5章⑰ 部長の信念
一空達に向かって、無言でセカンドが徐々に近づいて来る。
咄嗟に一空と彩音は、ストラップに手を掛けた。すると、セカンドが歩きながら話しかけて来た。
「辞めておけ。ここで戦う気はない。一般人が多くいるからな...」
「なっ...!」
セカンドの発言に驚いたが、ストラップから手を離すことはなかった。
そのまま5メートル手間あたりでセカンドは立ち止まり、話し続けた。
「まぁ、もしそっちが今ここでヤリ始めたいと言うなら仕方ないが...」
そう呟くとセカンドもストラップに片手を掛けた。
すると部長が問い返した。
「ここで戦う気は無いと言う事は、別の場所に連れて行かれて戦うって事か?」
「そんなとこだ。付いて来るのも来ないのも自由だが、来ないならばこの学園も生徒も甚大な被害が出る事になるぞ...」
「貴様...」
セカンドの発言に仁が、睨みつけながら呟いた。
「...分かった。付いて行ってやる。」
部長がセカンドの問いかけに答えた。
「部長!いいんですか?絶対に罠ですよ!」
「そうだ!こんな状況まで作って、襲撃して来ないで、更には付いて来いだと?そんなの俺達をはめる罠があるに決まってんだよ!」
彩音と仁が部長を止めようとしたが、部長は意見を変えなかった。
「私は、ここで戦って関係ない生徒達に危険が及ぶ事は許せない。......この学園は、私が命を懸けてでも守りたい世界なんだ。」
「っ...」
部長の意見も間違っておらず、他者の反論を受け付けない様なオーラを放っており、彩音も仁もそれ以上意見を言う事はなかった。
セカンドは部長の雰囲気を感じ取り、心の中で呟いた。
「(あの人間が《五源器》所有者...確かに雰囲気はあるな...)」
そして、部長がセカンドに問いかけた。
「それで、どこに行けばいい?お前に付いていけばいいのか?」
「あぁ、そうだ。正門へ向かう。」
セカンドはそう言って振り返って、学園の正門へ歩き出した。
「お前ら、準備はしているよな。行くぞ...」
部長はそのままセカンドの後を付いて行った。
「はぁ〜...何処に行くんだか...」
「絶対に何かあるはずよ...油断せずに行きましょう。」
「何があろうと、奴らとの戦闘は避けられないか...」
部長に続き、一空・彩音・仁も歩き出し正門へと向かった。
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セカンドと一空達が正門前に到着すると、セカンドが振り向き、後ろに一空達がいる事を確認した。
そして、セカンドは正門に向けて歩き正門を通り抜けた時、そのままセカンドが目の前から消えたのだった。
「!?」
部長を除く3人が驚いていたが、部長は冷静に判断し何が起こったのか理解していた。
「...ただの正門に見えるが、あれはゲートだ。あそこをくぐると、別の場所に移動できるものだ。」
「あれでこの学園に来たってのか...」
そのまま部長が、正門を通り抜けるとセカンド同様に消えてしまう。
「何で、ああも躊躇なく敵の言う通りに出来るんだアイツはよ...」
仁が部長の行動を見て疑問に思った。
「多分、部長は本当にこの学園を守る為に、今すべき事を判断して行動してるんだと思う。」
「部長からそう聞いたのか、彩音?」
仁の問いかけに彩音は、首を横に振った。
「いいえ。私が今まで部長と一緒にいて感じた事を言っただけだよ、仁さん。」
「.....そうか。」
そう言い残し、仁も正門を通り抜けると彩音も後に続いた。
最後に残った一空は、大きく息を吸ってゆっくりと息を吐いた。
そして、正門に向けて右足を前に踏み出して正門を通り抜けた。
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一空が正門を通り抜けて目にした光景は、広く何も無い四角部屋だった。
前には先に通り抜けた、部長達がいた。
しかし、一番初めに通り抜けたセカンドの姿は見つからなかった。
「ここは...どこ?」
