5章⑳ 四枚刃と一刀
仁は刀を片手で持ったまま、サードに向かって走り出した。
「鎖は斬っただけで、もう使えない訳じゃない!」
サードは、背中から繋がっている鎖を再び動かし、仁の背中目掛けて操作した。
近付く鎖に仁は、その場で方向を『クルッ』と変えて、近付く全ての鎖を刀で斬り裂いた。
仁はそこから刀を一度腰元に添えて、サードに向かって走りながら呟いた。
「御神楽流肆ノ型...」
サードは、向かって来る仁目掛けて右腕を振り下ろした。
「(木刀から刀に変わっただけで、何かが変わるものか!)」
仁は、サードの懐に踏み込むと一気に腰元から刀を振り上げた。
『ギンッ!』と一瞬だけ音が響き、お互いの刃が弾かれた。
すると仁が、そこから体を前に出してサードの胴体を壁の様に使い足で蹴って、その場で後方に一回転した。
「!?」
サードは蹴られただけで、ビクともしなかったが、仁の予想外の行動に驚いていた。
仁はそこからもう一度踏み込んで、刀を振り上げた。
「なっ!」
サードは咄嗟に左腕で防いだ。
そこからサードは右足を仁に蹴り出したが、仁は後退し避けてた。
「ふぅ...ふぅ...御神楽流剣術...」
仁は少し息が乱れならが刀をバットの様に構えたて、呟いた。
「...壱ノ型 壊!」
仁はそこから勢いよく刀を真横に振り抜くと、斬撃波が放たれた。
「!」
サードは両腕の扇型の刃を顔の前に出して、斬撃波を受け止め、真上へと弾き返した。
その時サードは自らの刃を見て驚いた。
「(!...少し刃こぼれしてるだと!?)」
仁の刀とその斬撃波を受けただけで、そんな事になると思わず、仁の方を睨みつけた。
「(あの刀になっただけで、こんなに変わるのか?)」
サードが仁の方を見ているとある事に気付いた。
それは、やけに息が乱れているように見える事だった。
「(あの刀を使う代償か...それとも別の原因か?...体力切れと言うのは、あり得ないな...)」
そしてサードは、背中の中央に手を伸ばした。そこには一本の長い棒で、見た目は棍棒の様だが先端には五角形の筒があり、そこに4本の黒い溝がある物を取り出した。
「はぁ...はぁ...はぁ...大丈夫だ...落ち着け俺...」
仁は、自分に言い聞かせる様に呟き息を整えようとしていた。
「最初の頃よりマシだが...まだ、体がこの刀を拒否しているのか......父さんの刀を...」
仁の手に握っていた刀は、かつて父こと御神楽正弘の刀だったのだ。
仁は今まで刀を握る事が出来ずに木刀を使っていたが、東和村での一件以来、密かに刀を持って鍛錬をし出していたのだった。
「何とか、剣術は出せるが...あの時の感覚が蘇って来る...」
仁の手には人を斬り殺した感触が蘇り、その時の映像がフラッシュバックし、息も乱れていたのだった。
「大丈夫だ...今の相手は全身装備で、身体を傷つける事はない...問題ないんだ...落ち着け...」
仁は『ブツブツ』と自分に対して呟いていた。
そこにサードが接近し、持っていた棍棒の様な物を振り下ろした。
「その刀になってから、息切れしてる様だな!」
「っ!」
仁は後退しながら、サードの攻撃を避け続けた。
サードは仁に詰め寄りながら、棍棒を上から横からと振り回していた。
そして仁が、棍棒を刀で受け止めた。
「ぐっっ.....!」
「威力は上がった様だが、その代償で貴様自身が弱っていては意味がないなぁっ!!」
サードが棍棒を振り抜くと、仁が押されて下がるがすぐさま踏み込み、刀をサードの首元目掛けて振り抜いた時だった。
仁の刀がサードの首元寸前で止まってしまう。
「!...ハァッ!」
サードが左腕で薙ぎ払うように振ると、仁はサードと距離を取った。
「はぁ...はぁ...はぁ...何でここで、父さんなんだ...」
仁はサードに向けて刀を振り抜いた時に、父の首を斬ったイメージが重なり刀が止まってしまった。
「やっぱり、まだダメなのか...」
