離れて行き、両端によって翡翠を突破しようとしていた。
翡翠からすると、距離的に両方を止める事は出来ないと判断し、片方だけを足止めする事を決めた。
2人が近付いて来ると、翡翠は片方の人物の前に槍を壁に向かって投げ飛ばし、進行方向を槍で塞いだ。
「っ....」
その間に、もう片方の人物は翡翠の横を通り抜くて二号館へと走り抜けて行った。
その走り抜けて行った人物は、一空だった。
一方で、翡翠に足止めされたのは仁であった。
「何で俺を止めたんだ....」
仁が足を止め、翡翠の方に首を向けて問いかけると翡翠は、人差し指と中指を立てそれを向けて答えた。
「右手で持った槍で止めるのに、貴方の方が確実に止められたのが、1つ目。それと、貴方が私と戦いたい目をしていたからが、2つ目。」
「分かってるじゃぇか。」
そう言って仁は、その場から後方に一旦下がって距離を取った。
「でも、そんな理由でいいのか。アイツは行っちまったがよ。」
「最低1人でも止められれば良いんですよ。」
仁の問いかけに翡翠は、何も焦る事なく涼しい顔で答えた。
そして、壁に突き刺さった槍を引き抜いて仁の正面に立った。
「さぁ、もう言葉はいらないでしょう。次は武器で語り合いましょう。」
「その台詞、言ってて恥ずかしくないのかよ。」
その直後、両者は同時に地面を勢い良く踏み切って、武器をぶつけた。
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「ふぅ....ふぅ...ふぅ....」
一空は、その後渡り廊下を走り抜けて二号館の入口にて、壁に寄りかかって息を整えていた。
「御神楽の作戦が上手く行くとはな...」
そう呟き、数十分前の事を思い出していた。
-----数十分前
2人が階段を降りている時
「後、万城。この先の渡り廊下で誰かが待ち伏せている可能性が高い。その時は、2人で両端を走ってどっちかが逃げる作戦忘れるなよ。」
「それ、上手く行くのか?初めに部長がいたら、そんな事出来ないだろう。」
「そんなのやらなきゃ分からんだろうが。とりあえず、忘れるなよ。」
「分かったよ。」
一空は、とりあえずな感じで返事を返した。
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一空がそんな事を思い出していると、渡り廊下の方から、何かが強くぶつかり合う音が響いて来た。
「始まったか。俺も先を急がなきゃな。」
そして、二号館の中に入って行った。
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『ギィンッ!!』と言う音が、渡り廊下に響き渡った。
「.....」
「.....」
仁と翡翠が自らの武器をぶつけ合う音が響き、両者そのまま離れず押し始めていた。
だが、一方に偏る事がなくほとんど動く事が無かった。
すると、翡翠が一瞬力を抜き仁の体勢を崩させた。
そのまま前のめりになった、仁の下顎目掛けて右膝を蹴り上げた。
「っ!」
だが、仁は瞬時に刀の持ち手の底を正面に持って来て弾き返した。
だが、その反動で刀は手から離れ宙に浮いてしまう。
それを見た翡翠は、すぐさま次の攻撃に移ろうとした時だった。
仁が左腕を前に回して来て、宙に浮いた刀の持ち手をを逆手で握り、そのまま翡翠の腹部目掛けて振り下ろした。
予想外の攻撃に対応が遅れた翡翠は、完全にかわす事ができず、切り傷を負ってしまう。
すぐさま、翡翠は仁と入れ替わるように一度奥へと距離を取った。
そして、しばらくの沈黙があった後、翡翠が仁に問いかけた。
「逃げないのですか?立ち位置は逆転したので、逃げられますよ。」
「バカなこと言うな。逃げたら、追ってきて後ろから串刺しだろうが。」
すると、次は仁が翡翠に問いかけた。
「おい、この先には部長がいるんだよな?」
「.....何故、その質問をするのですか?」
「いや、ただ確認をしたくてね。この後、部長ともやりあうと考えて、戦わないと改めて思ってね。」
「なるほど.....余裕ですね。」
そして、再び沈黙が続いた後両者が武器を構え直したと同時に、相手に向かって踏み切った。
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その頃、一空は二号館を抜け一号館に向けての1本目の渡り廊下にいた。
「かなり移動したな。このまま行けば、確か中庭の所に出るんだったよな。」
一空は、左の窓から入る夕日に当たりながら歩き続けていた。
「にしても、ここ凄く夕日が入って来るな。辺りが茜色だ。」
そんな事を呟きながら歩いていると、遠くから『カツーン』と言う音が聞こえた。
その音に初めは遠く気のせいかと思い、一空はそのまま歩き続け、視界に下に降りる階段が入った。
その直後、再び『カツーン』という音が次ははっきりと聞こえ、一空は足を止めた。
「(何だ....何処からの音だ。誰か歩いているな。)」
一空はその場で耳をすませ、警戒を始めた。
そしてその音は、徐々に近付いて来て、音がする間隔も短くなった。
「(っ!.....あの奥か。)」
一空が見つめた先は、下に降る階段の方だった。
「(遂に部長が来たか....もう少し先まで行きたかったが、仕方ないな。)」
一空は、何度か深呼吸をして攻撃態勢を構えた。
そして、階段を上る音が近付き始め、遂に頭部の髪が見始めた。
「(来たっ....!)」
それを見て、一空の体に力が入った。
そして階段を上りきったが、夕日がちょうど強く差し込み一空は、前が見えずにいた。
「うぅっ...」
だが、それは一瞬の事であり、すぐに視界が回復した一空の前に立ち塞がった人物は、思いもしていない人物だった。
「なっ!.....何で、貴方がここにいるんだ.........東堂さん。」