5章㉛ セカンドと伍代翡翠
「ここは.....どこだ.....」
そい呟いた言葉は、どこまでも響いていった。
そこは、薄暗い空間に自分だけが浮いている状態であった。どこかに灯りがあるわけでもなく、宙に浮いているため自由に動けなかった。
「おーい、誰かいないのかー?」
宙に浮いている人物はそのまま叫んだが、ただただ声が響いて行くだけだった。
すると、急に眠気が襲って来た。
「うぅっ.....何だが眠くなって来た.....」
その人物は体を丸める様にし出し、まぶたも徐々に落ちて来た時だった。
目線の先に、真っ白い仮面がある事に気付き、閉じ始めていた目を開いた。
「あれは...何だ?」
不思議がっていると、真っ白い仮面がその人物の前まで向かって来て止まった。
「!?」
そして、真っ白い仮面から声が聞こえ出した。
「目を覚ましていたか。」
「仮面が、話した...」
「だが、すぐに眠るだろう。」
「アンタは、誰だ?人なのか?ここは何処なんだ?」
喋る仮面に対して、質問攻めをするが仮面は答えなかった。
だが、その人物は目の前にある仮面を両手で掴んで、揺らしながら質問を続けた。
「なぁ、ここは何処なんだ?アンタは知ってるんだろ?何処から外に出るんだ?」
すると、真っ白い仮面が一言呟いた。
「外に出る?」
「?」
真っ白い仮面は、掴まれていた手から一瞬で離れて一定距離を取った。
そして、真っ白い仮面から『ドロドロ』と白い泥の様なものが溢れ出て、徐々に人の形になって行き、目の前に現れたのはセカンドだった。
「お前が外に出る理由はないだろう。」
「外に出る理由はっ......理由は.....」
途中まで言いかけたが、それ以降の言葉が出てこず詰まっていた。
「ないだろう。だから、ただ寝ているだけでいいんだよ。」
「寝ているだけで.....いいのか.....そうか.....」
セカンドに言われるがまま、何も疑問を持たずに鵜呑みにして、再び瞳を閉じ始めた。
そこにとある声が響いた。
「翡翠!」
その声に、瞳を閉じかけていた人物は強く反応し、目を見開いた。
「翡翠.....そうだ、思い出した。俺は翡翠。伍代翡翠だ。」
「っ!」
「今の声は、彩音様。さっき目の前にいた様な気が......」
「あの一言だけで、意識を戻すとは、奴への思いが強いのか。」
セカンドは、淡々と呟き翡翠に手をかざして、白い粘土状の物体を放出し覆い被せようとした。
「!!」
翡翠が気付いた直後に、白い粘土状の物体が覆い被さった。
「思い出した所で、また失うだけだがな。」
「何を失うって?」
「!?」
セカンドは、真後ろからの声に驚き振り返ると、そこには翡翠がいた。
「何故そこに!」
「さぁ?俺にも分からん。だが、お前は何か知ってそうだな!」
「くっ!」
「...お前、まさか7年前のっ....」
翡翠が、そこまで言いかけた瞬間だった、大きな音が響き渡り、翡翠の後方の空間にヒビが入り割れた。
そこから光が漏れ出ていた。
「あれは...」
翡翠は手をかざしながら、光がさす方を見て、再度セカンドの方を向くとそこにセカンドの姿はなかった。
「いない...とりあえず、あそこから出れそうだ。」
そして翡翠は、光がさす方へと向かって行った。
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「う“ぅっ.....」
呻き声を出して、瞳を開けると身体中に痛みが走った。
「う”ぐっ...!」
視界は、右側しか見えていなかったが、体の感覚はありうつ伏せの状態だった為、立ち上がり始めた。
その時、聴こえて来た声と視界に入った光景に驚いた。
「.....あの声は、彩音様?...!?」
そこには、体から雷を放つ人物に向かって、彩音が刀で斬りかかる光景だった。
「何だ....これは.....」
動揺している翡翠の頭の中に声が響いた。
「(また仮面が壊れた事で、外に出てくるとはな。)」
「この声は...さっきの奴か。」
翡翠の頭の中に響いた声は、セカンドのものだった。
「(すぐに修復され、お前はまたあそこで眠りにつくんだ。)」