仁は持っている刀が重く感じ、それにつられ体も重く感じ始めていた。
だが、サードの攻撃は終わる事なく続いていた。
「ハァァァ!」
「ぐっ!」
サードの持ってた武器が地面に突き刺さった。
「!」
そこには、先程の棍棒だが先端に刃が付いており斧へと変わっていた。
「さ〜て、その刀は耐えられるかな?」
サードは仁目掛けて、斧を振り続けた。
仁は反撃する事が出来ずに避け続けていたが、刃が鋭く何箇所か斬られていた。
「くそっ!」
そして、仁が刀で斧を受け止めた。
「いつ斧に....」
「簡単な事だよ!」
サードが右脚の蹴りで仁を突き飛ばすと、右脚に付いていた扇型の刃を取り外し、斧の先端の溝へとはめ込んだ。
「ドォラァッ!!」
サードが振り下ろした斧の刃は2枚になり、威力が増しており、勢いよく砂が舞い上がった。
「うっ!」
仁は態勢を崩しながらも後退し、直撃を避けた。
「やっぱり、お前は調べた通り臆病者だな。」
「何!?」
サードは斧を肩に掛けて話し出した。
「御神楽仁。3年前に東和村にて、大量殺人を起こし、その手で父親と兄を手にかける。だが、真実は獣王にて操られて引き起こさせられたもの。」
「っ....何故それを...!」
「情報収集は基本だろ?」
仁はサードの言葉に戸惑っていた。
「にしても、まさか獣王に村人だけで立ち向かうなんてな...バカすぎだろ!」
「...!」
「お前も獣王なんぞに操られるなんて、弱いからだろ?それに、その後に罪でも償うのかと思えば、逃げ出して失踪するなんてなぁ...ただの臆病者だろう!」
「貴様に...貴様に何が分かるってんだ!!」
仁は怒鳴る様に、サードに発言した。
「そんなの簡単に分かる。お前達は、判断を間違えたんだよ。逆らわずに従っていれば、あんな事は無かったんじゃないか?」
「!?」
「誰かが反抗した事で、獣王の怒りを買って見せしめにされたんだろ?素直に従って生きていれば良かったんだよ。」
「ふざけるな...そんなこと...そんな事がっ!」
「出来ただろ?」
サードが仁の発言の被せる様に言い放った。
「あれ以降、獣王に従うことで村は平和に暮らせていたろ?」
「!...それは...」
「事実だろ。それをまた貴様が壊した。また、獣王に逆らって村を救ったが、いずれまた村は同じ目に合うだけだ。」
仁は力強く刀を握りしめて、反論した。
「...そんな事はさせない!...獣王は、俺が潰す!」
「お前、1人でか?そんな刀を使って、息切れしてる奴が勝てるわけないだろ...」
サードはそう言いながら、左脚に着いた扇型の刃を取り外し斧に付け、斧の刃が3枚になった。
「そもそも、獣王以前に神に逆らった貴様は、ここで消えるんだよ!」
サードは仁に向かって突っ込み、斧を振り下ろした。
仁は真横に避けるが、サードはそこから真横に振り抜いた。
「!」
仁は咄嗟に刀で受け止めた。
「臆病者が神に逆らい、何かを変える事など出来ない!貴様の選んできた選択は全て間違っていたんだよ!それを悔やみながら消えろぉ!!」
「っ!」
サードが力で押し切り、仁が吹き飛ばされる。
仁は倒れたまま立ち上がらない。
「そういう姿がお似合いだ。」
サードがゆっくりと仁に近づき始めた。
「(俺の...俺の選択が...間違っていた...)」
仁はサードの言葉に揺らぎ始めそうになった時、とある言葉が聞こえた。
「仁、お前の決断はそう簡単に人の言葉に左右されるほど、脆かったのか?」
「!......きょう...すけ...!?」
仁はゆっくりと体がを起こし、辺りを見回したが視界には近付いてくるサードしか映らなかった。
その京介の言葉を聞いた事である事を思い出した。
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「仁、いいか。自分が決めた事は何があろうと貫き通せ。例え、それが間違っていた事だろうと貫け。」
