5章㉕ 『Type-Ⅲ』
「ハァ...ハァ...何とか耐えられた...鍛えた成果かな...」
一空は、腕を前に垂らしながら少し笑って呟いた。
すると吹き飛ばされたファーストが、ゆっくりと立ち上がった。
「(何だ、あの力は...今までよりも強く、装備が一部変わっている?)」
一空の姿は、先程までと一部異なり特に両腕の装備が変わっており、腕の装備が一回り大きくなりゴツゴツした装備に変わっていた。
そして、胸周りにも軽く鎧の装備がされており両脚も少しながら装備が薄くなっている様に見えた。
「お前を倒す為に、手に入れた新しい力だ。」
「...やはり、そんな事が出来るその力は危険視するものだな。」
「!?」
次の瞬間、ファーストは雷を瞬時に剣に纏わせ目の前を斬り裂いた。
「〈雷光〉!」
そう言った直後に、斬撃波が一空目掛けて飛んで行き、それを追うようにファーストが走り出していた。
一空は向かって来る斬撃波目掛けて、右腕を勢いよく前に突き出した。
「ぐっぅぅ....!!」
一空は斬撃波を拳で受け止めると、そのまま腕を振り抜き、斬撃波を押し返した。
だが、後ろにはファーストがおらず一空は見失っていた。
「なっ!?」
すると一空の左側から人影が近付くのが見え、顔だけ先に向けるとそこにファーストが剣を構えて突っ込んで来て目と鼻の先まで来ていた。
「っ!」
ファーストは、そこから雷を纏わせた剣を振り下ろした。
咄嗟に一空は、左腕で剣を受け止めた。
『ギンッ!』と音を立ててから、ファーストは剣を腕の装備を滑らせるように振り抜き、そこから切り返すように防御できていない箇所目掛けて、振り上げた。
「んっ!」
一空はその切り返しを見て、すぐさま両腕を真下に構えてファーストの攻撃を防いだ。
「(危ねぇ...)」
「...っ!」
一空が剣だけに意識が行っている所に、ファーストは剣から手を離し、左足で踏み込み右足の蹴りを一空の顔面目掛けて振り抜いた。
一空がそれを視界に入れた時には、完全に避けきることは出来ず、顔を奥へと倒したのみでファーストの蹴りを頬に受けてしまう。
「っふぐっ!」
だが、一空はそこから体を蹴られた方に回して蹴りの威力を一点から分散させた。
一空は2、3回転して体勢を立て直して腕を構えた。
「(いってぇぇ...さっきのは油断した。剣に意識を向けすぎた。)」
ファーストはその間に剣を拾って、雷を纏わせてアスタリスク状に素早く振り抜いた。
「〈雷光〉」
雷の斬撃波が一空目掛けて放たれた。
一空は避けることはせずに、右拳を前に突き出して受け止めて、押し返した。
雷の斬撃波はファーストに向かって押し返されたが、ファーストは雷の剣を前に突き出した状態で立っていた。
すると、雷の斬撃波はファーストの剣に吸い込まれるように全て消えてしまう。
そして、ファーストが一空に話しかけた。
「分かって来たぞ、お前の今のその力はパワーを強化した状態だな。先程までなら、〈雷光〉は避けていたが、今は受けて押し返せる力がある。」
「っ....」
「装備がその状態に変化して補助しているのか、又は身体強化の力をお前が持っているかだな。スピードが先程より遅い分、スピードを削ってパワーで私に勝とうとしているようだが、そんなんで勝てる程甘くないんだよ。」
すると、ファーストは剣を両手で握って一空に向けて前に突き出した。
「!?」
その剣を見て一空は驚いた。
なんと、ファーストの剣には今までにない程雷が纏っており剣自体が完全に雷に覆われて黄色く輝きだしていたのだった。
「〈雷砲〉!」
すると、ファーストの剣から雷のレーザーが放たれた。
レーザーは一瞬で一空を飲み込んだ。
そのまま数秒間包まれたのちに、ファーストの剣からのレーザーが徐々に小さくなって切れた。
