2章③ 一空と竜胆の実力差
地下訓練所へ向かう途中は皆無言で、ピリピリした雰囲気であった。
地下訓練所は、体育館とは別の映画館の様なホールがある校舎の地下にあり、階段を下って行き扉を開けると体育館と同じくらいのホールがあった。そこに着くなり部長が仕切る。
「勝負は10分後に開始、ストラップ魔法の使用は許可する。それまでに各自で体を作れ」
そのまま一空と竜胆は逆の方向に向かい準備運動や精神統一をしだす。
「部長、本当にやらせるんですか? 一空は昨日、力を初めて使ってましてや戦闘なんて初心者ですよ!」
「そんなの分かってる。だから、ここで自分の現状を知ってもらう方がいい。私も昨日のは本当にマグレだと思ってる」
それに彩音も黙り込む。
「あのまま、奴らと今後やりあったら次にアイツは必ず死ぬ。話して分かる奴じゃなさそうだし、実感した方が理解するだろう」
部長はただ2人のケンカを楽しんで後押しをしたのではなく、その後のことも考えての発言だと知る彩音。
「すいません……部長は、ただケンカを楽しんでいるのものと思ってました。一空の今後を考えての発言だったんですね」
「んっ……ま、まぁそんなとこだ」
何故か歯切れ悪く答える部長に彩音は問いただす。
「まさか、今のはとっさに思いついたものじゃないですよね?」
「そんなことないぞ! 思ってた、思ってたぞ」
「本当ですか……」
部長は彩音の方は見ずに頷いて問いかけをかわした。
「(さすがに、二の次だったとは口が裂けても言えん!)」
2人がそんなやり取りをしている時、一空は体を動かしながら考え事をしていた。
「(勢いでこうなったが、俺自身も力の使い方を完全理解してるわけじゃないし……とりあえずまずは相手がどう言う奴か観察すべきか……)」
そうして、指示された10分が過ぎた。
「それじゃ、両者準備はいいか? どちらかが戦闘不能か、降参するまで勝負とする。問題ないね?」
一空と竜胆は軽く頷いた。
「それじゃ、勝負開始!」
部長が高らかに宣言すると同時に、両者共ストラップを取り出し、ストラップの紐を引っ張った。両者の周囲が煙に覆われたが、先に晴れたのは一空だった。
格好は、昨日キメラと戦った時と同様の姿をしており、あの時使い切ったゲージは全て回復していた。一空はそれを確認し、一安心していた。
「(良かった、元に戻ってる。無かったら殴る蹴るしかできなかった……)」
そして、竜胆を覆っていた煙が晴れて姿が露わになる。
そこにいた竜胆は、一空の様な大きな変化ではないが、腕・手・脚・足に装備が付いたのみだった。
手は格闘家が付けるグローブの様なもので覆われており、一空の手に近い装備だった。腕は、鎧の様なもので覆われ所々に長方形の突起が肘側に向かい出ており、脚も腕と同様の物が装備されていた。足は革靴の様にトンがった形をしており、こちらも鎧の様な装備となっていた。
しかし、一空はそれを見てどんな力か予想がつかなかった。
「(どんな力なんだ……それに腕と脚の突起がヒントになるか……)」
すると竜胆がボクシングの戦闘態勢をとった。
「さぁ、かかってこいよ」
そう、一空を挑発したがその挑発には乗らずに一定の間合いを取ったままだった。
一空は作戦通りに、相手を観察していた。だが、ほんの一瞬、瞬きした時だった。
次に目の前に映ったのは竜胆の右拳だった。
「えっ」
避ける間もなく顔面を殴られる一空。そのまま後方に、吹っ飛ばされていき転がっていく。
そしてうつ伏せになる一空、そこから顔をあげて何が起こったか確認しようとしたが、視界に入ったのは竜胆の足元だった。
直後、ボールの様に蹴られる一空だったが、鼻血を出しながら竜胆を見上げると、竜胆は見下していた。そして、竜胆は再び右足を振り上げて一空の顔面めがけて振り抜く。
だが、一空は直感で右に転がり、竜胆の蹴りを避けるとその勢いのまま転がり距離を取った。
竜胆はその場で蹴り上げた足を戻し、目で一空を追った。一空は避けた先で態勢を立て直し、片膝をつけ鼻血を片手で拭き取り、竜胆を睨んでいた。
「(なんだあいつの力は……一瞬で目の前に現れた。スピード的な力か?)」
一空は息切れをしながらも竜胆の力を考えていた。
「よく、避けたな……野性の勘か?」
竜胆は一空に問いかけたが、一空には答えることなく竜胆の行動を観察し考え続けていた。
「答える気もないか……」
そうしてまた、ボクシングの戦闘態勢をとる竜胆。すると、一瞬で一空の前に移動し、殴り掛かった。一空はその拳をスレスレの所でかわした。
「!」
2度も避けられた事に少し驚く竜胆。一方、また横に大きく避けて距離を取る一空。
その際避ける時に一空は、竜胆の腕と脚から少し煙が出ている事に気が付く。
「(少し煙が出てる? 何だあれは……)」
一空は避けた先で煙の謎を考えようとしたが、すぐに竜胆は追撃に来て拳を突き出し始めていた。
「まずい! ……とりあえず、爆発する剣を出せ!」
一空は咄嗟に唱えると右手に剣が出現した。そのまま、その剣を片手で握ったまま盾がわりになるよう振りかざした。
そして、剣に竜胆の拳がぶつかるとそこで爆発し、大きな爆発音がホール中に響き渡った。