「間違った事でも?」
「そうだ、選択が間違っていたらそれを活かして次に進めばいい。人間、全て正解を選択して生きていけるわけじゃないからな。」
「京介も間違った選択をして来ているのか?」
「あぁ、色んな失敗をしたぞ。...だが、それがあるから次の選択に活かせる。」
「次の選択...」
「そうさ、間違えても活かせばいい。取り返せばいい。俺はそう思って生きている。」
「京介...」
「仁、お前も何か決めたら貫けよ。どんな結果だろうと受け止め、次に活かせばいい。...何事もやって見ないと分からないもんだからな。」
京介は笑顔で仁に話した。
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「決めた事は...貫き通す...!」
仁が片足に力を入れて立ち上がる。
「獣王は俺が倒す!俺の選択をお前にどうこう言われる筋合いはない!」
仁がサードに向かって宣言すると、サードが走って近づき斧を振り下ろしたが、仁も刀を斧にぶつけて受けた。
「今更何ができる!俺にすら勝てないお前が!」
「...俺は怖がってた...逃げて来た...刀を振るう事を...だが、もうそれはダメなんだ。」
「何を言ってっ!」
仁はサードの斧を押し返した。
「(押し返された!?)」
すると仁がサードに接近し、刀を振り抜いた。しかし、サードは斧で防ぐ。
そこから仁は何度も刀を振り抜き、斧の先端近くに攻撃を集中させて続けた。
「(何だ、さっきまでと何か違うぞ...)」
サードは背中から鎖を出して、仁を突き放した。
「(息切れも無くなっている...)」
そこからサードは真横に走ると、仁も同じ様に走りサードが急に止まって、飛びかかりながら斧を振り下ろした。
だが、仁は前に転がる様にして避けて真後ろから刀を振り下ろした。しかしサードは背中から鎖を出して、仁の体に巻きつけて動きを止めた。
「ぐっ!」
「これで、終わりだ!」
サードが振り返りながら斧を仁の腹部目掛けて振り抜いた。
「おぉぉぉ!」
仁は鎖の拘束を振り切って、刀を振り下ろし斧を受け止めた。
「何!?」
「俺はもう迷わない!過去の俺を断ち、恐怖を断ち、俺の前に立ち塞がるお前を断って、勝つ!!」
互いの武器がぶつかり合い、両者とも吹き飛び距離が開く。
「無駄な足掻きだぁ!お前の刀が俺の装備を貫く事は出来ねぇんだよ!」
サードは体に装備していた、残りの扇型の刃を取り外し斧に装備した。
そこからサードは仁まで一瞬で、距離を詰めて斧を振り抜いた。
「ぐっ!!」
仁は斧を防ぐ事が出来ず、体に傷を付けられてしまう。さらには、斧を振り抜いた後に斬撃波も放たれた。
仁は飛ばされながらも、斬撃波だけは防いだ。
「四枚刃を防ぐ事は出来ねぇんだよ!」
サードは刃が4枚となった斧を振りながら、仁に近づき始めた。
「うぅっ!」
斧からは斬撃波がいくつも放たれ、仁は刀で弾き返していたが無傷とは行かなかった。
「臆病者で弱い奴が、神に逆らうなど許されない!...そして俺に勝つ事などありえないんだ!...ここで...お前は消えるんだよぉーーっ!!!」
サードが叫びながら突撃して来た。
すると、仁は態勢を直し刀を両手で持ち頭上に持ち上げて片足を前にだして構えた。
「オラァァーー!反逆者がぁぁーーー!!」
サードは斧を真上から振り下ろしながら仁に迫った。
「俺は、この一刀でお前を断つ!」
仁はゆっくりと息を吸って吐いて呟いた。
「新 御神楽流剣術.....一刀・断斬」
目の前にサードの斧が迫った時、仁が目にも止まらぬ速さで刀を一直線に真下へと振り下ろした。
「なっ!?」
そして両者の視界には、サードの斧の先端が斬り落とされ地面へとゆっくり落下して行った。
そして、サードの頭部の鎧にも縦に亀裂が入りそれは胴体まで、続きサードが着地したのと同時に前側の装備が破壊されて、黒い装備が辺りに飛び散った。