そしてファーストの視界に入って来たのは、地面に付けて立っていた真っ黒になった大きな盾だった。
「!?」
大きな盾の後ろから、一空が顔を出して盾を持って立ち上がった。
次の瞬間、盾にヒビが入り崩れ始めた。
「間一髪だった。」
そして盾は崩れ去って、その場から無くなった。
「そんな物を持っていたのか...」
「念の為って、渡されたんだよ。」
「っ...」
ファーストは、一空からは見えないが顔が少し引きつっていた。
そこに一空は、突っ込んで来て右腕を振りかざして、全力で腕を振り抜いた。
「力任せの攻撃など、簡単に避けられる...」
ファーストは体の体重を後ろにさせて、避けようとした時だった。
一空の腕の装備が、大きく腕に沿うように円形状に開き、急激に腕の振りのスピードが上がり油断していたファーストの頬に直撃し吹き飛ばした。
「グフッ......ガッハァッ!?」
ファーストは、2、3転して勢いを両足と剣を使って殺し体勢を立て直した。
口元からは軽く血が流れていた。
それを片手で拭き取り、一空の方を睨んだ。
一空が殴りかかった腕からは、腕の装備が開けた状態のまま煙が出ていた。
「俺が、その力の弱点を知らないとでも思ってたのか?」
「っ......」
そして、一空が腕を真横に掲げると今まで円形状に広がっていた装備が閉まって元の装備状態になった。
「残念ながら、考慮済みだ!」
そう言ってファースト目掛けて突っ込んだ。
「考慮済み?さっきのパワーを削った、拳がか?笑わせるなっ!」
ファーストは向かって来る一空を迎え撃つ為に剣を振り下ろした。
そこに一空の拳が、剣目掛けて正面から当たると思われたが拳は真横から剣にぶつかった。
「っ!?」
思わぬ攻撃に動揺するファースト。
だが、剣を離すことなく耐えていた。
斜め下から突き上げるように拳を上げる一空と、それを押し戻すように剣に力を入れるファースト。
「ぐぅぅぅっあぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉぉおおおっ!」
ファーストが、力比べになると思った瞬間右側から一空のもう片方の拳が近づきて来た。
「なっ!」
だが、その拳はファーストに向かわずに剣に向かって打ち込んだのだった。
『ガンッ!』と音が響き、ファーストの剣は両方から一空の拳で挟まれた。
しかも、両方の拳はずれて剣を挟んでいた。
「なっ、何を!?」
「何って、こーすんだよっ!!」
そのまま一空が力を入れ続けると、ファーストの剣から不穏な音が聞こえた。
『ピキッ』
「っ!!」
その音は2人にすぐに届き、驚きと上手くいったという2つの表情に別れた。
そして、その音が続いて響き渡り剣にヒビが入る。
「このっ!」
ファーストはすぐに、一空の横腹部目掛けて蹴り込んだ。
だが、それを避ける事なく体で受け止めて剣から手を離さずに力を入れ続けていた。
「おぉぉらぁぁぁああ、イケェェェッ!!」
そして、遂にファーストの剣が真っ二つに割れて剣の半分が地面に落ちた。
「っ!!」
「よしっ!!」
直後、ファーストは剣先がない状態のままそこに雷を纏わせて、一空目掛けて突き出し雷を勢いよく放出した。
「ぐっはぁっ!」
一空は吹き飛ばされて、背中から地面に打ち付けてそのまま滑って行った。
「ハァ...ハァ...ハァ...くっ.....あれだけの攻撃で壊れるなんて.....」
ファーストは息を切らしながら、一空の方を見つめていた。
一空は手をつきながら体を起こして、立ち上がった。
「これで、第一段階クリアだな。」
「貴様ッ...何故剣を...」
「それは、お前の能力を考えてだよ。」
「!?」
一空はファーストの持つ剣を指差して答えた。
「お前のその剣は、ストラップ魔法だが雷の能力が付与されていないんだろう!」
「っ!」