5章㉓ 翡翠の瞳
地面に突き刺さった槍が、上からパズルピースになって崩れて行き、槍自体がなくなった。
「外装装着。」
セカンドがもう一度呟くと、地面に落ちていたパズルピースがセカンドの身体にくっ付き始めた。
「あれは...」
彩音の目の前には、先程までと違った装備のセカンドが立っていた。
全身ではないが、槍を持つ右腕と右胸、そして両脚に中心的に鎧の様な装備がされていた。
「スッーー......」
セカンドは大きく息を吐いていた。
彩音はそれを見て次の行動に出た。
「(まだ、終わりじゃないっ!)」
彩音は両手を広げて、大きく息を吸って吐いた。
「...シリンダーリセット...」
そう呟くと、再び息を大きく吸って吐いて呟いた。
「セカンドパターンセットっ!」
すると彩音の両腕、両脚の装備が一瞬小さく光った。
そこにセカンドが槍を前にして突っ込んで来た。
「1!」
彩音はその呟きと共に、右拳をセカンドの槍の先端目掛けて振り下ろした。
「(掛け声を変えた?だが、無駄な事だ。各部位のイメージ付けした属性はそう簡単には変えられないだろ...右腕は炎だ。)」
そうセカンドが思い込んだ時だった。
彩音の右腕には、雷を纏っておりセカンドの槍が届く前に彩音の右拳が槍の先端に当たり、槍は地面へと方向を変えさせられた。
「(炎じゃない!?雷!?)」
驚くセカンドに対して彩音は、右足を踏み込み左足をセカンド目掛けて蹴り下ろした。
「4!」
セカンドはすぐに視線を変え、彩音が蹴り下ろしてきた左足を見た。
その足には、氷が纏い付き始めていた。
「(氷だとっ!?)」
セカンドは、足元の地面を勢いよく蹴り、後方へと飛び彩音の攻撃を回避した。
そして、彩音とセカンドの間に一定距離が作られた。
両者は、そのまま静かに睨み合って動かずにいた。
「幕引きをするには、まだ早いんじゃなくて?」
「...その威勢が何処まで続くか、見ものだなっ!」
セカンドが低い姿勢で地面を蹴ると、一瞬で彩音の目の前に移動した。
「!?」
彩音は咄嗟に両腕をクロスして上半身を守った。
だが、セカンドはそうすると分かっていたのか彩音の足元を槍で薙ぎ払った。
「しまっ....!」
彩音は姿勢を崩し、背中から地面に倒れ始めた。
倒れたらダメだと感じ、彩音は呟く。
「2!」
右足に風を纏い、それを地面に向けて放ち倒れる事を回避しセカンドとも距離を取った。
しかし、セカンドはそれも読んでいたのか、セカンドは槍を投げる態勢に入っており彩音が回避して行った方に槍を投げ込んだ。
「!!」
彩音は宙で体を左側に少し動かし直撃は避けたが、横腹部に受けてしまい、途中で左方向に転がって行く。
槍は彩音に傷を負わせた後、そのまま木に突き刺さった。
「ガッハァ......ぐうぅぅっ....」
彩音は転がった後に、傷を負った箇所を左手で抑えながらうつ伏せ状態から立ち上がった。
すると、真後ろの茂みからセカンドが現れ右脚を宙に上げ、彩音目掛けてかかとを振り下ろした。
「っ!」
彩音は、右に転がる様に回避し、そこから正面に走り出した。
「この先は確か...」
セカンドは彩音の逃げた方を確認すると、彩音の後を追うのではなく、槍が刺さった木の方へと走り出しそのまま槍を抜き取ると、茂みの奥へと消えていった。
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彩音が走り続けると茂みを抜けて、木々がなくなった少し広い場所に出た。
そこは円形状に広がった草原で、周りにはまた木々が広がっている場所だった。
「...少し開けた場所...」
彩音は足を止め、後ろを振り返るとセカンドの気配がない事を確認すると、呟いた。
「3...」
左手に小さい炎を纏って、傷を負った箇所に当てて傷口を塞いだ。
「ぐっっ!!!」
傷口が塞がると、左手の炎が消え左腕の凹みから黒焦げになった薄い鉄の板が吐き出され、地面に落ちて行った。
「...これで応急処置はオッケー......アイツがいない今のうちに...」
彩音はそう言うと、開けた場所の外側を沿う様に歩き出した。
そんな彩音の対照の場所にセカンドが茂みの中から現れた。
「やっぱり、ここにいたか。」
「っ!何でそんなとこから...」
「ここが何処だか忘れたのか?」
セカンドのはそこから彩音目掛けて槍を投げた。
彩音は、そのまま開けた場所の外側を走り出し槍を避けた。
そして途中で止まりそこからセカンド目掛けて、右腕を振りかぶって突っ込んだ。
「1!」
「そのパターンも、もう分かっている!」
するとセカンドは、低い姿勢で彩音に向かって行き、そこから右手で彩音の右腕を突っ張り返し、右足で横腹部を蹴り飛ばした。
彩音は、そこから木に打ち付けられた。
