6章⑪ 道の先にあるもの
2人は、それぞれの夢での出来事を確認し手で顔を覆った。
一空は、彩音が目の前で殺され自分も無残に殺される夢で、仁は身動きが取れないまま目の前で一人づつ東和村の皆が苦しみながら助けを求めて殺され続け、最後に残った自分は殺されずにそのまま村人の死体の山の中で餓死する夢だった。
「ふぅ〜......どっちも最悪な夢だな。」
「でも何で、いきなり2人して悪夢なんて見たんだ?」
一空の疑問に仁は、椅子の背もたれに寄りかかって両手を下に垂らして答えた。
「さぁな。偶然だろう。とりあえず、今日は体が怠いし何もする気がしない。」
「それには同感だ。」
そう言って一空も机に突っ伏して倒れた。
そのまま2人は食堂でダラダラと1日を過ごした。
そして夜になり、再び眠りについた。
だが、2人はまた悪夢に襲われ、朝日が昇り始める時間に起き食堂で出会った。
「万城....」
「...御神楽....」
2人は、それぞれのぐったりした顔を見て察していた。
「もしかしてだが.....」
「あぁ...そっちもか.....」
一空の問いかけに仁は頷いた。
2人は、汗を流し落ち着いてから食堂で話し始めた。
「内容はどうだったんだ、御神楽?」
「ほんの少しだけ違ったが、結末は同じだ。お前は?」
「俺は、殺され方がより残酷になったよ...」
『はぁ〜....』
2人は同時に大きなため息を漏らした。
そして2人は、そのまま食堂でうとうとして眠りにつくが、短い時間で起きては再び眠りまた起きての繰り返しだった。
そんな状態で、再び夜を迎え眠りにつくと自然と深い眠りなった。
だが、2人は再び悪夢を見て早朝に起きて食堂で出会った。
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「あぁ〜〜マジで、何なんだ....3日続けて悪夢見て、まともに寝れてないぞ....」
「あぁ〜〜.....」
2人は、食堂の机に突っ伏した状態で呟いていた。
「もう、力も入らん....」
「しかも、今日は夏日で暑すぎる....」
食堂は電気を消し、窓から入る日差しだけだが十分に明るく、テレビから天気予報の情報が流れていた。
2人はそのまま動かず、倒れっぱなしで動く力も入らずにいた。
「......」
「おい、御神楽。」
一空の問いかけに仁は、反応せず何度呼んでも反応がなかった為、一瞬不安がよぎったが、次の瞬間寝息が聞こえて来た。
「って、寝てんのかよ。焦っただろうが......」
そして、一空は力を絞って立ち上がろうとした時、急激に睡魔に襲われた。
「.....っ、急に.......眠く.....」
そのまま一空は、床に倒れて眠ってしまった。
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そして一空が目を覚ますと、そこは地面が一面透き通った水が張っており、鏡のようになっていた。
「何だ....また、夢か.....」
この3日間悪夢を見て、毎回意識があったため今回のこの空間を見て、現実ではなく夢であると一空は、すぐに感じたのだった。
「でも、なんか今までの夢とは、全く違うな....」
そう言って、周囲を見回すと自身の後ろに彩音が立っていることに気付く。
「うぉっ...ビックリした....って彩音....だよな。」
「そうよ。」
一空の問いかけに彩音は、反響した様な声で答えた。
「なんか、声が変じゃないか?」
「ここでは、これが普通なの。聞き取れてるから、問題ないでしょう。」
「まぁ、そうだけど。なんか、気持ち悪いんだよ反響した声....」
「慣れれば、大丈夫よ。」
すると彩音は、突然背を向けて歩き出した。
「付いて来て、一空。」
「おい、何処行くんだよ。」
彩音の後を、歩きながら追いかけ始めた。
そのまま何もない地平線向かって歩き続けると、彩音が話しかけて来た。
「一空は、何でずっと悪夢を見ていたか分かった?」
「分かるわけないだろ。知ってたら教えて欲しいくらいだわ。それに、これも夢だしここ最近変なんだよな....」
「一空が見ていた悪夢は、正夢になるかもしれないものなんだよ。」
「.....えっ!?」
彩音の返答に、驚きの声を出す一空。
「ど、どうゆう事だよ!」
一空は慌てながら彩音に真意を問いかけた。
彩音は、振り向く事なく歩きながら答えた。
「かもしてない、ってもので必ずじゃ無いんだよ。そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。」
「何だよ、それ。結局何なんだよ。」
「それは、一空次第だよ。」
そう言うと彩音が立ち止まった。
一空も立ち止まった彩音に追いつくと、彩音が隣に呼んだので、隣に並んだ。
そして彩音が、そこから遠くを指差すと一空の足元から一本の光の線が伸び、そこから何本にも枝分かれして行った。
「これは....」
「これは、一空が選択できる道よ。」
「道?」
「そう、この先どうするかを決めるとそこに進んで行くの。その先に、さっきの夢が正夢になる所に繋がってるかもしれないし。別の何かかもしれない。」
「俺の選択で未来が変わるってことか。」
「良い意味でも、悪い意味でも道は一つじゃないわ。こんなに多くの道があるのに決められるんじゃなく、決めないと損でしょ。」
「......確かにそうかもな。」
すると、一空から伸びていた光の道が消えて行った。
「?それで、この夢は何なんだ?」
急に我にかえり、今の状況に疑問を持った。
すると、彩音が一空の正面に回って一言発した。
「つまり、一空は何がしたいかってこと。」
「え?」
一空が首を傾げた瞬間、足元の水に足が呑まれ始めた。
「っ!?なんだ!?」
そのままどんどんと、水に体が呑まれていき手をつくことも出来ず、彩音に助けを求めたが、彩音は背を向けて歩き出していた。
そして、頭まで水に呑み込まれ浮上出来ずに沈んでいき、遂には息が出来ずに意識を失った。
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『バシャッ』と一空の顔に少量の水がかけられた音が響いた。
「....ぐっはぁっ.....がぁはぁ、がはぁ....がはぁ、がはぁ.....」
一空は勢いよく起き上がりむせていた。
「はぁ...はぁ...はぁ....あ?.....ここは、食堂....」
少し寝ぼけながら周囲を見ると、横に仁が椅子に座って見下ろしていた。
「御神楽?」
「お、やっと起きたか。水かけて正解だったか。」
「はあ....」
一空は状況が理解出来ず、生返事をしてふと、外を見ると日は落ちて夜だと言うことに気付いた。
「....あれ、もう夜か?」
「そうだよ。お前ずっと寝てて、全然起きないから水かけたんだよ。」
「なるほど。」
一空は、地べたに倒れて寝てたので立ち上がった。
「で、また悪夢でも....っその表情だとぐっすり寝れたみたいだな。」
「あぁ....でも、なんか夢を見た気がするんだよな。」
「どんな夢だよ。」
「それが、あんまり思い出せなくてな。ただ....」
「ただ?」
一空は少し思い出すための間が空いてから答えた。
「何がしたいんだって、言われた気がする。」
「?」
仁は、その返答に首を傾げていた。
「何だか知らんが、俺はもう寝るぞ。今日はぐっすり寝れそうなんだ。お前も寝れたら寝ろよ。生活リズムは崩さないに限るからな。」
そう言い残し、食堂を後にした。
その後、一空は1時間程考え事をした後、眠りについた。
そしてこの日は、2人共悪夢を見ずに寝る事が出来た。