5章⑲ 仁 VS サード
「オラァ!」
サードは叫びながら、斧を仁目掛けて振り下ろした。
仁はその場からサード目掛けて踏み込んだ。
そして両手を顔の目の前だし、木刀を顔の前で真横に構える。
「御神楽流剣術弐ノ型」
仁は斧が自分に直撃する寸前に木刀を斜めに下にし、勢いよく斜め上に引き抜く様に上げて斧を滑らせ軌道を変えた。
仁はそこからサードの胸目掛けて、更に一歩踏み込んで木刀を突き出した。
しかし、その突きはサードの黒い鎧に突き当たったがダメージが入ってはいなかった。
「(やはり、想像以上に硬い。やはりダメージは少ないが装備が少ない足元を狙うか。)」
「そんな木刀ごときで、この装備に傷を与えられると思っているのか!」
サードは、目の前の仁に向かって右腕を振り抜いたが、仁は膝を曲げ背を反らせ扇型の刃をスレスレでかわし、素早く真横に転がり後退した。
だが、サードはそれを逃さず右腕の扇型の刃を仁の右足首目掛けて投げ抜いた。
「!」
仁の右足首には、サードが投げた扇型の刃とサードを繋ぐ鎖が巻き付いていた。
「行かせん!」
サードは、右腕を勢いよく引くと仁の体はサードに引き寄せられ、仁は背中を地面に打って仰向けで倒れる。
「ハァッ!」
サードは、仰向けで倒れた仁の顔面目掛けて左手で持った斧を振り下ろした。
仁は、両手で木刀を両端の方を掴みサードの振り下ろした斧を受け止めた。
「ぐぅぅっ.......!」
「ハァァァー!」
仁はサードの斧を何とか木刀で防ぎ続けていたが、腕が震え出していて今にも押し負けて、斧に切り裂かられる寸前だった。
「(どうにか、状況を覆さないと...)」
仁は咄嗟に右足を胸に抱える様に上げて、伸びきった鎖に左足を引っ掛けて反対側に足を広げた。
「んっ!?」
すると一瞬、サードの体が仁が広げた足の方に引っ張られ斧への力が弱まった。
その瞬間を仁は逃さず、すぐさま体をサードと反対側に体重を乗せながら、斧から逃れ地面に手をついて姿勢を立て直した。
そして仁は、サードの懐に再び踏み込み込んだ。
「お前の攻撃は無駄だ!」
「これなら、どうだ?」
仁は、木刀を振るうのではなくもう片方の手を真横から握り拳から開く様に振り抜いた。
「なっ!?」
そこから出てきたのは、砂だった。
砂はサードの顔面に向かってきた為、目を瞑ってしまう。
そして仁は、サードの側頭部目掛けて木刀を振り下ろした。
仁の木刀は、一直線にサードの側頭部に向かったが、サードが寸前に左腕を上げた為、その腕をかわしたことで、木刀の軌道が少し変わった。
「くっ!」
木刀は、サードの鼻筋と頬を擦る様に通り抜けた。
「(失敗したか...それより今は...!)」
仁はすぐさま右足首に巻かれた鎖を外す為に、扇型の刃を弾き飛ばして鎖の締め付けを弱めて抜け出そうとした瞬間だった。
「汚い手を!」
サードが右腕を真後ろに振り抜き、それに引っ張られ仁も投げられてしまう。
だが途中で仁の右足首の鎖がとれて、空中で飛ばされてしまう。
仁は受け身をとって着地して、サードの方を向いた。
サードは、右腕の伸ばした扇型の刃を戻していた。
「違った形だが、鎖も取れて距離も取れた事は良かった。」
仁は木刀を地面に刺して、立ち上がって木刀を引き抜いた。
「さて、どう攻めるかだな。距離を取っていてもさっきの様に鎖を伸ばせる攻撃がある。と、言って近距離で攻撃してもほとんどがあの装備に阻まれてダメージが入らない。」
仁はサードとの戦闘から次の作戦と対策を考えていた。
一方、サードは仁に付けられた鼻筋と頬のキズを確認していた。
