5章⑭ 記憶のトリガー
一空と彩音が〈神守護〉の拠点ツアーに参加した次の日、世界征服部に部長と仁も集まり拠点ツアーについて話していた。
「なるほど、あまり収穫がなかったか。」
部長がそう呟くと彩音が続けて話した。
「そうですね、あまり重要な箇所は見られず本当に公開出来るとこだけを回っただけでした。」
「それじゃ、早速見せてもらおうか。」
そう言うと部長は彩音に手を差し出した。
だが、彩音は軽く首を傾げた。
「おいおい、まだ付けてるんじゃないだろうな...」
部長は、こめかみ辺りを指で叩きながら彩音に言うと彩音は、その意味をやっと理解してその場で慌てだした。
「す、すいません!すっかり忘れていました。」
すると、目からコンタクトレンズを取り外して容器に入れて部長に渡した。
「長時間付けてても違和感は感じない仕様になってるから、忘れていたら仕方ないか...」
部長は彩音から容器を受け取ると、部室に置いておいた小型テレビを机の上に置いて、黒いお弁当箱の様な物を側に置くと、そこからコードを伸ばしてテレビに繋いだ。
「何してるんだ、部長?」
仁が近寄って尋ねると、部長は片手で何かの準備をしながら答えた。
「彩音達が行ってきたツアーってのを、今から見るんだよ.....よし、これであとはこのレンズを読み込ませれだけと...」
部長は準備を終えると、ソファーに腰掛けて映像が始まるのを待った。
「何で、そんな物を持ってんだよ。」
仁は想像もしてない物を部長が、持っている事に驚いていた。
「昔の友人に貰ったんだ。これは、この世に1つしかないからな。」
「物凄いご友人をお持ちで...」
仁は顔が少し引きつりながら答えた。
そして仁もソファーに手をかけて、映像が始まるのを待ち彩音と一空もソファーに腰掛けて同じ様に待った。
「そう言えば、昨日の朝に会った時にこれの説明聞いた気がするな。」
一空が彩音に向かって話すと、彩音は少し眉をひそめて答えた。
「そうだったけ?なんか、昨日の事なんだけど所々モヤモヤしてて思い出せないんだよね...」
「大丈夫かよ、それ...」
一空が彩音を心配していると、テレビに映像が映り、昨日彩音が見た映像が流れ始めた。
「お、始まったな。今から向かうとこって感じか。」
「確か、集合場所に向かう途中で貰ったコンタクトレンズ付けたんだ。」
そうしているうちに、映像は一空と出会って〈神守護〉の拠点に到着し身体検査を受ける場面へとなった。
「そうそう、入るのにも時間がかかったんだよな。」
「やはり、セキュリティ面はしっかりしているな。」
そして映像は、2人が室内に入り座って彩音の偽名の話をしている場面になる。
「神童 神守七って、スゲェ名前思いつくな。」
「いい名前だろ?」
「神守七って読めないぞ。てか、逆に目立つ名前だろ。」
「...確かに、潜入向きではないな。」
部長は仁にそう言われて少し反省していた。
映像は、ついにツアーが開始され様々な場所を周り始めた。
「こっからは、案内人に連れられるままに見て、ツアーが終わったんだよな。」
「えぇ...そうだったね...」
彩音の少し歯切れの悪い返答に、部長は気になり問いかけた。
「どうかしたか彩音?」
「いえ...何か伝え忘れている事があった様な気がして......すいません。」
「そうか。思い出したら言ってくれ。」
そう言って部長は、再び映像の方に目を向けた。
映像は訓練場を映していた。
「訓練所か?組手をしてる奴らもいるな。」
「はい、仁さんの言う通りここは1つの訓練所でした。それに見た限りだと、かなりの訓練を受けている様でした。」
「だが、いくら訓練をしていても実戦で発揮出来なきゃ意味ないがな。」
「彩音も似た事言ってたよなぁ?」
一空がそう言うと、ちょうど映像でその場面が流れた。
「なんか観ているのが、恥ずかしい...」
彩音は少し顔を伏せて恥ずかしがっていた。
「にしても、ここまで本当に当たり障りが無さそうなとこを周っている感じだな。」