「何にも無いとこだな...それにアイツもいないぞ。」
すると部長が大きな声で叫んだ。
「何処にいる?さっさと出てこい!」
その後しばらく沈黙が続いたが、いきなり前方の壁の一部が扉の様に開いた。
「あっちに行けって事...?」
「行くぞ。」
「待って下さい、部長。」
仁が先に歩き出した部長を止めた。
「何だ?」
「このままアイツらの言う通りに進むのか?ここでアイツらを待つ方がいいんじゃないか?このまま相手に有利な場所に進む事は無いと思うぞ。」
仁は部長に提案をした。
「...お前の言うことも一理ある。だが、ここまで来た時点で奥に進もうが、ここで待とうが大きな差は無いと思うぞ。」
部長はそう言い残し、奥の扉へと歩き出した。
残りの3人も部長の後を追って奥の扉へと歩き出した。
そして、扉を抜けると更に部屋がありまた奥に扉があった。
「まだ、奥に行けってこと?」
「そう言う事だろ。」
そのまま4人は、扉を抜けるとまた同じ様な部屋がありそれを3回繰り返した後に、薄暗い部屋に辿り着いた。
「今までの部屋と違うな...」
「っ...!やっとお出ましだ...」
部長は何かしらの雰囲気を感じて呟くと、部屋が一気に明るくなった。
4人は急に明るくなった事で、目を手で覆い隠す様にして閉じていたが、ゆっくりと目を開けると奥に3つの人影が見えた。
そこにいたのは、〈神守護〉のファースト・セカンド・サードの3人だった。
「ようこそ、粛清対象の皆さん。」
「粛正対象?」
彩音がファーストに対して問い返した。
「おや、お忘れか?俺は君に宣言したはずだが。」
「...」
一空は黙ったまま、ファーストの方を見ていた。
「それで、私達をここまで呼び出したって事は、ここで決着を付けようって意味でいいんだよな。」
部長の問いかけにファーストは頷いた。
「お察しの通り。お前達は、反抗組織の中で急激に目立ち出し危険度もある。それに《五源器》の所有者がいる事から優先的に粛正する対象となった。だから、今から粛正する。」
「何故《五源器》の名前が出て来る?」
「《五源器》は、我らが神に対し危険な武器だと分かっている。そんな物をお前らの様な奴らに所持させる訳にはいかない。我らで管理する!」
ファーストが大きく片腕を横に振って答えた。
「お前らは、神に逆らう奴らを全員排除するつもりか?」
「勿論だ。あの方々が、この世界の平和の為にしている事を邪魔する者は、誰であろうと粛正する!我らは、神が創る平和な世界の為に行動し、神を守る。.......それが、〈神守護〉だ。」
ファーストの発言に部長がゆっくりと話し出した。
「お前にそう言う信念があるように、私にも私の世界を守る信念がある。どんな障害だろうと私の信念を折る訳には行かない!」
「お前の守る世界が何であろうと、お前が神に逆らっている時点で、そんなものを守る価値はない!」
「お前らに、それを決める権利はない!」
「俺達でなく、神が絶対だ!その神に逆らう奴らなどに自由などない!」
ファーストがそう告げた瞬間、一空・彩音・仁のそれぞれの足元が開いた。
「なっ!?」
3人はそのまま足元に空いた穴に落下して行った。落下するとすぐに穴は閉じてしまう。
「お前ら!...貴様!」
部長が片手で腰元のストラップを引っ張り、銃口をファーストに向けて引き金を引いてレーザーを放った。
だが、放たれたレーザーはファーストの胸を通り抜けて奥の壁に激突した。
「!?...通り抜けた?」
「よく出来てるだろ、このホログラム。それがお前の《五源器》か...」
ファーストがそう言うと、隣のセカンドとサードの姿が消えた。
「元々、この場に俺達は誰一人としていない。お前は、この場で仲間が粛正されるとこを観ていろ。」
部屋の上空に大きなビジョンが出現した。
「全てが終わったら、最後はお前だ...」
ファーストはそう言ってその場から消えた。
「まさか、こんな形で分断されるとは...みんな...」
部長は上空のビジョンを見つめて呟いた。