「クソっ...あんな攻撃をしてくるとは、想定外だ。」
すると、サードは斧を真横に突き立てた。
そして腰元から黒い箱が付いたストラップを取り出し引っ張った。
サードの前に長方形の黒い箱が出現し、箱にはいくつもの線が入っていた。
「《ブラックボックス》...外装解放...!」
サードは出現した黒い箱に手を向けて呟くと、黒い箱がいくつものパズルピースの形に分裂し、地面に落ちた。
「外装装着!」
サードの発言後に、地面に散らばっていた黒いパズルピースがサードの全身にくっ付き始め全身が黒い装備となった。
「まだだ...」
そう言うと、サードは斧に手をかざして呟いた。
「外装解放...」
サードの斧が黒い箱と同じ様に、斧全体が様々なパーツに分解されて、地面に落ちた。
「どんだけ、装備するだよ...」
「外装装着!」
地面に落ちていたパーツがサードの掛け声に反応して、サードの全身に装備され顔まで全て覆われた。
そしてサードの姿は、全身が黒い装備となり先程までの武器も変化していた。
両腕には、扇型の刃がトンファーの様に装備され分厚い装甲になっており、両足にも扇型の刃が装備され、腕同様に分厚い装甲になっていた。
そして、背中には六角柱の箱が付いており、六角柱の4方向に四角い筒が突起している状態で、中央には一直線に斧が装備されていたが、刃は付いていなかった。
「全身、あの硬い黒い装備......何処にも弱点はないという事か...」
サードはゆっくりと顔を上げて、仁を見つめた。
「その木刀でどこまで防ぎきれるかな...」
するとサードが地面をひと蹴りして、仁の目の前まで移動し片腕の扇型の刃を、仁目掛けて振りかざした。
仁は一瞬の事に驚いてしまい、動作が少し遅れたが寸前で木刀で防いだ。
「うっぅぅ.......!」
「本当に頑丈な木刀だ!」
サードは強い力で押し切ると、仁の木刀が上に弾かれ腹部がガラ空きになってしまう。
そこにサードが扇型の刃が付いた右脚を振り抜いた。
「ぐっっ...!」
仁は、腹部を引っ込める様にくの字状に体を曲げたが避けきれる事が出来ず、切り傷の様に真横に切られてしまう。
仁はすぐにサードとの距離をとって、切られた腹部を抑えた。
「(危なかった、擦っただけでこれか...あの刃鋭すぎだろ...)」
「避けられたか...やはり捕えて、確実にヤるか。」
するとサードの背中の六角柱の4つの突起から、鎖が飛び出て仁目掛けて飛んで行った。
「!」
仁は、向かって来る鎖を避けるが鎖は仁を追い続けた。
木刀で弾き、避け続けると、鎖は地面に突き刺さって止まった。
「はぁ...はぁ...はぁ...」
仁は息を切らしていた。
地面に突き刺さった鎖は、すぐにサードの元へと戻って行った。
「しぶとい!」
再びサードが鎖を背中から放った。
鎖は仁に徐々に迫っていたが、仁は動かず更には目を瞑っていた。
「諦めたか...」
「...ふぅーーー」
仁は大きく息を吐くと、木刀を前に掲げた。
そして仁が何かを呟いた、次の瞬間鎖が真上から落下してきて周りは砂煙で包まれた。
「.......!」
サードが目を凝らして見ていたが、鎖の先の反応が無いことに気付いた。
「(どうなっている?)」
そして砂煙が晴れると、仁が中心に立っており周りには、鎖の残骸が散らばっており、よく見ると切断されていた。
それを見てサードが仁を見て呟いた。
「なるほど...隠し持っていたのか、そんな刀を...」
仁の手には、今までの木刀ではなく1本の刀へと変わっており、木刀は持っていなかったのだった。
「...反撃開始だ...」