6章⑫ 脱出計画
それから2日が過ぎた。
2人は、食堂で朝食の冷やし中華を食べている時に突然一空が仁に話しかけた。
「なぁ、御神楽。やっぱり、彩音を捜しに行かないか?」
「ぶっ!....ごほっ、ごほっ.....」
突然の発言に驚き、仁はむせてしまう。
「いきなり、何を言い出すんだお前は。」
仁は、そばに置いていたふきんで机を拭きながら一空に問い返した。
「ここ数日考えてよ、人に言われたからって辞めるべきじゃ無いと思うんだよな。」
「あのな、あれは部長との決闘で決めた事だろうが。しかも、お前から仕掛けたもんだろ。」
「そうなんだが...」
一空もその事は分かっている上での発言だと思った仁は、理由を聞いた。
「そもそも、何でその結論に至ったんだ?」
「それは俺が今、やらなきゃ行けない事だと思ったからだ。」
一空は真っ直ぐ仁の質問に答えた。
「何でそう思ったんだ?」
「それは....仲間を、彩音をこのまま見捨てる事が出来ないから。」
「お前は、何でそこまで彩音の事に肩入れをする?」
「アイツは、俺の相棒だから。」
そして、しばらく沈黙が続いた後、仁が深く息を吐いた。
「お前が彩音にそこまで肩入れする理由は、やはり理解は出来ない。会って半月もしない奴を、そこまで助けてやりたい奴はいないと思うぞ。」
「......」
「ただ、仲間をこのまま見捨てる事が出来ないのは同感だ。」
「...御神楽。」
「俺も、諦めが悪いらしい。あの決闘に負けた事で、約束だからと言って諦めていたよ。心のどかでは諦め切れてないのによ。また、何も出来ないで失うだけなのかとな。」
すると、仁は立ち上がって一空を見た。
「万城。彩音を探しに行くと言う事は約束を破る事になる。そして必ず、部長が立ち塞がるがそれでも行くか?」
一空は、両手を机につけて立ち上がって答えた。
「もちろんだ。部長には、約束を破ってすまないが進む道に立ちふさがる壁は、避けてでも進む。」
「避けてかよ.....」
すると仁が部屋の端にあったカメラに向かって話しかけた。
「つーわけだ、聞いてんだろ部長。俺達は、こっから出るぜ。止めに来るのは分かってる、次はアンタを倒してでも行かせてもらうぞ。」
仁はカメラに向かって宣言し終えると、一空の方を向いて手招きした。
それに一空は仁の方に顔を寄せると、仁が腕を回して引き寄せた。
「作戦会議すっぞ、カメラないとこまで行くから付いて来い。」
そう言って一空を離すと、机に置いた冷やし中華を一気に食って、先に食堂を後にした。一空も残った冷やし中華を食べてから、後を追いかけて行った。
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「はぁ......」
部長は、ため息を漏らしながら背もたれに寄りかかった。
「アイツら、堂々と宣言しやがって....まぁ、兆候はあったから、こうなるだろうと思ってはいたが....」
すると、部長は机の引き出しから携帯電話を取り出して何処かに電話をかけ始めた。
「.....私だ。急だが、こっちに来てもらっていいか?人手が足りないんだ。......あぁ、あぁ、そうだ。.......頼んだぞ。」
部長は通話が終了すると電話を切り、机に再びしまった。
「さて、これがどう転ぶか.....」
そう呟いて、部長は立ち上がり部室を後にした。
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そして時間が経ち、日が沈み始め夕刻となった。
「地図は頭に叩き込んだな、万城。」
「あぁ、問題ない。」
一空と仁は動きやすい服装に着替え、腰元にはストラップをぶら下げていた。
そして2人は、食堂から出て廊下に立つとゆっくりと歩き出した。
「宣言してから時間が経っているから、必ず待ち構えているはずだ。作戦は覚えているな。」
「まぁ。てか、あれは作戦なのか?」
「もちろんだ。」
一空の問いかけに仁は自信満々に答えた。
「一応念の為、目的地までの構造だけ確認しておくか。」
そう言って仁が現在地から、目的地までの説明を始めた。
「今は、旧校舎三号館の3階にいるから、ここから1階に行き、長い渡り廊下を渡って二号館へと移動。そこから1階へ移動し、一号館への渡り廊下1本目を渡り、階段を降り中庭を通り抜けて一号館への渡り廊下を抜ける。そして1階へ移動し、正門から外へ脱出だ。」
階段を降りながら、仁は長々と説明し終えた。
「それの認識違いは、ない。」
一空は自分の認識と間違っていない事を伝えた。
そして三号館の1階に到着し、廊下を移動して二号館への渡り廊下前に到着した。
「で、ここが閉まっていると。」
「あぁ、無理に壊せば警告音が鳴るな。」
仁はそう答えると、腰元から木刀のストラップを引っ張り右手に木刀を出現させた。
「つまり、無理に壊さなければいいんだよ。」
「.....ん?おい、鍵か何かあるんじゃないのか?」
一空の問いかけに仁は、木刀を扉に向けて倒し、体の真横に構えた。
「そんなのなかったから、こうやるんだよ!」
そう言って仁は、勢いよく体を前に出巣と同時に木刀を両手で扉の中心目掛けて、突き出した。
『バーンッ!!』
大きな音と共に、勢いよく扉が開きそのまま扉は渡り廊下の壁に直撃し、ガラスが弾き割れた。
そして数秒後、警告音が鳴り響いた。
「うっるせぇ!おい、どうにかしろ、御神楽!」
「これは、確かこの辺に....」
仁は、壁側に寄ると腰を下ろして壁を『ペタペタ』触っていた。
すると、『パカッ』と壁の一部が小さく開きそこにボタンがあり、仁がそれを押すと警告音が停止した。
「ふぅ、止まったな。じゃ、行くか。」
そのまま仁は、扉を越えて渡り廊下を先に歩き始めた。
「お前、少し大雑把過ぎだろ.....てか、壊して大丈夫だったのかよ。」
一空はそう呟き、仁の後を追った。
そして、二号館への長い渡り廊下を歩いて行くと、遠くに1人の人影が見えた。
それを見つけ、2人の足が止まる。
「アイツは....」
「っ....」
一空と仁の視線の先に立っていたのは、伍代翡翠であった。
「待っていましたよ。お二人さん。」