5章㉗ ぶつかり合う信念
ファーストは、ゆっくり一空の方へ歩きながら話し続けた。
「私は7年前の戦争の被害者だ。」
「っ!?」
「両親、兄弟、親友、知人と私の周りにいた人間は全員死んだ。唯一私だけが、奇跡的に助かった。だが、瓦礫から外に出ると世界は一変していた。」
ファーストの言葉に一空は唾を飲み込んだ。
「一面には瓦礫の山、その下敷きになっている両親。地面の至るとこに血痕があり、生臭い匂いや焦げ臭い匂いが辺りを支配していた。そんな中で私は目的もなく、歩きながら虚ろな目をして何故自分が生き残ったのか、何故戦争に巻き込まれたのか、何故争うのかを考え続けた。」
ファーストは歩き続けて一空の目の前で立ち止まった。
「そこに現れたのが我が神〈ゼウス〉様だ。〈ゼウス〉様は、私に生きる目的を下さった。あの方は、この世界を平和で争いのない世界に変えるとおっしゃったのだ!私はこの方について行けば、私みたいな人や戦争がなくなり救いのある世界になると確信したのだ!」
「...っ」
ファーストの狂気じみた言葉に一空は飲み込まれてしまい何も発する事が出来ずにいた。
「そして〈ゼウス〉様の力になりたいと懇願した私は〈ゼウス〉が力を下さった。あの方も使っているこの雷の力を!」
ファーストは、右腕に雷を纏わせると勢いよく一空目掛けて振り抜いた。
「っ!!」
一空は咄嗟に両腕で防いだが、勢いまで抑えられずに吹き飛ばされた。
「だが、我が神が世界を変える行動を邪魔する者達がいる事を知った。...お前達のような奴らだ!」
「うっっ...」
一空は受け身をとって何とか最小限のダメージで乗り切り、ファーストの方を見つめると、再びゆっくりと向かって来ていた。
「私は、この力で我が神達の行動を邪魔する者達を粛清し始めた。だが、私だけでは対処しきれなくなり仲間を集め、組織を作った。それが〈神守護〉だ。まさしく、神を守護する者達としてな!」
「あんたは、過去に自分がそうなった原因がそいつらにあるって知らないのか?」
一空は、ファーストに対して世界の真実を語りかけた。
だが、その言葉にファーストは動揺することはなかった。それどころか、呆れていた。
「お前もか...お前ら反逆者は、皆口を揃えてそれを訴えるな。」
「何?」
ファーストは、歩くのを止めて話し出した。
「周知の事実という言葉を知っているか。」
「?」
「7年前の戦争を治めたのは、我らが神達というのが常識で、それがこの世界での事実だ。それが真実であり、多くの人々も神によって救われた。お前らが訴えるものは、ただの虚言でしかない!」
「っ...」
一空はファーストの言葉を聞き、少し前までは自分もそうだと思っていた事を思い出した。
「お前達は、この世界では覆ることのない『悪』だ!私はお前らを一掃し、〈ゼウス〉様が叶える世界を実現してもらう。その為に、私はお前達を粛清する!」
ファーストが一気に距離を詰めて一空に殴りかかった。
一空は振り下ろされる拳の予測をし、両腕で防ごうとしたが、ファーストは寸前でその攻撃を止めて、もう片方の拳で脇腹目掛けて振り抜いた。
「ぐぅっはぁっ...!!」
一空の体が少し宙に浮いた所に、ファーストは続けて片脚を振り抜き、吹き飛ばした。
一空は背中から強く地面に打ち付けられ、3、4回後転し、うつ伏せで倒れた。
「ぐっぅぅ...」
一空は両腕に力を入れて、支えにしながら体を起こし顔を上げた。
「何故、お前は戦う?身を任せれば神達が平和で素晴らしい世界を実現してくれるのだぞ。それの何が不満なのだ?」
ファーストは、一空に問いかけた。
すると一空が、『ヨロヨロ』と立ち上がりきると問いかけに答えた。
「俺は、自分の為に戦っている。別に神を恨んでいるわけでも、世界を変えたいからというわけじゃない。」
「自分の為だと?」
一空は一歩、また一歩とファーストに向かって歩き出した。
「俺は生き返る為に、戦っているんだ!こんなとこで死んでいる時間はない!」
「(生き返る?何を言ってるだ?)」
「俺は、生き返る為に世界征服をしなければいけねぇ。それを達成する為の道に今、お前が立ち塞がっている!遠回りしてる暇はない、最短でこの道を進む為にはお前を倒して、俺は進む!」
「!?」
一空はファーストの目の前まで移動して、立ち止まった。
「お前は人の為に、俺は自分の為に戦う。お前も自分の目的の為に進む道に、俺が立ち塞がっているなら排除する為に戦うだろ。信念を簡単に曲げる訳にはいけないよなぁ!」
一空はファーストに自身の考えと信念を訴えた。
少し驚いていたファーストだったが、すぐに問い返した。
「なるほど、つまり自分の意見を強引に通して、自分の欲望が叶えられればいいと言う事だろう。自己中心的な考えヤロウだな。」
「だから、何だ?」
「っ!」
「自分の叶えたい目標の為に、相手に何かを合わせる必要は無いだろ。そもそも、俺にそんな時間はないんだよ。立ち止まったり、遠回りするより、真正面からぶつかって少しでも進む事を選んでるんだよ。」
一空の言葉を聞いたファーストは、小さく何かを呟いた。
「...やつが......るから...」
そこから、少し間が空いた後に、次は怒鳴るように言葉を発した。
「お前みたいな奴がいるから、この世界は争いや戦争が起こるんだよ!早く粛清しなければっ!!平和な世界を実現してもらう為に、邪魔者を粛清しなければっ!!」
ファーストは、歯を食いしばって睨みつける表情となり、怒りや憎しみを爆発させたように大声を出しながら、雷を纏わせた右拳を振り下ろした。
だが、一空は左に体をずらして攻撃を避けるとそこから左足をファーストの外側に踏み込んで、斜めの体勢で右拳をファーストの腹部目掛けて叩き込んだ。
「ぐっっ...!」
一空は腕を振り抜くと、ファーストは3、4歩後ろに後退した。
「グクゥァァガァァァァアアアアアッッ!!」
その場でファーストは雄叫びを上げると、体中から雷が放出された。
そして、ファーストの両腕に雷の剣が生成され、一空目掛けて突っ込んで来た。
一空は左に大きく飛んで、ファーストの攻撃を避けた。
「こっちも奥の手だ!」
一空は避けた先で、体をすぐにファーストの方に向けて、右手を強く握りしめると腕を大きく真横に振り抜いた。
そこに、空間のヒビが入り、一気に割れて直径3メートル程の穴が空いた。
その穴に一空は左腕を突っ込むと、何かを探すように動かすと、それを見つけて一気に引っ張り出した。
すると、長さは100cmから120cm程で持ち手が短く、先端が丸くなっている剣を、空間の穴から抜き出した。