5章㉚ 誰の為に立ち上がるのか
「何だアイツ...」
「意識があるように見えない...」
「...っ!」
部長達は、ファーストの状態を見て息を飲み、一空は驚いていた。
「ウゥゥググゥゥ....」
ファーストは、頭を色んな方向に向けながら、うなり続けセカンドの方に歩き続けていた。
「(チッ.....先にあっちを回収すべきだったか...)」
セカンドは、心でそんな事を考えながら迫って来るファースト目掛けて両手を向けて、白い粘土状の物を放った。
白い粘土状の物は、ファーストの体に纏わりつくと縛り上げる様に全身に広がった。
「アァァガァァァ......」
徐々に白い粘土状の物がファーストを飲み込んで行き、身動きが取れなくなったファーストは真上を向いて叫び出した。
「ググゥゥガァァァァアアアアアアア!!」
すると、ファーストの目や口から雷が放出され体を覆っていた白い粘土状の物からも雷が漏れ出した。
そして、体に纏わり付いていた白い粘土状の物を全て弾き飛ばすと、体全身から雷を放出していた。
「ガガァァァァアアアア!!」
その姿は、雷の獣かと思える物だったが次の瞬間急にファーストに異変が起こる。
「グゥゥゥゥ.....ガァァァ.....」
ファーストは頭を抱えて苦しみ出した。
その間も身体中から雷が放たれ続けた。
「暴走でもしてるのか?」
ファーストの姿を見て仁が呟いた。
次の瞬間、ファーストは突然と顔を上げてセカンドを睨み様に見ると、勢いよく突っ込んで行った。
「わざわざ近付いてくれるのは、ありがたいね。」
セカンドは、そう呟いた直後ファーストの足元から白い粘土状の物が現れて、ファーストを食う様に飲み込もうとしていた。
だが、全てが閉じられる寸前にファーストは抜け出しセカンドに近付くと、左フックでセカンドの顔の真横を殴り抜いた。
「グゥフックッ!!」
セカンドは、そのまま壁に吹き飛ばされた。
「ガァッ.....あれを抜けるだと....」
セカンドの仮面は、殴られた右側に多くのヒビが入っており、仮面の下からは血が流れていた。
「(一体化し始めている....いや、アレは呑まれているのか。どっちにしろ、これ以上は手に負えなくなる。)」
セカンドは、そう考えてファーストの方を向いた時だった。
顔の右側に雷の砲撃が、目に入った。
だが、既に目と鼻の距離であったため避ける事が出来ず、顔の右側に直撃してしまうのだった。
『バンッ!!』
大きく弾ける音が響き渡った。
セカンドは、顔に雷の砲撃を受けて反動で壁に打ち付けられた後、前に倒れこんだ。
「グゥウガァァアアアアアアアア!!」
ファーストは、雄叫びを上げると『グリッ』と顔を部長達の方に向けた。
「見逃してはくれないか...」
部長は銃口をファーストに向け、仁も木刀を構えるたが、彩音は倒れているセカンドの方を見つめて小さく呟いた。
「......翡翠....」
セカンドが、倒れてから全く動かずにいたことに彩音は、昔の記憶が呼び起こされ血の気が一気に引いた。
「.....なんで....動いてよ....動いてよ....死なないで...死なないで...」
「彩音?」
ぶつぶつと震えながら呟く彩音に気付いた仁が、声をかけたが反応は返ってこなかった。
「誰が...誰が....やった.....私の家族を...誰が....!」
彩音が、前を向きファーストを視界に捉えると声を上げた。
「お前だなッ!!」
そう言って彩音は、勢いよく飛び出し腰元に付けていた日本刀のストラップを引っ張り、日本刀を出現させて、ファーストに振りかぶった。
「彩音!?」
「何やってるんだ、アイツはっ!」
部長はすぐにファースト目掛けて、銃口からレーザーを放ち仁に声をかけた。
