5章㉝ 鈴の音
数分後彩音が泣き止むと、目を腫らした状態で顔上げると部長が、彩音の顔に向けて一枚のタオルを投げつけた。
「その顔は、誰にも見せるな。」
「...はい...」
すると部長は立ち上がり、仁に話かけた。
「御神楽、お前はそこの万城と彩音と共に部室に戻れ。」
「部室って....まずは、こっからどう脱出するかじゃないのか?」
その言葉の後に、部長は仁に向かって一つのカプセルを投げ渡した。
「何だよ、これ?」
「それを潰して、後ろに軽く投げろ。」
「?」
仁は、何なのか分からないままとりあえず部長の言う通りに行動した。
そして、潰した状態のカプセルを後ろに投げるとそこの空間に黒い円形のゲートが出現した。
「!これは、確か...」
「元々、これを使って脱出するつもりだったんだ。こいつは、あの閻魔が使っていた移動手段の転送ゲートだ。」
「何で、そんな物を使えるんだよ。」
「昔の友人が、興味本位で作った物を貰っただけだ。まぁ、閻魔の奴は知らないだろうがな。」
部長は、そう言うと翡翠を両腕で持ち上げた。
「そのままゲートを通れば、部室に出るはずだ。通り抜けたら、勝手にゲートは消えるから安心しろ。」
「あんたは、来ないのか?」
仁が部長に問いかけると、一瞬仁の方を向いたがすぐに前を向いて、片手に持っていたカプセルを潰して軽く前に投げた。
「私は、こいつを閻魔に渡してくる。このまま、彩音の恩人をここに置いていく事は出来ないからな。いいな、彩音。」
彩音は、軽く頷いて問いかけに答えた。
すると、彩音はそのままゲートに入って行った。
「彩音...」
仁がその後ろ姿を見て呟いた後に、倒れている一空に近付き、担ぎ上げた。
「御神楽。」
そこで急に部長に呼ばれて振り返った。
「そこのバカは、そのまま病院に連れて行け。それと...」
「それと?」
部長は、少し間を空けてから、また話始めた。
「彩音から、目を離すな.....何かあれば連絡しろ。いいな。」
「分かったよ。」
そう返答して、仁は一空を担いだままゲートを入って消えて行った。
「......」
少しの間、仁達がくぐって行ったゲートを見つめてから自分で出したゲートに翡翠を抱えたままゲートに消えて行った。
その数分後、両方のゲートが徐々に小さくなりその場から消滅した。
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仁がゲートを通って抜けると、その先は部長が言っていた通り部室に辿り着いた。
「本当に部室に帰って来た...」
仁は、少し驚いた表情をした。
ゲートを抜けてから数分すると、ゲートが徐々に小さくなり消滅した。
彩音は、上にジャージを来た状態で部室の扉の前に立っていた。
「彩音?」
仁の問いかけに、彩音は少しだけ首を動かして答えた。
「仁さん...私、先に帰るね。」
「お前も怪我してるだろ。コイツも連れて行くんだ、一緒に病院に行った方がいい。」
「ジャージで隠せるし、大した怪我じゃないよ。自分でやるから大丈夫...」
「だが...」
「仁さん、心配してくれるのは嬉しいけど......今は1人になりたいの....」
「...」
彩音の返答に仁は、彩音の気持ちを考えて引き止める事が出来なかった。
「ありがとう...」
「彩音、1人で考えこむなよ。」
彩音は、小さく頷いて部室から出て行った。
部室の扉が開いた瞬間、廊下で生徒達が歩いている事が確認でき、時間が止まっていた状態も解除されてる事を仁は認識した。
「...さて、部長から目を離すなって言われたけどな...どうすっかな.....」
仁は、一空をソファーに下ろして少し考えて答えを出した。
「ひとまず、家に無事に帰る事までは確認しとくか。」
仁は一空を少しの間、部室に置いて行く事を伝えたが、意識を失っており返事がなかった。
「万城!....おい、万城!こりゃ、コイツの方が先だな。」
仁は一空の状態を確認し、先に病院に行く事にした。
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時は少し戻り、部長達がゲートを通った後にゲートが消滅した直後。
誰もいなくなり、激しい戦闘の跡のみ残っている空間に何かが崩れ始める音が小さく響く。
