5章⑯ 仮面とストラップと中間テスト最終日
円卓の机の周りに、龍・狐・鬼・ピエロの仮面を付けた者達が座っていた。
すると、鬼の仮面を付けた者が発言した。
「なるほど、それでおいそれと逃げ帰って来た訳か。」
「あら、その言い方は聞き捨てなりませんね。」
狐の仮面を付けた者が反論すると、龍の仮面を付けた者が話し始めた。
「鬼の言う通りだ。言い訳はしない、それが結果だからな。」
「こうなる事は分かっていたろ。...まだ、その時じゃ無いと言ったよな。」
「だが、今回〈神守護〉の戦力や情報を知れた。」
「得たものと失ったものが、比例してないんだよ。やはり、お前にその地位は早かったんじゃないか?」
「何?」
そこに割って入って来たのは、ピエロの仮面を付けた者だった。
「まぁ、2人共一旦落ち着いて。」
その言葉に従う様に2人は静かになった。
「鬼の言う事も確かだけど、龍も龍なりの考えがあってやった事を分かってやれ。俺も承認した事だ。」
「貴方がそう言うならば...」
鬼の仮面を付けた者は、腕を組みそれ以上龍の仮面を付けた者に対して言うことはなかった。
「さて本題だが、〈破壊〉の力を持つ者を発見した。」
「あら、今まで手掛かりすらなかった〈破壊〉の力を見つけたんですか?」
狐の仮面を付けた者の、問いかけにピエロの仮面を付けた者が頷いた。
「で、どんな奴だった?〈野生〉の様に力に飲み込まれる奴か?」
「いや、逆だ。そいつは完全に〈破壊〉の力を使いこなしている。」
ピエロの仮面を付けた者の返答に、龍の仮面を付けた者が話し出した。
「それは厄介ですね。そんな奴でも引き剥がす事が出来るんですか?」
「あら、そんなの簡単よ。相手を叩き潰して弱らせればいいのよ。」
「狐の言う通り、そいつを殺さなければ問題ない。手段だって何だっていいんだ。...世界を変える為に、それは必要な力なんだから。」
ピエロの仮面を付けた者が淡々と龍の仮面を付けた者に告げた。
「それで、いつそいつに仕掛るだ?」
鬼の仮面を付けた者がピエロの仮面を付けた者に強めに尋ねた。
「今から行き、見つけ次第仕掛る。」
「どう言う事だ?」
「見つけたとは言ったが、そいつは今別空間に移動してしまって何処にいるか不明なんだ。だが、そいつがいるであろう別空間に入る事は出来る。だから、今からこの場のメンバーでその空間に入り見つける。」
「あら、〈破壊〉は別空間に移動出来るような力でしたっけ?」
狐の仮面を付けた者が、ふと思った疑問を投げかけた。
「いいや、無いはずだ。可能性としては、仲間の力と言うとこだ。」
「関係ないな、対象は〈破壊〉の力を持つ者だ。そいつさえ仕留めれば問題ない。」
鬼の仮面を付けた者がそう言うと、狐の仮面を付けた者が問いかけた。
「あら、やたらと強気ね?」
「勿論だ。やっと4つの力を持つ者と殺し合えるんだ、体がうずうずしてるんだよ!」
「(実際に4つの力を持つ者と戦った事もなければ、見た事もない奴がイキるな...)」
龍の仮面を付けた者が心の中で呟いた。
「鬼の力は確かに強いけど、油断は駄目だよ。相手は、過去に〈ゼウス〉が全て保持していた4つの力の1つだからね。」
「分かっている。だが、体のうずうずが止められないんだよ!」
「全く、変な体質だな。お前は。」
そう言うとピエロの仮面を付けた者は、椅子から立ち上がり、振り返ってポケットから野球ボール程の大きさの物を空中に投げた。
すると、そのボールが変形して人が入れるくらいの楕円形のゲートになり地面に落ちた。
そしてゲート中心の空間が歪み始めた。
「さて、行くぞお前ら。」
ピエロの仮面を付けた者は、軽く顔だけ振り返り呟き、ゲートへと進んで消えていった。
「待ってろよ!」
「あら、こんな物まであるのね〜」
鬼と狐の仮面を付けた者もゲートに近づき、ゲートの中へと消えて行った。
そして、残った龍の仮面を付けた者も立ち上がりゲートの前まで行くが立ち止まった。
そこで、腰もとに付けた2つのストラップを手に取って見つめていた。
だが、すぐに手を離してゲートの奥へと消えて行った。
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一方、一空達は〈神守護〉の拠点ツアーに参加してから約3週間が経とうとしていた。
それまでに、何者かに狙われたり襲撃される事もなく、平和な学園生活を過ごしていた。
そして十色学園は只今、中間試験期間の真っ最中だった。
『キーンーコーンーカーンーコーン』と学園のチャイムが鳴り響いた。
「そこまで、筆記用具を置いて解答用紙を前に渡して下さい。」
先生のその言葉を聞いて、生徒達は一斉にザワつきだし、解答用紙を後ろから前に手渡していった。
「えっ、これって3なの!?」
「何、お前別のにしたの?」
「どうだった〜?」
「もう、ぜ〜んぜん。」
生徒達はテストからの解放感で自由に話し続けた。
そして先生が、解答用紙を回収して軽く確認し終えると話し出した。
「はい、皆さん聞いてください。これで中間テストも終了です。お疲れ様でした。」
「やっと終わったー」
「これで自由だー!早く帰れるし最高だ!」
