6章⑩ 最悪な目覚め
「な、何で彩音が......」
動揺する一空に彩音のこもった声が響いてくる。
「一空!逃げて!」
「逃げっ....!!」
彩音の言葉の意味を聞こうとした瞬間、腹部に何が勢いよくめり込んだ。
「ガッァ...!!」
そのまま吹き飛ばされ、部屋の壁に打ち付けられる。
「ぐぅはぁっ、がぁっはぁ.....」
一空の腹部にめり込んだ正体は、目の前にいた真っ黒いモヤがかかった物体だった。
「なん...だよ....コイツ....」
そして真っ黒いモヤがかかった物体はゆっくりと一空に近付いて来た。
一方一空は、体に力が入らず立ち上がる事が出来ずにいた。
そのまま真っ黒いモヤがかかった物体が、一空の元にたどり着くと、一空の頭を鷲掴みして持ち上げた。
そして暫く間、その状態だったが勢いよく反対の壁目掛けて投げ飛ばされた。
一空は宙で投げられた反動で、体勢が変わり逆さの状態で背中から叩きつけられた。
「ぐぅふはぁっ!!」
そのまま正面からうつ伏せ状態で、地面に倒れる。
一空は、その状態から力を振り絞って、両手を地面について体を起きあげた。
「うぅぅぁ“ぁ”あ“あ”!」
フラフラしながら、一空は立ち上がり壁にもたれかかって、正面を向いた。
「はぁ....はぁ.....はぁ....はぁ....」
既に一空の意識は朦朧としており、息を切らしながら、投げ飛ばされた真っ黒いモヤがかかった物体の方を見ていた。
すると再び、真っ黒いモヤがかかった物体が一空に近づいて来ていた。
「一空!もう戦わないで、逃げて!貴方じゃソイツには勝てない!殺される前に早く!」
彩音が、一空に大声で伝えるが一空はその場を離れようとはしなかった。
「はぁ....はぁ....待ってろ.....今.....助けて....やる....」
既に一空の耳には声が、届かない状態になっていた。
「一空!一空!」
彩音は、閉じ込められた中から両手で叩きながら、何度か呼びかけたが反応は返って来なかった。
そして真っ黒いモヤがかかった物体が、一空の正面で立ち止まると、彩音が閉じ込められているシャボン玉の様な球体を急に引き寄せた。
「彩音....」
一空は、真っ黒いモヤがかかった物体に、見下ろして見られている視線を感じ、顔を上げた。
そこで一空は、真っ黒いモヤがかかって何かも分からないが、笑っている事に気付いた。
次の瞬間、何処からか『パチン』と何かを鳴らした音が響くと、『ピー』と音が鳴り響いた。
「っ!」
一空は、その音が響いている箇所が彩音からだと気付いた。
そして彩音に視線を向けた瞬間、『ボン』と音が響いた直後、彩音が閉じ込められているシャボン玉の様な球体内が、一瞬で赤く染まった。
「ぁあ.......」
その光景に言葉を失う一空。
そして暫く呆然と立ち尽くしていた後、ゆっくりと真っ赤に染まった球体へ近付いた。
「......ぁぁ.....ぁぁ....」
一空が球体に手を触れた瞬間、『パン』と球体が弾けて、底に溜まっていた液体が一斉に地面に広がり、服が赤く染まった彩音の体と頭が転がって来た。
「っ......!」
一空の足元に彩音の頭が転がって来て、彩音の頭は目が見開いたまま一空を下から見つめていた。
「うぅわぁ!!」
その場で尻餅をついてしまう一空。
すると後ろに、真っ黒いモヤがかかった物体が立っている事に気付く。
ソイツを見て一空は、一気に怒りが込み上げて来て、力強く手を握り振り向きながら立ち上がった。
「うぅぅぁぁあああああ!!」
その拳は、真っ黒いモヤがかかった物体の中心に叩き込まれたが、何の変化も起きなかった。
だが、一空はそのまま連続で殴り続けた。
「ああああぁぁ!!お前がっ!!お前がっ!!お前がぁーーーっ!!!」
一空は、一心不乱に殴り続け、両拳からは手が出始めていた。それでも、叫びながら殴り続けた。
「お前がぁっ!!彩音をっ!!!」
直後、一空の右拳を真っ黒いモヤがかかった物体が受け止めて、その腕を決して曲がる事がない方に力一杯、曲げられる。
『ゴギッ!!』
「っ!!うぅぅぁああああああああああ!!」
一空は、その場で膝から崩れ落ち、苦痛に耐えられず声を出し続けていた。
「腕ぇが!!腕がぁぁっ!!!ぁぁあぁっっっぅ”ぅ“ぅ“ぅ”!!!」
すると、真っ黒いモヤがかかった物体が一空の頭を鷲掴み持ち上げた。
そして、真っ黒いモヤがかかった物体は、一空の顔の真正面に頭部を近付けた。
「ぅぅぅっっ......」
一空が唸る様な声を出し続けていると、正面にある真っ黒いモヤがかかった物体の一部のモヤが晴れた。
そこには、獣の様な口元が見えていた。次の瞬間、その口が開き言葉を発した。
「醜いな。」
そう一言に告げると、再び口元に真っ黒いモヤがかかり一空の顔から離れて行った。
そして、一瞬で一空の首元を鋭い何かで斬り裂いた。
「ぐぅぷっ....」
一空の首元からは、シャワーの様に勢いよく血が吹き出ており、徐々に一空の意識が遠くなっていた。
真っ黒いモヤがかかった物体は、一空の首元から吹き出る血を浴びていたが、すぐに鷲掴みしていた一空の頭を押して離すと、一空を背中から仰向けに倒した。
そして、倒れた後一空の最後に視界に入ったのは、転がっていてこちらを見つめる彩音の頭だった。
「....あや.......ね.......................」
そのまま一空は、息を引き取った。
辺りは、真っ赤な血が広がっており、真っ黒いモヤがかかった物体が、血溜まりをゆっくりと『ピチャ、ピチャ』と歩き出した。
そして、一空の頭に近付き、正面に立つとゆっくり片脚を上げ、勢いよく一空の頭目掛けて振り降ろした。
『パーンッ!』
と弾ける音と共に血しぶきが高く上がった。
--------
「ぅぅぁぁああああああっ!!」
叫びながら、勢いよく起き上がったのは、一空だった。
「ハァー....ハァー....ハァー.....」
一空は汗を多くかいて、息を切らしながら、窓の外を見ると、外は微かに朝日が昇り始めていた。
「夢?.......何だよ、今のは.......最悪な目覚めだ........」
一空は、徐々に息を整えてベットから降り、喉が渇いていたので、水を飲みに部屋を出て行った。
その後、目が冴えた一空はシャワーを浴び、食堂でテレビをつけてボーっと見ていた。
そこに、仁がグッタリした状態で入って来て、水道の蛇口を回し水を勢いよく飲み出した。
「御神楽?」
普通じゃないと思った一空は、仁に近付き声をかけると、仁が水を飲み終えて蛇口を回して水を止めて、一空の方を見た。
「ハァ....ハァ....ハァ....万城....」
「凄い汗だな....走ってでもいたのか?」
その問いかけに、仁は首を横に振って答えた。
「違う.....悪夢だよ.....最悪な夢を見て起きたんだ......」
「お前もか....」
「?」
一空の返答に、仁は首を傾げた。
その後、仁はシャワーを浴びて落ち着いてから、2人は朝食を食べながら自分達が見た夢の事を話し始めた。