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オバケの世界征服  作者: 属-金閣
2章 4月1日~4月4日 三原学園
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2章⑤ 「始まり」のない「終わり」のみの記憶

 

 立ち上がらない一空を確認してから部長は、決着の合図を出した。


「そこまで! 一空の戦闘不能により勝者は、竜胆」


 竜胆はそれを聞くと、部長と彩音の方に向かって歩き出す。彩音はすぐに一空の元に駆け寄る。そして、竜胆は部長の前に立ち塞がった。


「こうなると分かってましたよね、部長」

「まぁな、色々と確認したかったんだよ。お前も少し、あいつを見下し過ぎたんじゃないか?」


 部長の言葉には答えず、そのまま竜胆は黙ってホールを後にした。部長は、追求もすることなく見送った。


「……さてと、倒れてるあいつを連れて行くか」


 彩音に続き部長も一空の元へと近づいて行った。



 ――――――



 一空が次に目が覚め視界に入って来た天井を見て、ここがホールではないと言うことだけは理解した。


「ここは……」


 そう呟き、寝ていた体を起こすと同時に頭に激痛が走った。


「いでぇぇ……」


 その声を聞いたのか、カーテンを開ける音がしてから誰かに声をかけられる。


「一空! 目が覚めたのね!」


 そこには彩音がいて、その奥には部長が立っていた。


「……彩音? ここは……」

「保健室だよ。まだ痛む?」

「いや、大丈夫だ。それより俺、気絶してたのか?」

「うん……真のカカト落としを受けてね。……勝負は、一空の負けだよ」


 彩音は一空に勝負の結果も伝えると、一空は少しうつむいて呟いた。


「そうか……」


 一空が落ち込んだ表情をしていると、部長が割り込むように話に入って来る。


「自分の実力を知ったろ。所詮、素人のお前があいつに今勝てる訳はない。昨日も運よく生き残ったに過ぎない」


 畳み掛けるように部長は現実を叩きつけた。


「……」


 黙ってしまう一空に彩音もかける言葉がなく黙っていた。すると、突然部長が話題を変える。


「まぁ、こんな事にはなったが、お前はあの時部室に来てたんだ。言った通り、お前は私に何を聞きたいんだ? 今からでも聞いてもらっても答えるが、そんな状態だ。今日は止めて、そのまま落ち込んでいるか?」


 部長は、一空を呼び出したことを改めて伝えると、忘れていたのかすぐに反応した。


「そうだったな……いや、今からでも答えてもらう。俺はあんたに聞きたいことがあるんだ」


 そう言って、うつむいていた顔を上げ部長の方を見る。


「あんたが知ってる、昨日の奴のこと、そして隠してる事を全て教えてくれ」


 その言葉に、彩音は驚きの表情をした。


「一空、さすがにそれは……」

「彩音、口出し無用だ。……確かにお前は、昨日の奴と戦った事で全てを知る権利はあると伝えた。だが、本当に知りたいか? 忠告した通り、知ったら本当に後戻りはできないぞ……いや、後戻りはさせられないぞ」


 部長は脅すように一空に問いかけた。


「俺は昨日(キメラ)と戦い殺した。このまま、俺が何も知らないまま、あんたらの言う通りにやったらまた誰かの命を奪うんじゃないかと思ってる。だから、あいつがなんなのか、どういう目的でここに来たのかを知りたい。知る権利があると言うなら、あんたが知っていること全て教えてくれ」


 一空は目を背けることなく部長へ訴えた。


「……全てを知ると言うことは、今まで通りに生活できなくなる事までをも知る事になるぞ。お前にその覚悟があるのか」


 その言葉に一空は、そんな事かと言うような顔をして答えた。


「あんたも分かってるだろ、俺は世界征服できなきゃ後、1年で消える存在だぞ。どっちにしろ今まで通りの生活なんてできないと分かってる。それに世界征服するためには、まずは情報収集だろ。あんたなら、あの閻魔より色々教えてくれそうだしな」


 それを聞き部長は、表情を変えることなく一言「そうか」と小さく呟いた。

 そして、部長は一空の元へ近付くと近くにあった椅子に座った。


「部長、本当に話すんですか……」

「こいつは自分で決断したんだ、全てを知りたいと。だから教える。これは、必ずいつか話す事だ、それが今になっただけだ」


 彩音は部長の言葉を聞き、部長の決断に口出すことはなかった。


「さてと、じゃあ何から話すかな……」

「それなら、今の状態になった経緯を1から話すのがいいじゃないですか?」


 部長が悩んでいるところに彩音が提案すると、それに部長が頷いて反応する。


「そうだな、じゃあお前も知っている【神の名を継ぐ者】達と7年前の戦争の事からだな」

「それって【神の名を継ぐ者】が戦争を終わらせたって言う常識的なことだろ?」


 それを聞き、部長は首を横に振った。


「そうじゃない、どうして戦争が始まったのかだ。お前は、どうして戦争が起きたか知っているか?」

「勿論だろ。それを知らなきゃ、どうして戦争になった分からんし、大抵の義務教育では教えられるだろ」


 一空は自信満々に答えた。それに部長が問いかけた。


「それじゃ、戦争の原因はなんだか言って見ろ」


 そんな簡単な問いに、一空は呆れながら答え出す。


「そんなの決まってるだろ、あれだよ、あれ……ほら……えっと……」


 何故か、一空は次の言葉が全く出てこなかった。頭では分かっているはずなのだが、全くその言葉が出てこなかった。


「分からないのか?」

「そんな事ない! 分かってるぞ、ただ言葉が出てこないだけで、知ってはいるんだ。知っているはずなんだ……なのに何でか言葉が……」


 苦し紛れに答える一空に部長は、その原因を答えた。


「それはな、お前が知ってると言うふうに思い込まされているだけだ。それに、どんな戦争だったかも分からないはずだ。ただ理解しているのは、【神の名を継ぐ者】が戦争を終わらせたという結果だけだ」


 その言葉に動揺する一空。


「そ、そんな訳ないだろ! そんなデタラメのこと言いやがって、俺だって7年前のことぐらい学んでる!」


 反論した一空に、部長は再度問いかけた。


「それじゃ、答えられるだろ。……戦争の原因、どんな戦争だったか答えて見ろ」


 部長の言葉に一空は答えようとしたが、どうしても言葉が出てこなかった。

 喉まで来ているが、口が動くだけで声は出ない状態だった。


「何でだよ! 頭では分かっているはずなのに、何で言葉が出ないんだよ!」


 一空は頭に手をあてて、髪をグチャグチャにかき乱しながら、自分にイラつき出していた。

 それを見て部長が答える。


「それはお前が……いや、この国のほとんどの人間達は、そういう風に思い込まされているんだよ【神の名を継ぐ者】達にな」


 部長の言葉を信じる事が出来ない為か、一空の動きが止まった。

 そして部長の方を見て、少し口が震えながら言葉を発した。


「何を言ってんだ……あんたは……」


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