「御神楽、彩音を連れ戻して来い!只でさえ、化け物じみた相手に感情のまま突っ込むのは、死にに行くようなものだ!」
「分かってる!」
仁はすぐに彩音の後を追った。
だが、既にファーストと彩音は衝突していた。
部長が放ったレーザーは、腕を振るって弾き後方へと逸らし、突っ込んで来た彩音の攻撃を片手で受け止めていた。
「ウグゥゥゥゥ....」
「お前が...お前が、私の家族をッ!!」
彩音は引くことなく押し切る様に力を入れ続けた。
「彩音!戻って来い!」
そこに仁が追い付き、彩音を真後ろから羽交い締めにして、ファーストから引き剥がした。
ファーストは、離れた彩音に対して拳を叩き込もうとしたが、正面からレーザーが迫って来る事に気付き、拳をレーザーに向けて弾いた。
「彩音、しっかりしろ!正気に戻れ!」
「うるさい!離せぇ!!」
彩音は、羽交い締めの状態でも暴れると仁の足元もすくい上げる様に、足を絡めて仁から離れると再びファーストに日本刀を振りかざした。
仁は突然の事に、彩音を離してしまい地面に倒れた。
「なっ!」
「鉄よ、我が命に従い『業火』となれ!」
彩音の日本刀は、炎を纏った状態でファーストに振り下ろされた。
だが、ファーストは片手で炎を纏った日本刀を握り締めて攻撃を止めた。
「!?」
ファーストに握られた日本刀は、ビクともせず彩音の動きも止まってしまう。
すると、彩音の顔の正面にファーストはもう片方の手をかざした。
その手の中心には、雷が一点に集まっていた。
「彩音!」
「っ!!」
その状況を一空も目にしていた。
「彩音ッ!!」
だが、体は言うことを聞いてはくれなかった。
「(なんでだっ!!.....なんでだよ!...動け、動けよ!!.....ここで行かなきゃ、アイツがッ!!)」
一空は腹の底から叫び声を上げ、体にムチを打って立ち上がる。
それを横目で部長が見かけて驚く。
「万城!?」
先程まで、動けるような状態でなかった一空が立ち上がっている事に驚きを隠しきれなかった。
そして無理して動こうとしている一空を止めようとしたが、一空はその直後地面を強く蹴り、低い姿勢で一直線に彩音の元へと突っ込んだ。
だが、既にファーストは顔面に攻撃を放つ瞬間であり彩音が、避ける事は不可能であった。
「グゥガァァァァッ!!」
ファーストが叫び声を上げると同時に、後方から声が近付いて来た。
「....っぁああああややねぇぇぇえ!!」
そこに一空が叫びながら低い姿勢で突っ込んで来て、彩音にタックルする形で避ける事が不可能だった、ファーストの攻撃から救ったのだった。
直後、ファーストがかざしていた手から目にも留まらぬ雷の砲撃が放たれ、壁に『ポッカリ』と10センチ程の穴が空いていた。
「いっっ...!」
彩音は一空に押し倒される様にして、地面に倒れた。
その瞬間に、彩音は正気を取り戻した。
「いっ...一空?」
「彩音...無事か...」
一空は倒れたまま、顔を向けて話した。
「私...」
そこに仁も近寄って来た。
「正気に戻ったか、彩音。」
「仁さん...私、何を...」
「それは、今は気にするな。それより、この状況をどう打開するかだ。」
仁はファーストの方を見ると、ファーストは攻撃を放った体勢のまま止まっていた。
「何だ?」
ファーストは、そこから顔だけ右に向けてその方向を見つめていた。
仁と彩音もその方向を見て驚いた。
「....翡翠!?」
そこには、うな垂れた状態で立ち上がっていたセカンドがいたのだった。
そして、顔を上げると左半分になった仮面を、左手で割れた箇所から掴むと叫んだ。
「黙れ!......俺の体だっ!!!」