すると、仮面の壊れている所から白い液体が少しずつ出始めて、修復を開始した。
「させるかっ。」
翡翠は、咄嗟に左手を仮面に引っ掛ける様に当てて引き剥がそうとした。
「(取ろうとしても無駄だ。修復の方が先に完了する。それに、その体で力が入るわけない。)」
セカンドの言う通り、翡翠の体は既にボロボロで動かすだけで痛みが走る体だった。
「ぐぅぅううっ!!」
翡翠は、争う様に仮面を引き剥がそうとしたが、セカンドの言う通り修復する方が早く徐々に壊れた箇所が元通りになり始めた。
そんな翡翠の視界に、彩音がファーストに捕まり避けられない状態になったのが入った。
「!...彩音様っ!」
それを見た、翡翠はとある記憶を思い出した。
「俺は、また同じことを繰り返すのかっ!」
「(?)」
「目の前でまた失われるのを見ているだけか!」
「(さっきから何を...)」
独り言をぶつぶつと呟きながら、脚は少し震えていたが、翡翠は立ち上がった。
「約束を守れ...使命を果たせ...体が動く限り...」
「(さっさと俺の支配下に戻れっ!)」
セカンドがそう発した直後、修復速度が上がった。
だが、翡翠は顔だけ俯いたまま左手を離さずに仮面を握っていた。
そして、顔を上げると左半分になった仮面を、左手で割れた箇所から掴むと叫んだ。
「黙れ!......俺の体だっ!!!」
そのまま力一杯引き剥がしにかかると、徐々に仮面が剥がれ始める。
「(何っ!?)」
「うぅぅらぁぁああっ!!」
翡翠が叫ぶのと同時に顔に付いていた仮面が剥がれた。
「(バ....カッ.......ナ.........)」
その直後、仮面は溶けるように液体に変わりセカンドの声も聞こえなくなっていた。
「ハァ.....ハァ.....ハァ.....」
「翡翠...」
「ハァ...彩音...様....」
翡翠は、そう呟いた後ファースト目掛けて突っ込んだ。
ファーストも体を翡翠の方に向けて、同じように突っ込んだ。
そして2人が衝突する寸前に、翡翠が右脚をファースト目掛けて振り抜いた。
それをファーストは左腕で防ぎ、右手に溜め込んだ雷を放とうと翡翠に向けたが、その時翡翠は目の前にはおらず、その場から飛び上がっていた。
「っ!」
翡翠はファーストの頭上から左かかとを、勢いよく振り下ろした。
『ガンッ』と言う音が響き、ファーストは顔面を地面に叩きつけられる。
「ガハッ!」
翡翠は攻撃の手を緩めず、真横に移動しすぐさま立ち上がって来るファーストの腹部目掛けて、正拳突きを叩き込み吹き飛ばした。
ファーストは、4、5メートル飛ばされ倒れていた。
「嘘だろ、素手だけであのバケモンを吹っ飛ばしたのかよ...」
仁はただただ驚いていた。
すると翡翠が、彩音達の方に近付いて来た。
「翡翠.....なんだよね?」
彩音が恐る恐る声をかけると、少し間を空けてから翡翠が片膝をその場でついて答えた。
「はい、伍代翡翠です。彩音様。」
「翡翠、まさかこんなとこで再開出来るとは思ってなかったわ...」
「私もです、彩音様。...あの時、彩音様を守る事が出来ず私は.....」
翡翠が話している途中で、仁が割り込んで入り込んだ。
「再開を喜んでいる所、すまないけど今はこの状況から抜け出す事を考えて欲しいな。」
仁は、一空を肩に抱えた状態で話していた。
「御神楽すまない.....」
「お前は無茶し過ぎだ!たっく...」
仁は一空に軽く怒り、その間に彩音と翡翠も立ち上がり今は、仁の言う通りにする事にした。
そしてファーストの方を見つめると、ゆっくりと立ち上がり始めていた。
「翡翠。さっきの話は後でゆっくりしましょう。」
「はい、彩音様。まずはこの状況を変える事からですね。」
彩音と翡翠が構えるとファーストは、こちらを確認し小さく唸った。
「ウゥゥ.....」
「俺はコイツを支えているから、彩音とアンタにかかってるからな。」
「任せて、仁さん。部長のとこに行くまでの時間稼ぎはやってみせるは。」
「彩音様がそうおっしゃるならば、私はそれをお手伝いするまで。」
そして、ファーストは大きな雄叫びを上げた。
「ウゥゥガァァアアアッ!!」