そして、右腕の凹みから真っ黒な薄い鉄が吐き出された。
だが、彩音はすぐに態勢を直し右側に走り出した。
すぐにセカンドも追いかけようとした時、一瞬地面の方で何かが光ったのが目に入ったが、一瞬だった為気にせずにそのまま彩音の後を追った。
彩音は外側の木々を沿う様に走りながら呟いた。
「シリンダーリセット...スーー...ハァーー...サードパターンセット!」
すると右足に力を入れた時に再び呟いた。
「デルタっ!」
そして右足に炎を纏い、その勢いでセカンドが投げて突き刺さった槍の目掛けて飛び込もとしていた。
「(このパターンは、まだ不完全だけど悟られる前にやるしかない!)」
彩音の行動にセカンドはすぐに気付く。
「(狙いは槍か!)」
セカンドは、その場から彩音から槍に方向を変えて飛び出した。
彩音は、右足の炎を地面に吹き出して槍目掛けて飛びかかり、右腕を振りかざして呟く。
「アルファ。」
右腕に氷を纏うと、そのまま槍目掛けて殴りかかった。
「させるかっ!」
そこにセカンドが、片足を蹴り出して突っ込んで来て彩音の右腕を弾き出したが、彩音はそこからセカンド目掛けて左足を回して蹴り飛ばした。
そして、両者共に茂みに突っ込んだが彩音はすぐに立て直し茂みから出て槍目掛けて行くと思われた。
「しつこい奴だっ!」
セカンドもすぐに態勢を立て直し、彩音の攻撃を防ぎに行ったが、彩音は槍には目もくれずにそのまま反対側の茂みに向かって走って行った。
「また、逃げる気か?」
セカンドは、木から槍を抜き取ると彩音は、茂み前で立ち止まりセカンドの方を向いた。
すると、両腕を開いて凹みから新品の薄い鉄の板を地面にいくつか落とした。
すると彩音が呟いた。
「枚数ギリギリだったが、準備は整った。」
「準備だと?」
セカンドは既に彩音を追いかけて、開けた場所の中央近くにいた。
「鉄よ、我が命に従い対象の動きを止めよ!」
「!?」
するとセカンドの動きが止まる。
「なっ...何!?」
セカンドは見えない糸の様な物で身体中を縛られている様に感じ、全く動けずにいた。
するとセカンドは、開けた場所の外側に羅針盤の様に地面から光が上がっているのが見えた。
「ま...まさか...」
この時、セカンドは一瞬だけ見えた地面が光っていた時の事を思い出した。
あの時は気にも止めなかったが、あの時から彩音は既に準備を始めており、気付かれない様に逃げながら薄い鉄の板を外側に沿って落としていたのだった。
「これで、貴方を倒す!」
彩音は右腕を自分の前に出し、強く拳を握って呟いた。
「デルタ。」
右足で強く地面を蹴り、斜め上に高く舞い上がると右腕を掲げて叫ぶ。
「鉄よ、我が命に従い『光拳』となれ!」
すると、彩音右腕が一回り大きい光のガントレットとなった。
「ぐっぅぅ...!」
セカンドはどうにかして抜け出そうとして、腕や脚を動かしたが抜け出す事は出来ずにいた。
彩音は、右腕の拳をセカンドに向けて落下しながら振り抜いた。
「はぁぁぁぁっっ!!」
セカンドの顔に彩音の光のガントレットが直撃した。
「!......ぐっっ....!がっはぁっ...!」
初めは、耐えていたセカンドだったが威力に耐えきれずにそのまま受けてしまい、そのまま吹き飛ばされて、木に背中を強く打ち付けてそのまま『ズルズル』と地面に落下し、顔は下を向き動かずにいた。
「ハァ...ハァ...ハァ...どうだ!」
彩音は右腕を垂れ下げる様にしていると、凹みから5枚の真っ黒い薄い鉄の板が排出された。
「威力を上げる為に重ねた結果か...」
すると今まで動かなかったセカンドが、動き出しゆっくりと立ち上がった。
それに驚く彩音。
「...まんまと罠にハマった訳か...」
セカンドがそう言いながら顔を上げた。
顔の仮面には、多くのヒビが入っており所々崩れ始めていた。
「(あれで、まだ立ち上がるの...)」
そしてセカンドが一歩踏み出したが、そこから次の一歩は踏み出せずにその場で肩で息をしていた。
「ハァ......ハァ......ぐっ!!」
「?」
セカンドは、突然苦しみ出し両手で顔の仮面を抑え出した。
そのまま真上を向き唸り続けていると、徐々に仮面が崩れて行き最後には、弾ける様に仮面が全て壊れた。
仮面がなくなったセカンドは、真上を向いた状態でゆっくり目を開けて彩音の方を顔を降ろして向いた。
その目は、翡翠色の目で額の右側の端に雷の様なZの印が刻まれていたのが、髪が上がった一瞬だけ見えた。
「........!」
その目や額に刻まれた印を見て彩音は、目を疑った。
そして声を震わせながら呟いた。
「貴方......ひ...すい...なの?」
「.......」
その問いかけに、仮面がなくなったセカンドは黙って彩音の方を見ていた。