6章⑤ 一空 & 仁 VS 部長
翡翠の開始の合図と共に両者は、腰に付けていたストラップを引っ張った。
一空は、いつもの腕のゲージが3本ある状態の装備を纏い、仁は木刀を1本手に握っていた。そして部長は、片手に自分が所持する銃槍の〈五源器〉の1つを握っていた。
両者は、開始直後はすぐに動く者はおらずその場に立っているだけだった。
「(部長もすぐには攻めて来ないか...)」
一空がそう思うと、腕のゲージを1本使用して『Type-Ⅱ』の姿へと変わった。
そして、仁の方をチラッと目だけで見ると、仁も一空の視線に気付くと小さく頷いた。
すると、一空は肩幅に足を広げると、そこから上下に少しずらし姿勢を低くして、足に力を入れた。
次の瞬間、一空は一瞬で部長の前まで移動し右拳を顔面目掛けて振りかざしていた。
その攻撃に部長は、驚く事もなく一空が突き出した拳を右手に持った銃で、手の甲目掛けて振り払った。
『ゴンッ!』と言う音が響き、一空の突き出した拳が左に逸らされる。
だが、一空はそんな事を想定していたのか、その場から逸らされた反動を活かし、後ろ蹴りで左足のカカトで振り抜いた。
しかし、それは空を切った。
「!?」
部長は、姿勢を低くして一空の攻撃をかわしていた。そして、部長は銃を一空の顔が来るところに構えた。
そこに一空は体が勢いのまま回転すると、正面に部長が構えた銃があった。
「っ!!」
銃は目と鼻の先にあり、勢いのまま体を回転させていたので避けられる攻撃ではなかった。
「.....」
部長は無言のまま、銃の引き金を引き始めた瞬間だった。
部長の左側から、仁が木刀を振り下ろしていた。
木刀はそのまま部長の首元目掛けて振り下ろされたが、『ガンッ!』と鈍い音が響いた。
「なっ!」
その音は、部長の左腕に振り下ろされた際の攻撃音だった。
「(硬い!?)」
仁の攻撃を受けた部長の腕は、まるで強固な鎧でも着ているかの様な反動を返していた。
しかし、部長が羽織っているのはいつも肩にかけていた上着だった。
「(まさか、その上着ただの服じゃないのか?)」
仁は反動で少し仰け反ると、部長は一空に向けていた銃の引き金を引き、レーザーを放ち一空を吹き飛ばし、そこから仁の方に向けてレーザーを放った。
直後、放ったレーザーが壁にぶつかり大きな破壊音が2回響いた。
部長は、そのまま一空を吹き飛ばした方と仁を吹き飛ばした方を交互に一度見た。
すると、一空を吹き飛ばした方で一空が右手が少し震えながら、左手をついて立ち上がろうとしていた。
「(あの至近距離攻撃を、咄嗟に右手を出してレーザーの勢いで自分を弾き飛ばしたか。)」
部長は、目の前の状況を見て先程の攻撃結果を分析していた。
そのまま仁の方も確認した。
そこには、地面にレーザーに耐えた足跡がザーッと残され壁に押される前に、木刀で弾き飛ばしていた仁がいた。
「ハァ.....ハァ.....ハァ.....」
仁は息を切らしながら、両腕を下に降ろし少し前かがみの状態で立っていた。
「(大した威力の攻撃じゃないから、弾き飛ばせて当然か。)」
そして、部長は2人を挑発するような言葉を発した。
「あの程度の攻撃一発で、そんな状態とは呆れるな。もう限界なら、さっさと降服でもしろ。」
「っ!!」
その挑発に押されるかのように、2人は体を起きあげた。
「ちょっとした準備運動だよ。」
「まだまだ、これからだ。」
部長から見たら、2人の言葉は強がっているようにしか聞こえていなかった。
小さくため息を漏らすと、一空目掛けて銃を向けた。
そして、銃口にエネルギーを貯め始めた。
それを見て、一空は大きく真横に移動し始めた。部長はそれを追うように、銃口を向き続けた。
仁から見ると目の前には、背を向けた部長がおり全くこちらを見る気配がなかった。
だが、先程のように無闇に直接攻撃を仕掛けても無駄だと考え仁は、両足を縦に広げて体を捻った。
「(御神楽流剣術参ノ型)」
そのまま捻った反動を利用し、勢いよく木刀を振り抜き斬撃波を部長に放った。
一直線に部長に向かうと、仁が斬撃波を放つと同時に、部長は急に一空に向けていた銃口を真上に向けて引き金を引いていた。
「!?」
銃口に貯められたエネルギー弾が宙に放たれると、エネルギー弾が弾けて部長の周りに雨のように降り注いだ。
そのエネルギー弾の雨に、仁の放った斬撃波は打ち消された。
そして地面にエネルギー弾が降り注ぎ、周りに煙が立ち部長の姿が見えなくなった。
「これはっ!」
仁が目の前の光景に驚くと、煙の中から突然
鋭い刃が仁めがけて飛び出てきた。
「っく!!」
仁は咄嗟に木刀で、刃を受け止めたがその奥から部長が左足の蹴りを仁の右肩にぶつけた。
仁は少し体勢がフラついてしまい、その一瞬を逃さず再び銃口を仁の腹部に押し付けて、鋭いレーザーを放った。
「(一瞬で銃にっ!)」
「ガッハァッ!!」
仁はレーザーを腹部に受けて壁まで吹き飛ばされた。
「ぅう....あんな銃槍ありかよ....」
壁に打ち付けられた仁を見た部長は、無言で銃口をそのまま向けて、引き金を引こうとしていた。
そこに煙を突き抜けて一空が剣を握りしめて振り抜いて来た。
『ギンッ!』と一空の剣と部長の銃槍がぶつかり合った。
両者は、そこから右足の蹴りを繰り出したが先に部長の攻撃が決まり仰け反らされた。
そして部長は、銃口を一空に向けた。
「これならどうだ!」
すると一空の周りが急に煙に覆われた。
「!?」
次の瞬間、目の前の煙から丸太のような鎧が部長目掛けて振り下ろされた。
それに、部長は咄嗟に銃槍を真横にして両手で受け止めた。
「これがとっておきか?」
部長がそう呟くと一空を覆っていた煙が晴れた。そこに立っていた一空の姿は先程とは異なり、両脚が一回り大きい鎧で覆われていた。
「『Type-Ⅳ』はこれからだ。」