「はいはい、そこ話しは聞く。」
先生が途中で話し出した生徒に注意して、再び話し出す。
「5月もこれでお終いだけど、7月には期末テストがあるから忘れないように!後、プリントで渡す物があるからまだ帰らないように。先生が今から取りに行くから、帰る準備して待ってること。」
そう言って先生が教室から出て行った。
そして生徒達は、立ち上がり各々に話し始めた。
「おい万城、どうだった?」
梅田が後ろを向いて一空に話しかけた。
「勿論、バッチリよ!」
一空は梅田に対して親指を立てて話した。
「さっすが〜、俺りゃヤバイかも...」
「俺もそんな高得点じゃないと思うが...」
「それより、テスト最終日だしこの後どっか行かないか?」
梅田の誘いに一空は、少し苦笑いをして答えた。
「...すまん!この後、もう予定があってな...」
「何だよ、つまんねぇな。分かったよ、加賀でも誘うか。」
「すまん梅田!」
「別に怒っちゃないよ。」
2人がそう話していると、先生が帰って来て生徒達は自席に戻り話しを聞き出した。
そして、話しも貰うものも貰い解散となった。
「じゃ、また来週な万城。」
「おう!またな梅田。」
2人はそう言って、教室前で別れた。
「さてと、行きますか。」
一空はそう呟くと部室へと向かった。
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一空が部室に着くと、部長と仁が既にいた。
「珍しいな、2人が先にいるなんて。」
「そう言われれば、そうだな。」
「まぁ、今日は仕事も少なかったからだな。」
「ふぅ〜ん、そうなんだ。」
一空は、そう頷きながら扉を閉めてソファーに座った。
「彩音は一緒じゃなかったのか?」
「あぁ、アイツは今日掃除当番なんだよ。だから遅れて来るぞ。」
仁の問いかけに一空が答えた。
「そうか、じゃ先に行くか?」
「いや、少し休んでからにする。疲れたし。」
「おいおい、そんなんで疲れてどうすんだ?」
仁が一空に軽くはっぱをかける様な言葉を言った。
「分かってるよ〜。御神楽には、今日も例のモノに付き合ってもらう予定だから。」
「最近そればかりだぞ。少しは、別のもやれ」
一空と仁が言い合っていると、部長が割り込んで来た。
「万城、そう言えばストラップ魔法のこと、どこまで理解している?」
「理解って言われてもな...このストラップに魔法が込められた武器とかが圧縮されて、ストラップになってるって事じゃなかったか?」
一空は、腰に付けていたストラップを前に出す様にして部長の問いかけに答えた。
「間違った理解ではないな。後、付け加えるならストラップ魔法は、もう1つ分類がある。」
「分類?」
「そうだ。例えば、御神楽が持つ木刀のストラップだな。あれは、ただの木刀をストラップ化しているんだ。」
部長がそう言うと仁が、そのストラップを取り出して見せた。
「ストラップ魔法自体が、数は多くはないがただの物自体をストラップ化している物もあるんだ。最近じゃ、これを現代の技術で再現しようとしている企業とかがあるらしいぞ。」
「へぇ〜、そうなのか。...ん、じゃ物をストラップ化しているのは、代償とかもないのか?」
一空がストラップ魔法を使用時の代償が物だけの物にもあるのか気になり、部長に問いかけた。
「ただの物をストラップにしただけだから、代償はないぞ。」
「なら、本当にこれを再現出来る企業とか現れたらスゲェな。いい事じゃねぇか!」
「まぁ、そんな簡単には出来ねぇだろう。もし出来たら、この技術は無くなっちゃねぇよ。」
仁が一空に対して自分の考えを話した。
「そう言われれば、そうか...」
「万城、ついでに《五源器》について知っておけ...」
部長が、一空に対して《五源器》についても話そうとした時だった、部室の扉が勢いよく開き全員がその方向を向いた。
そこにいたのは、息を切らしていた彩音だった。
「どうした彩音?そんなに急いで?」
仁が彩音に問いかけると、彩音は息を整えながら話した。
「ハァハァ......大変です....じ、時間が....」
「時間?」
そう言われて一空が時計を見るが何か変わったことは無いように見えた。
「い、いや.....ここじゃなくて......外と、学園中が!」
「!?」
そう言われて全員が廊下に出ると、思っていない光景が目に入って来た。
「どうなってる!?」
そこには、時が止まっている様に廊下にいた生徒が固まっていた。
仁が近くに寄って確認したが、反応も脈もなく完全に固まっている状態だった。
「彩音、学園中と言ったな。これはいつ起こった?」
「私もいきなり、声や反応がなくなったから周りを見たらもうこうなっていました...」
「部長、俺こういう感じの前に体験したことあるぞ...」
一空がそう呟くと彩音が続けて話した。
「もしかして、あの時のと同じ感じ?〈神守護〉の2人が攻めて来た時と。」
すると、廊下に何者かの足音が響いて来た。
「誰か来るぞ。」
仁の言葉を聞くと足音が聞こえて来る方に全員が視線を向けた。すると、廊下の角を曲がって現れたのは〈神守護〉のセカンドだった。