6章⑧ 獣は止まらない
「.....」
一空は、無言のまま部長の方を向いていた。
部長は、一空から出ている異様な雰囲気に気付き近付こうとはしなかった。
「(今までのType装備と、何か違う雰囲気だ...)」
「.....」
すると、一空が一歩前に踏み出した瞬間だった一瞬で、部長の前まで移動し殴りかかった。
「ぐぅっ!!」
部長は、咄嗟に両腕を顔の前に出して一空の拳を防いだ。
「(重い...)」
一空は部長の両腕をこじ開けるように、そのまま拳を振り抜いた。
部長は、拳に押されて数メートル後方に押されてしまう。
「(今まで以上のパワーが出ている。一体何を特化させたんだ。)」
後方に押された部長の近くに、銃槍がある事を確認すると、そのまま部長が振り返り手を伸ばした。
そして銃槍を手にして、銃口を一空に向けた時だった、一空は腹部を凹まし胸が膨らんでいる事に気付いた。
「!?」
一空は、勢いよく胸に溜めていた息を口を大きく開き、勢いよく吹き出した。
「ガァァァァッッ!!」
「うぐっ!」
部長目掛けて吹き出されたブレスは、部長に直撃し身動きが取れない状態だった。
「(物凄い向かい風と、反響した叫び声が....)」
部長の顔は歪んでいたが、何とか真横に体を引きずる様に動き、ブレスの範囲を抜け出した。
そしてすぐさま、一空目掛けてレーザーを放った。
「っ!」
放たれたレーザーに気付き、一空はブレスをやめ、その場から斜め後ろに飛んで回避した。
「ぅぅぅ....」
一空は飛んで避けた先で、部長の方を見つめ唸っていた。
部長は、すぐさま立ち上がり体勢を立て直した。そして分析を始めた。
「(ブレスの攻撃まで行えるのか。今までのType装備なら、特徴的な箇所で割り出せていたが、今回のアレは、判断が出来ない。)」
部長は、銃槍を力強く握り締めていた。
すると、仁が一空に向かって声を出した。
「何故、それを使った万城!!....うぅ....それはまだ未完成だろうが.....」
仁は、声を張って出す際に走る痛みをこらえながら一空に向かって話していた。
その声に、一空が反応した。
「.....黙って....ろ.....あのまま....負けるわけには....いかない....んだ....」
一空は途切れ途切れの声で仁に答えた。
「最後のゲージでやって、どう...」
「うる...さい...!!」
すると一空は、仁目掛けてブレスを行った。
「うぅぅっ....うぅぁぁ!!」
仁は、ブレスの勢いに耐えられずに吹き飛ばされてしまう。
そのまま壁に一直線だったが、ぶつかる前に翡翠が回り込み仁を受け止めた。
「危なかった...」
「.....あの....バカヤロウ....」
仁が一空の方を見て小さく呟くと、そのまま意識を失った。
「(肉体的な痛みから意識を失ったか...無理もないか。)」
翡翠は、なるべく仁を安静な状態で寝かせた。そして、一空と部長の方に視線を移した。
一空は、仁にブレスを放った状態で部長から目を離していると、部長が一気に距離を詰め銃槍の銃口から刃を出現させて、振りかざした。
すると一空は、その場で背を向ける様に回転して、尻尾で部長を叩きつけた。
「ぐぅっ...」
部長の攻撃が届く前に、尻尾で払われる様に攻撃され、飛ばされる。
だが、部長はすぐさま銃口から出した刃を引っ込め、銃口からレーザーを放った。
「!!」
『ドゴンッ!』と一空に直撃したと同時に爆発音が響き渡った。
さらに部長は、連続でレーザーを放った。
しかし、放たれたレーザーは、爆発で発生した煙の中から一空が飛び出して来て、拳で弾き壁へとぶつかった。
一空はそこから、部長目掛けて飛びかかり拳を振り下ろした。
『バゴンッ!』一空の拳は、床にめり込んでいた。
「!?」
部長が、向かってくる拳を体を左に避けながら、片手で流すように一空の拳を真下に方向を変えた。
そのまま、突っ込んで来た一空の顔面の額に銃口を突き付けて引き金を引いた。
『ガンッ!』
と鈍い音と共に一空が頭から後方に吹き飛ばされる。
しかし、一空には大きなダメージはなく、後方に飛ばされながら体を反るようにして尻尾で、部長に攻撃をした。
「くっ...」
