6章⑦ 本当の切り札
部長は、両手に黒いグローブをはめており、そのまま仁目掛けて殴りかかった。
仁は、すぐさま刀を逆手で持ち直し、向かって来る部長に向かって走りだし、突き出して来た拳目掛けて、刀を右斜め上から振り下ろした。
「(御神楽流剣術陸ノ....)」
仁は、踏み込んだ足を真横に向けて振り下ろした刀は、部長の拳に直撃したが、『ギンッ!』と音が立ち弾かれる。
「っ!!」
「残念、ただのグローブじゃない。」
そう言って部長は、仁の胸目掛けて右拳を突き出すと、仁は左手で部長が突き出した腕を押し出し、軌道をずらした。
だが、攻撃をかわす程までいたらず、右腕に直撃してしまう。
「ぐぅっ!!」
更に、部長は右腕を振り抜いてから右脚を避けて行った仁の方に瞬時に踏み込ませ、左拳を突き出した。
だが、その拳は空を切った。
今目の前にいた仁を一空が飛び込んで来て、腹部にタックルする様に掴み、部長の攻撃から回避したのだった。
「....助かった。」
「あぁ。それで、そっちの腕はどうなんだ?」
一空が、仁が攻撃を受けた右腕を気にかけた。
「直撃だったからな、感覚的には良くてヒビ。最悪、折れてるな。」
「.....そうか。」
仁の返答に一空は少し顔が曇った。
「俺の事は気にするな。何だろうが、まだ使える。それよりも、どうアイツを崩すかだ。」
「だが、今までの攻撃で、まともに決まったものがほとんどない。一方で、こっちはかなりの負傷だ。.....見る感じ、まだ本気って感じじゃなさそうだしな...」
2人は、部長の方を見ながら、改めて部長の強さを認識した。
すると部長が、話しかけて来た。
「改めて提案だ。」
「っ!」
「降伏しろ。お前らじゃ、私に勝てないと分かったろ。」
だがその提案に、2人は黙ったまま頷く事はなかった。
部長は、2人が降伏する事はないと分かり小さく呟いた。
「.....そうか。」
そして、両者は距離を取ったまま、数秒動かずにいた。
「まだ、攻撃は出来るんだよな御神楽。」
「あぁ、問題ない。」
「なら、俺が突っ込んで部長と対峙し、両腕を蹴り上げる。そこにお前は一瞬で突っ込んで来て、斬りかかれるか。」
「中々な注文だな。まぁ、かなり運だが出来そうな技はある。」
「なら、決まりだ。早速実行する!」
そう言い、一空は部長目掛けて突っ込んだ。
「!?」
すると部長は、とある行動に驚いていた。
それは仁が、一空とは真逆に走り出したのだった。
「何をするつもりか知らないが、1人で突っ込んで来るのは片付けやすい。」
部長は、すぐに目の前に迫る一空に視線を向け、両手を構えた。
一空は、右蹴りを繰り出したが、部長は両腕で蹴りを防いだ。
だが、蹴りの威力に多少体が押されていた。
「(ぅう...やはりスピードのある蹴りは、反動を受けるな...)」
部長の体が押された直後、一空は右脚に付いているブースターを使い、すぐさま脚を降ろし、強引にその脚を軸に左脚で蹴り込んだ。
「!!」
素早い切り替えに、部長は一瞬反応が遅れたが、一空の強引な蹴りの為、蹴りの位置が高かった事も影響し、反応が遅れたが瞬時にしゃがみ込む事で、一空の攻撃をかわした。
「くっ!」
一空の蹴りは、そのまま空を切った。
部長は、しゃがんだ体勢から一空が軸にしていた右脚に狙いを定め、右拳で殴りかかった。
そして『ガンッ!』と鈍い音が響き、一空は右脚を殴られ体勢を崩し、背中から部長側に倒れる様な体勢になった。
「っ!!」
だが、一空は両脚のブースターを勢いよく噴射させ、その場から前に回転するように、カカトから部長目掛けて攻撃を仕掛けた。
「!?」
これには、部長も驚き思わず両腕をクロスして防ごうとした。
だが、クロスした腕に蹴り上げる力を防ぐ事は出来ず両腕を崩され、そのままバンザイするように腕が上に上げられてしまう。
そして、後方に押されるように体が仰け反り、初めて部長の隙が出来た。
想定していたものとは、違うが予定通り隙を作る事に成功した一空は、声を上げた。
「御神楽!」
それに答えるように、仁が声を出した。
「ピッタシだ!」
仁は、一空と入れ替わるように、飛ぶような勢いで部長に近付いた。
「んっ!!」
「重斬!」
仁は、部長目掛けて刀を振り抜き、そのまま振り抜いた勢いのまま回転し、次は片足を地面につけ、同じ箇所を勢いのまま斬り抜いた。
そのまま部長は、仁に腹部を斬られて背中から地面に落ちた。
「ハァ.....ハァ....ハァ.....」
