6章⑨ 旧校舎
次に一空が目を覚ますと、夕陽が差し込んだ部屋のベットの上にいた。
「....こ、ここは...」
まだぼやけた視界だが、顔を左右に傾けとある事に気付く。
「なんだこれ...」
『ガチャガチャ』と両手がベットの柱に向けて手枷を付けられていた。
そして体の異様な怠さを感じた。
「何処なんだここは....俺は、何を....」
そう呟いた時、部屋の扉が『ガラッ』と開き仁が入って来た。
「っ!....万城、目が覚めたか。」
「御神楽.....」
仁は、そのまま一空が寝ているベットに近付き、近くに置いてあった椅子に座った。
「それで、どこまで覚えているんだ?」
「何処までって....確か部長と決闘をしていて、そこで....」
そこまで言うと、唸る様に考え込んでしまう。それを暫く見ていたが、仁が代わりに答えた。
「そこで、お前は未完成の『Type-Ⅴ』を最後の1ゲージで使って、呑まれたんだよ。」
「!!...そうだ、アレを使って部長に勝とうとしたが、途中で意識が遠くなって....」
そのまま一空は黙ってしまった。
「なぁ、万城。俺はお前に一度言っているよなその力は、一歩間違えれば周囲の人間を簡単に殺せる力と言うことを。」
「ぅっ....」
「これは俺が感じた事だが、お前あの力に頼り過ぎじゃないか。」
「っ!.....そんな事は.....」
一空はすぐに否定する言葉を放ったが、すぐに黙ってしまう。
一空自身、意識はしていなかったが強力な力を扱えるようになっており、その力をどう使うかを中心に考えていた。
「話を戻すが、お前が呑まれた後俺は意識を失い、部長と伍代がお前を仕留めたらしいぞ。」
「....そう....か...」
「その後、俺は治療を受けたが、お前は自己的に治癒されていたから、そのままココへと運ばれて拘束されたんだ。」
仁がココに行き着くまでの経緯を簡単に伝えた。
「その拘束は、目が覚めても意識が戻って無かった際の保険だそうだ。」
「当然の判断だな....それで、ココは何処なんだ?」
「ココは、十色学園の旧校舎だ。」
「旧校舎?」
一空が聞き返すと仁が説明し出した。
「部長いわく、旧校舎と言っても元々廃校として建てられていたのを部長が学園としていたが、安全面から校舎を新しく今の所に建設しららしい。」
「そうなのか。」
「ココは、現十色学園の裏の山中にあり、山中に校舎が山の木々と合わさる様に作られている。設備は、そこまで古くはないが箇所によっては危険な箇所があるらしい。」
「旧校舎なんて始めて聞いたな。こんな所が学園の裏山にあったのか。」
旧校舎の存在に少し驚いていた一空だったが、仁の説明を聞きすぐに受け入れた。
「それと薄々分かっていると思うが、俺達がはこの旧校舎に暫く監禁状態だ。ただ、この旧校舎で寝泊まりするだけで、食事も寝床も充分にある事は、確認済みだ。」
「決闘の条件か....」
「負けたんだよ。俺達は。」
仁がそう言い終わると、突然校内放送が流れ始めた。
『ピンポンパンポン⤴︎』
当然の音に2人は驚き、部屋のスピーカーに目線を向けた。
「あ、あ...聞こえてるか?聞こえてたら反応しろ。」
そこから聞こえて来たのは、部長の声だった。すると仁が声を出して返答した。
「部長?」
「聞こえている様だな。万城は、御神楽から経緯くらいは聞いてると思うが、これからお前らはそこで暫く暮らしてもらう。これは決闘の条件で決めていたものだから、駄々をこねるなよ。」
部長の発言に、一空は大人しく返事をした。
「分かっている。あんな事まで起こして、駄々なんてこねぇよ。」
「.....それならいいが。それと拘束具の鍵は、部屋の引き出しに入れてあるから、好きに使え。その感じだと大丈夫そうだしな。」
部長の発言を聞き、仁が部屋に1つだけあった引き出しを開けて鍵を確認し、手に取った。
「これでいいのか?」
仁がスピーカーに向けて鍵を見せると、部長が一つ返事をした。