その音は徐々に大きくなっていき、天井の一部ににヒビが入り、その箇所周辺が一気に崩れ落ちて来た。
辺りに瓦礫が散乱したのち、天井に空いた穴から1人の人物が飛び降りて来た。
「ここか....」
その人物は、〈神守護〉の1人であるフォースであった。
フォースは、両手に中国刀を所持して周囲を見回していた。そして、右耳に片手を当てて話し始めた。
「こちらフォース。ファーストがいたと思われる部屋に到着。だが、姿はなく戦闘の痕跡のみ確認できた。引き続き捜索を継続する以上。」
フォースがそう言うと、数秒後に右耳に返答の通信が届く。
「こちらフィフス、了解。」
「そっちの状況はどうだ?」
「こちらも、セカンドの所有する部屋に到着し、捜索をしたが姿は確認出来なかった。...だが...」
「だが?」
「セカンドが常に付けていた、仮面の破片を確認した。」
「っ!」
フィフスからの返答に少し驚くフォースだったが、すぐにフィフスに指示を出した。
「フィフスは、そのままセカンドの行方を探せ。何か発見次第、連絡を入れろ。」
「了解。」
フィフスからの通信はそれで終了した。
フォースは、通信が終了してから周囲を探索し出した。
そして、所々に出来た地面の焦げ跡に手を当てた。
「この跡は、ファーストの攻撃痕か....」
そこからフォースは、部屋の奥に大きな穴が空いていることに気付きそちらに歩き出すと足元に白い仮面の破片を見つけた。
「これは、確か...!?」
フォースがそれを拾おうとした時に、再び通信が入った。
「こちらシックス。サードが所持していた部屋にて、負傷して気を失っているサードを発見。」
「こちらフォース。シックス、そのままサードを保護しすぐに治療を行え。意識が回復次第、今回の一件を聞き出す。」
「了解。」
シックスからの通信が終了すると、フォースは見つけた仮面の破片を拾い、しまうと大きく壁に空いた穴へと向かっていき、穴の前で立ち止まった。
「この穴は...」
すると、その穴の奥から何かの叫び声が聞こえて来た。
「っ!!」
その声に驚くフォース。
「何だ今の声は...バケモノでもいるのか。」
フォースは、一度後ろを振り向いた。
「(ここには、誰も居ないようだし捜索場所を変えるか。)」
そしてフォースは、叫び声が聞こえて来た穴の奥へと進んで行った。
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フォースが穴の奥へと進んで行くが、ずっと薄暗い通路が続いていた。
すると、急に道がなくなりそこから砂利のような坂道が現れ奥に光が見えた。
「あそこは...」
フォースが砂利の坂道をゆっくりと降り始めると、そこに先程聞きたい叫び声が聞こえた。
「グゥゥァァァアアアアア!!」
「!!あそこに、さっき聞いた声の奴が...」
フォースは、滑るように坂道を下って光が見えた方に進んで行き、その奥に入った。
「....こっこれは....!?」
そこの光景に言葉を失った。
フォースの目に入って来たものは、1つの部屋の真ん中に雷を体から放っている人物が立っており、その部屋は壁も床もボコボコになったり瓦礫の山があったりしていた。
「あれは...」
「っ!」
フォースの存在に気付いたのか、真ん中に立っていた人物がゆっくりと振り返った。
「グゥゥゥゥ....」
「あんた...ファースト...か?」
「グゥゥギャァァァアアアアア!!」
その人物は、叫び声を上げながら両腕に纏った雷をフォース目掛けて放った。
「っ!?」
フォースは突然の攻撃に、反応が遅れ防ぎきれないと思われた時だった。
真横からいきなりフォースの前に、1つの人影が現れ、フォースに向かって放たれた雷を剣の一振りで弾いた。
「!」
「危なかった...怪我はないかい?」
フォースの前に立った人物が声をかけたが、何故かその声はノイズがかかって聞こえた為、フォースは聞き取れなかった。
「....そうだった、話しかけても聞こえないんだ。」
フォースの前にいる人物がまた何かを話した様に見えたが、フォースには何を言っているか分からなかった。
「お前は...誰だ?」
その人物は、ローブを着てフードを被っており顔まで見えなかった。
するとその人物は、目の前にいた雷を放った人物目掛けて突撃しに行った。
直後にその人物から、鈴の音が響いた。