仁は息を切らしながら、倒れている部長を見ていた。
すぐに動く事がなかった部長だったが、数十秒後に小さい呻き声を出して起き上がった。
「....まさか斬られるとはな。」
部長はそう呟いて、腹部の斬られてた箇所を見ていた。
斬られた箇所は、部長が着ていた服を斬っていたが、体まで刃が届いておらず傷がない状態だった。
「(っ...届いてなかったか。)」
仁は、斬りつけた箇所を見て渋い顔をした。
そこに一空も近付いて来た。
「どうだった?」
「駄目だ。斬りはしたが、刃が体に届いていなかった。」
「だが、攻撃は入った。さっきのように不意打ちの攻撃なら決まるかもしれない。」
「そうだといいが...」
すると部長が立ち上がり、仁に話しかけた。
「御神楽、さっきは真逆に走っていたが、どうして瞬時にこちらまで来れた?」
部長は、先程の攻撃時に仁がタイミングよく現れた事に疑問を持ち質問していた。
「....もう成功する事はないから、答えるが、昔京介が風を吹かせる技を作って教えてもらったんだ。だが、ほとんど吹く事は無かったが、一度だけ物凄い強風を作り出した事があった。原理は俺には分からんが、それを試して、奇跡的に上手くいったというわけだ。」
その回答に、部長が少し考えたのち答えた。
「...それは、確か低気圧と高気圧の関係だな。風は、気圧が高い方から低い方に吹くらしいから、その原理だろ。」
部長が豆知識的な事を言うと、仁の出現した理由にも納得がいった表情をしていた。
「お前達が私に傷を負わせる事は無いと思っていたが、まぐれでも決められたのは、お前達の力だ。」
「(何だ急に...)」
「(気味が悪い...)」
部長が2人を褒め出した事に2人は疑問を持った。
そして次の瞬間、部長は一瞬で一空の前に移動し、正拳突きを腹部に繰り出した。
「グゥッハァッ....!!」
そのまま2、3歩後ろに下がり膝を付いてしまう。
そして部長は、その場で仁目掛けて回し蹴りを行った。
仁は、部長の移動に目が追いついておらず、一空が呻き声を上げて、横を振り向いた時には、もう部長の蹴りが迫っていた。
「グゥッ!!」
部長の蹴りは、左腕に直撃し体勢を崩される。更に追撃を部長は仕掛け、体勢を崩した仁の左脚目掛けて、拳を振り抜いた。
『ゴキッ!!』
と左脚の骨が折れる音が響く。
「グゥッアアァァ!!」
仁はその場で崩れる様に倒れた。
「う”ぅぅう”う“う“....」
手は、左脚に近付けて、そこで爪が食い込むくらい力強く握り、唇を噛み痛さに耐えているが、体全身に激痛が走り今にも、のたうち回りたい気持ちだった。
すると、部長が仁の背中へと回り呟いた。
「死ぬわけじゃない。後でしっかり治してやる。」
そして部長は、仁の右肩目掛けて、水平にチョップを叩きつけた。
「ぐうっ!!」
攻撃を受けた仁の右肩は、脱臼し右腕は『ぷらーん』と垂れていた。
左脚の骨折、右肩の脱臼により仁は完全に戦闘不能状態になってしまう。
「さて、後は万城だけだ。」
部長が一空の方を見ると、まだ膝を付いていた状態だった。
「こ...この....」
「もろに入ったろ。そうそう立てないだろう。そのまま、気絶させてやるよ。」
部長が一空に向けて歩き出した時だった。
「こんなんで....負けられるか....負けてたまるか!!」
一空は、食いしばりながら言葉を吐きゆっくりと立ち上がった。
「.....」
「まだ、俺には.....1ゲージある....」
一空は右腕を折り曲げて、ゲージを見せつけた。
「それが何だ。」
「...これが、本当の切り札だ!!」
そう言って、ゲージが消費され一空が煙に包まれた。
それを見ていた仁が、小さく呟いた。
「...!まさかアイツ!!」
「(何のTypeで来ようが、問題はない。有力なのは防御特化か.....)」
一空が新しいTypeで来ると予想して部長は、その場で足を止め煙が晴れるのを待った。
そして、徐々に煙が晴れて行くと、そこには思っていない姿の一空がいた。
「!?」
そこには、少し腰を落とし背を丸めて獣の様な体勢をし、頭にはライオンの様な顔の鎧で覆われていた。一番特徴的だったのは、尻尾が生えている事だった。
頭部から尻尾にかけて機械の様な物で背骨が覆われていた。両手足は、獣の手足の鎧で覆われ、背骨から骨の様に一本の線が伸び補助装置の様になっていた。
そして、ゆっくりと口を開けて俯いていた顔を上げた。
「何だ...あの姿は....」
予想もしていなかった姿に部長は、言葉に詰まった。