6章① 理解出来ない発言
部長が一空と仁の前に姿を見せてから2日後の月曜日となった。
「部長の奴、話があるって言ってたけど何の話をするんだ。」
そんな事を呟きながら、一空は部室へと向かっていた。
そして、部室前に到着し扉を開けると部屋には、部長と仁が既に部屋にいた。
「来たか、万城。」
仁に声をかけられると、軽く頭を下げて反応し、一空は扉を閉めてソファーに座った。
「揃ったな。それじゃ始めようか。」
部長が、机に両手を前で組んで両肘を机について話し始めた。
「万城が、来る前に御神楽から話は聞いた。今日私から話そうとした事は、その事についてだ。」
「その事って何の事だ?」
一空が部長に質問すると、仁が先に答えた。
「彩音の事についてだ。」
「っ!」
仁の返答に一空は強く反応した。
「部長、彩音の事何か知っているのか?」
「あぁ、知っているぞ。その事だが、結論から伝えると...」
部長が少し間をあけてから話した。
「彩音の事は、もう忘れろ。」
「なっ!?」
部長の言葉に驚く一空と仁。
その瞬間、何を言っているのか意味が分からず2人はその場で固まっていた。
「私がお前達に話したい事は、以上だ。」
そのまま部長が椅子から立ち上がろうとした時に、一空が声を上げて部長を止めた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「何だ、万城?」
「どう言う事だよ!さっきの事は!」
「言った通りの意味だが。」
「だから、それがどう言う意味かって話だよ!」
理解が出来ず強い言葉を発する一空に対し淡々と答える部長。
「意味?そのままじゃないか。彩音の事を忘れろと言っているんだ。」
「いきなり帰って来てそれはどう言う事だ?そんな言葉だけで理解出来るわけがないだろう!しっかり説明をするのが常識なんじゃないのか?」
そこに仁も割り込んで来て、部長に向かって発言した。
「お前もか、仁。」
「流石に訳が分からない事だらけだ。何故、彩音の事を忘れなきゃいけないんだ?」
一空に変わり少し冷静な仁が部長に問いかけた。
すると、部長が少しの間一空と仁の方を見続けた後に口を開いた。
「理由は......竜胆の時と同じだ。」
「っ!?」
「それは、どう言う....」
仁が部長に更に問い続け様とした時だった、学園中にアナウンスが入った。
『ピンポンパンポン』
「理事長、理事長。理事長室にて緊急の連絡が入っております。今すぐ理事長室にお戻り下さい。」
『ピンポンパンポン』
アナウンスが終了すると、部長はすぐに部室の扉へと向かい手をかけた。
「今のアナウンス通りだ。私は部屋に戻る。」
そう言って部長は、急いで部室を後にした。
「ちょっと...」
一空が、声を出した時には既に部長は部室を出ていた。
その後2人は、いきなりの事に全く理解出来ずに少しの間黙ったままその場で固まっていた。
すると、先に一空が口を開いた。
「竜胆と同じって、それは彩音もスパイだったって事かよ......」
「そう.....なるな.....」
「ありえないだろ.....そんな訳ないだろ....」
そう言って一空は、ゆっくり部室の扉へと歩き出した。
「もう一度確認する。何でそんな事を言ったのか、何が証拠なのか、部長に問いただす。」
「待て、万城。」
仁が一空に声をかけると、一空が振り向いた。
「何だよ、御神楽。止める気か。」
すると仁は、首を横に振って立ち上がった。
「いや、俺も一緒に行く。あんな説明で、はいそうですかといくか。」
そのまま2人は、部長と再度話す為に理事長室に向かった。
そして、理事長室の扉をノックしたが返事もなく、再度ノックをしても返事がない為中に入るとそこに部長の姿は無かった。
そこから、仁が教員室にて理事長の行方を確認して戻って来ると、部長は既に外出した後だと分かった。
その後、再び部長が姿を現わす事はなかった。
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それから、2週間後の7月8日の月曜日の放課後だった。
あれ以来部長の姿はなく、この日は一空と仁が手合わせを終えて部室に戻って来ると、部長がいつもの椅子に座っていた。
「っ!?」
その光景に2人は驚いた。
「2週間振りか、2人共。」
部長が2人に声をかけると、一空が勢いよく部長が座っていた前の机に歩いて行き、左手を机に叩きつけて、体を乗り出して部長の胸ぐらを右手で掴んだ。
「あんた、どこに行ってたんだよ。」
「万城何をっ!?」
その光景に仁が驚きの声を上げた。
そして部長は、掴みかかって来た一空を睨み見上げて口を開いた。
「いきなり何をするんだ、万城。」
「それはあんたが、変な事言った後に急に姿を消すからだろが。」
部長の低くて冷たい声に動じる事なく、一空は反論する様に言葉を発した。
「いいから、この手を離せ。」
「あんたは何で、あの時あんな事を言ったんだ。何を根拠に彩音を忘れろって言ったん...」
一空がそう言いかけた時だった、部長が机の引き出しからプラモデル銃を取り出して、一空の額に押し付けて『カチッ』と引き金を引いた。
プラモデル銃からは、球は出る事は無かったが一空が後ろに吹き飛んだ。
そのままソファーに背中から落ちると、一空はプラモデル銃を押し付けられた額を押さえつけて痛がっていた。
「いっってぇぇ.....」
「お前が離さないで、長そうな話を始めるからだ。」
部長は、プラモデル銃を机の引き出しにしまうと椅子から立ち上がり、一空の方へと向かった。
「万城、いきなり何してんだよ。」
仁が見下ろして呟くと、一空がさすりながら起き上がった。
「くぅぅ....久しぶりにくらった....」
「少し落ち着いたか?」
部長の言葉にゆっくり頷く一空。
「何も伝えずにいなくなった事は謝る。それにあの時の話だが、私も言葉足らずだったと改めて思った。すまない。」
思っていない部長の言葉に2人は、『キョトン』としていた。
「何だ、その顔は。」
「い、いや。そんな言葉が聞けるとは思ってなかったから。」
仁がそう言うと、部長は片手を腰に当てて少し呆れた様に言った。
「何だそりゃ。」
そして、部長が軽いため息をした後に話し始めた。
「一空の態度からも、あの時の話の説明が不十分だと改めて分かった。あの時は私も十分に整理でききれていなかったからな。」
「....」
「今日はお前達も、納得出来る準備が出来たからあの日の話の続きを聞いてもらうぞ。」
「...部長、ひとまずは貴方の話を聞きますが、現時点で俺達はあの話を信じる事は出来ません。」
仁が部長に自分の意思を伝えると一空が軽く頷いた。
「お前ら何か勘違いしている様だが、話をするのは、私じゃないぞ。」
「え!?」
すると部長が部室の扉の方に向かって声を張った。
「おい、入って来い。」
そう言うと、部室の扉が開いて1人の人物が入って来た。
その人物を見て、一空と仁は目を疑った。
「な、何でお前が....」
「ありえない....」
部長に呼ばれて部室に入って来た人物は、元〈神守護〉のセカンドこと伍代翡翠であった。
「お久しぶり....いや、初めましての方が合っているかな。」