尻尾の攻撃で部長は、握っていた銃槍を宙に弾かれてしまい。
一空は、そのまま一回転して両手を地面に付けると、その体勢から胸を膨らませてブレスを放った。
部長は、手放された銃槍から目線を外し真横に大きく飛ぶように避けた。
そこに一空のブレスが放たれたが、部長は先に回避しており、そこから一空の顔面目掛けて左拳を振り抜いた。
『ゴンッ!』
部長の拳が一空の開いた顎に直撃し、体が奥に倒れた所に、部長はさらに踏み込んで右拳で腹部にめり込ませて、殴り飛ばした。
『ガァゴンッ!!』
一空は壁へと打ち付けられそして、膝から前方に床へと倒れた。
「ふぅ....ふぅ...ふぅーー....」
部長は、軽く息を整えて倒れた一空を見ていた。
「......」
一空は沈黙したまま倒れて、起き上がる気配はなかった。
それを見て、部長が振り返って翡翠を呼び寄せようとした時だった。
部長は、背筋が凍るような雰囲気に気付きすぐさま振り向いた。
そして、目線の先に先程まで倒れていた一空が俯いた状態で『スッ』と立ち上がっていた。
部長は、それを見てすぐさま攻撃体勢をとった。
「......」
しばらく沈黙の後、俯いていた一空がゆっくりと顔を上げた。
部長は、その顔を見て先程と状況が違う事にすぐに気付いた。
「(あの鎧の目、赤くなってる....)」
「ウゥゥァァ....」
一空は、小さな声で呻き声を出しており、次の瞬間だった。
部長の顔を目掛けて、一瞬で移動し片手で顔を握り潰しに来た。
「っ!!」
部長は、瞬時に体を反るようにして、攻撃をかわし目の前に突き出された腕を掴み、そのまま背負い投げの体勢に持ち込み、背中から一空を叩きつけた。
その時、一空の顔が一番近くなった時に部長は、一空がブレスを放つ寸前だと言う事に気付いた。
「(この距離はっ....!!)」
一空からブレスが放たれると、部長は体ごと顔を真横にズラしたが、避けきれず右頬から耳にかけて、ブレスが直撃してしまった。
「ぐぅっ...」
攻撃を受け右耳は、耳鳴りの様に『キーン』と言う音だけが響いていた。
そして避けた先に、先程弾かれた銃槍が地面に落ちておりそれを拾い、銃口を一空に向けて引き金を引いた。
一空は、左手をレーザーに突き出して手のひらに直撃させ爆発させた。
部長の視界は、爆発で目の前が煙に覆われてしまう。
「っ」
部長は、すぐさまその場から離れた。再びブレスを放って来ると考え、正面の位置から離れたのだった。
そして、視界から煙がなくなる所まで移動した直後だった。
抜けた直後、右正面にいたのは同じ様に煙の中を抜けて来た一空だった。
「!?」
一空はそこから右拳を振り抜いた。
部長は、銃槍を盾にして直撃は防いだが、そのまま壁に吹き飛ばされてしまう。
『バンッ!』と壁に打ち付けられた部長は、すぐに立ち上がれずにいた。
「(ぐっぅ...直撃ではないにしろ、今のはキツイ...)」
一空は、拳を振り抜いた直後、狼人間の様に真上に向かって叫んでいた。
「グゥゥォォォオオオオオオオオオオオ!!」
それを見て部長は、確信をした。
「(このバカ、また呑まれやがったな....)」
そして、部長は翡翠の方に声をかけた。
「おい、伍代!決闘は終わりだ。コイツを止めるのを手伝え。」
すると、一空は立ち上がっていない部長を踏み潰しに来た。
だが、部長は体を勢いよく左にうごかし、踏みつけを避けて片膝立ちになり、一空の腹部に拳を叩き込み、殴り飛ばした。
「....はぁ〜....手がかかる奴だ。自分の手に負えないものは、使えるモノじゃないんだよ。」
そして、軽く顔を後ろに向けて翡翠に声をかけた。
「御神楽は、端にでも置いておけ。こっちは時間がないんだ。早く手伝え。」
「....分かりました。」
翡翠は、仁を壁の端によりかけるようにして、部長の隣に並んだ。
「伍代、奴には全力で攻撃しろ。奴を殺すつもりでいけ。そうしないとこっちが死ぬぞ。」
翡翠はその言葉に一度は、耳を疑ったが、部長の言葉に素直に従う事にした。
「承知しました。」
そう言って、攻撃体勢を構えた。
そして、2人の視線の先には、一空がゆっくりと顔を上げ威嚇する様に、声を上げた。
「グクゥァァギャァァァァアアアアア!!」