仁がそう呟いた次の瞬間だった。
テレビから物凄い音が出た。
「!?」
その音に全員が驚き、映像を観た。
そこには、訓練所の壁が破壊され侵入者が次々と訓練していた者が倒されて行く映像だった。
「何だ......これ......!?」
一空と彩音は自分達の知らない状況に言葉を失っていた。
「おい、何事も無かったんじゃないのか?」
仁が問いかけるが2人は状況が分からず、答えられなかった。
そのまま映像は続き、地下へと落ちて行く場面になった。
「お前達、こんな事に合って黙ってた...訳じゃ無さそうだな。」
部長は2人の表情を見て呟いた。
「どう言う事だ...こんな事、覚えてないなんて...」
「これを私は、見ていたの?」
彩音は片手を頭の横に当てて呟くと、いきなり頭痛が襲った。
「うぅっっ....」
「これはっ....うっっ!」
一空も急に頭痛に襲われ、頭を抱え出した。
「どうなってんだ!」
「御神楽、お前が焦ってもどうにもならないぞ。今は映像を見続けるしかない。この感じだと、2人は記憶をいじられたんだろう。」
「記憶を...そんな事が可能かのか?」
仁が部長に問いかけた。すると、部長は映像を指差した。
「見続ければ、それも分かるだろ。」
その直後一空と彩音の頭痛も落ち着き、同じように映像を見始めた。
仁も映像の方に目を向けた。
映像は、ついに2人が武器庫の様な部屋で侵入者が《五源器》のレプリカを手にした所となった。
「あれは!」
部長がその映像を見て反応した。
「この部屋は...」
一空は、その映像を見ると頭の中でぼんやりとその時の事を思い出した。
その後、映像は侵入者と〈神守護〉のセカンドとの戦闘になった。
「確か、この後...」
彩音が小さく呟くと、映像では部屋壁が破壊され龍の仮面を付けた者が入って来たのが流れた。
「また、新しい奴か......ん、あの装備...」
仁は龍の仮面を付けた者の装備を目にして、何かに気付いた。
しかし、一空が先に呟いた。
「竜胆...」
「何でアイツが?」
「...」
部長は黙ったまま映像を見続けた。
その後映像は、侵入者が逃走し一空と彩音は別部屋へと誘導され始めた。
「この後は、何処に連れてかれたんだ?」
「この後......俺達は...」
仁の問いかけに一空は目を瞑って思い出そうとした。
しかし映像は、2人を部屋に入れられた場面になっていた。
「何だ?やたらと人数がいるな。」
仁は目を凝らして映像を見つめていた。
部長も未だに黙ったまま見つめていた。
そして映像は、部屋の奥に誰かが現れたとこを映した。
すると、そこで彩音が大声を上げた。
「すぐ、映像を止めて!」
「!?」
それにすぐ反応したのが、一空だった。
一空はテレビに手を伸ばした。
映像は次の瞬間、真っ白く光出した。
だが、一空の手が先に届きテレビを奥に押し倒した。
そして倒れたテレビから強い光が部屋の天上に向かって放たれた。
「皆んな、今すぐに目を瞑って手で覆ってあの光を見ないで!」
彩音の指示に従い、部屋にいた者達はその通りにして光を見ないように地面に伏せたり、ソファーに顔を埋めたりした。
そしてその状態が10分程続けていると、テレビから話し声が聞こえて来た。
「声がしたな......」
「もう、大丈夫だろ。」
そう言って部長がいち早く態勢を戻した。
その後に仁、一空、彩音と態勢を戻して行った。
「何だったんだよ、さっきのは?」
すると部長が答えた。
「あれで、お前らの記憶がいじられたってとこだろ。」
彩音は少し俯いて話し出した。
「そこまでは分からないですけど.....でも、あの後は見ちゃ行けないと思ったんです...」
「...なるほど。まぁ、そのお陰で私達まで記憶をいじられる事は無かったからな。それにこれは、色々な収穫があった。」
そして部長は、倒れたテレビに回り込んで映像を止めて電源を消した。
「一旦、休憩にしようか。その後にこの映像を元に今後の話をしよう。」