「また、何かあればこっちから同じ様に連絡する。それまでは、そこで静かに夏休みを過ごせ。」
そう言い終わると、放送の終わりを告げる音が響いた。
『ピンポンポンポン⤵︎』
放送が終了すると、仁が黙って一空の拘束具を見つけた鍵で解除した。
「部長もあぁ言ってんだ。それに手錠してたら動けないだろ。」
一空は手首を軽く摩りながら、仁の方を見ていた。
「もう日も暮れる。飯食いに行くぞ。」
そう言って仁は部屋の扉を開けて、部屋を後にした。
一空は、立ち上がって夕陽が差し込んでいる窓を目を細めて見つめた。
そのまま数秒見つめた後、仁の後を追う様に部屋を後にした。
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ボタンから指を離すと部屋に『カチッ』という音が響いた。
そして勢いよく背もたれに寄りかかった。
「ふ〜〜」
大きなため息を漏らしたのは、部長だった。
そこは、いつもの部室で机に2台のモニターとマイクが一つ机に置いている状態だった。
そこに、『ガラッ』と扉を開けて翡翠が出前の箱を持って入って来た。
「部長さん、持って来ましたよ。」
翡翠は、出前の箱を軽く上げて部長に話しかけた。
「あぁ、すまない。」
部長は、椅子のひじ掛けに手を付いてゆっくりと立ち上がった。
そのままソファーの方へと歩き腰をかけた。
「それで、どうでした?」
翡翠は出前の箱の中から料理をいくつか机に並べながら問いかけた。
「意識は元に戻って、落ち着いている状態だったな。まぁ、予想通りの状態だったかな。かなり手こずったからな、こっちも無傷じゃないし、困った奴だ。」
部長と翡翠の顔や体には、治療をした跡が残っていた。
「でも、最悪の事態にならなくて良かったですね。ひとまずは、一件落着ですかね。」
「そうだといいが.....で、この料理は何だ伍代?」
部長は、目の前に並べられた料理が出前の料理でない事に気付いて問いただした。
「こちらは、私が体調面を考慮して作らせていただいたものです。こう見えて、元々執事として育てられていた身ですので、味は保証しますよ。」
「ほ〜」
部長は、フォークで目の前の料理の一品を突き刺して口に運んだ。
数回噛んで、ゆっくりと飲み込んだ。
「....美味いな。」
「お褒めのいただき、ありがとうございます。」
翡翠は、軽く会釈をして答えた。
そして、部長はそのまま黙々と出された料理を食べ続けた。
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「それじゃ、先に寝るからな。」
「あぁ、俺もすぐに寝る。」
一空がそう答えると仁は、寝室へと入っていった。
一空は机の上に自分が持っているストラップを全て広げて、見つめていた。
そしていつも使用する鎧のストラップを手に取った。
「(あんちゃん。どうしてコレを俺にくれたんだ。こんな力があると知っててくれたのか?それとも....)」
そして、手に取ったストラップを机に戻し、そのまま机に広げたストラップを引き出しにしまい、自分の寝室の部屋へと入っていった。
そのまま深い眠りについた。
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「ぅぅうっ......」
一空はうなされながら目が覚める。
すると自分がその場でうつ伏せで倒れている事に気付き、更に寝室でなく別の部屋にいる事も気付いた。
「(ここは....)」
立ち上がろうとすると、全身に激痛が走った。だが、痛みに耐えながら立ち上がると徐々に部屋の全体が見えてきた。
そして、一空の真正面真っ黒いモヤがかかった大きな物体が立ち塞がっていた。
「!?」
見上げる様にして驚いていたが、次の出来事に更に驚いた。
「一空!!」
「っ!!」
遠くから一空を呼ぶ声が響き、その方向に視線を向けるとある人物が大きなシャボン玉の様な球体に閉じ込められていた。
「あ、彩音....!?」