5章⑬ 次なる粛清対象
「あれ、もう夕方か...」
一空は夕日が目に入り呟くと、ふと思い返した。
「そういえば、拠点ツアーに参加してたはず......あっ」
一空が横を向くとそこには、彩音が同じ様に夕日を見て立っていた。
「彩音。」
「っ!一空...」
そこで一空に気付く彩音。
「確か、ツアーに参加してたんだよね。時間的に終わったの?」
彩音の問いかけに一空は自信なさそうに答えた。
「た、多分?」
2人は記憶が曖昧で知らないうちにツアーが終わっており腑に落ちていなかった。
そして周りには、同じツアー参加者達がいて同じ様な会話をして少し困惑していた。
そこに後ろから声がかかる。
「皆さま、お疲れ様でした。どうでしたか私達の拠点ツアーは?」
その場にいた者達が振り返ると、そこにいたのは案内役をしていたエイティースだった。
「このツアーに参加しないと、見れない場所や貴重な体験をしていただき時間もあっという間に終わってしまいましたね。」
その言葉を聞くと、ツアー参加者達は今日体験したツアー内容が溢れるように蘇った。
そのままエイティースの締めの言葉を聞くにつれ、何故ツアー内容を思い出せなかったのか分からないくらいになっていた。
「と、言う訳で本日の拠点ツアーは終了となります。皆さま、ご参加いただきありがとうございました。また次の機会にもご参加いただけたらと思います。」
エイティースはそう言い終えた後に、一礼した。
それを見届けてツアー参加者達は、拍手で応えて帰路につき始めた。
そして一空と彩音も入って来た門へ向けて歩き出した。
そこで一空が彩音に話しかけた。
「参加したは良かったが、あんまり収穫がなかったな。」
「そうだね...思っていた以上に警備をされていたし外部の人に見せる様な所しか回らなかったもんね。」
そう話しながら2人は、歩いて行き入ってきた門を出て、〈神守護〉の拠点を後にした。
そして、その後ろ姿を見送ったエイティースが独り言を呟いた。
「ふー......何とかトリガーになったか。」
そこに〈神守護〉の人物が近付いて来て、伝言を伝えた。
「エイティースさん、そろそろ...」
「あぁ、すぐに行く...」
そう言ってエイティースは、足早に拠点の中へと消えて行った。
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場所は変わり、とある会議室。
部屋には序列上位者6名とそれ以外のメンバーが数十人いた。
「それじゃ、詳しくその時の状況を聞かせてもらおうか。」
そう言ったのは、ファーストだった。
すると〈神守護〉の1人が、襲撃時の詳細な内容を話し始めた。
「なるほど...それで、お前達の弁解はあるか?」
ファーストは、そう言ってセカンドとサードの方を見た。
「ない。」
「セカンドと同じく...」
「そうか。」
ファーストは、小さくため息を吐いた。
「巻き込んだ一般人と外部にいた一般人の記憶もナインスの力で操作したらしいが、いつどんな引き金で思い出すか分からないぞ。ひとまずは、一定期間監視員をつけろ。それに伴ってまず、ツアー参加者の詳細リストを作成しておけ。それと被害状況を報告しろ。」
「はっ!被害状況を報告します。」
そう言って、先程とは違う〈神守護〉の1人が話し出した。
「損害箇所は外装・内装合わせ総計で、100箇所以上見られます。その内、拠点外装部は既に修復完了とのことです。ですが、内装は未だに修復中です。特に修復に時間がかかっているのが、地下へと空いてしまった床です。それと同時に損失物も確認中です。それを含め終了予定は最低でも、3週間はかかります。」
報告を受けてファーストがすぐに指示を出す。
「損失物確認の優先度を下げ、その人員を修復の方に回せ。それと、さっき言ったツアー参加者詳細リスト作成だが、それも後回しにし、先に現状あるリストでいいから後で持って来い。」
ファーストが報告を聞いて指示をし直した。
それを受けてすぐに報告者は、返事をして数十人の〈神守護〉は部屋を後にした。
そして部屋に残ったのは、序列上位者の6名となった。
「まさか襲撃されるとはな...それで奴らの狙いが《五源器》と言うのは本当か?」
ファーストの問いかけにセカンドが答えた。
「明確にそうとは言えないが、地下に置いておいた《五源器》の模造品を見つけて持ち去ろうとしている様に見えた。」
それを聞くとファーストは腰元に付けていた双剣のストラップを取り出した。
「今まで、革命者の情報が少なかったが、理由は分からないが奴らも《五源器》を集めているという事か。」
するとファーストは、持っていたストラップをフォースに投げ渡した。
「!」
フォースは咄嗟に受け取り、驚いた表情をしていた。
「一旦返す。また、いつ何処で狙われるか分からないからストラップ状態より、使用者が持って対応出来る方が良いだろ。」
それを聞きフォースは、小さく返事をした。
「...了解...」
「さて、ちょうど6人いる事だから私達の調査結果を報告する。」
ファーストが話題を変えて話し始めた。
「調査結果と言うのは、以前見つけた獣王の拠点調査ですか?」
フィフスが確認するとファーストは頷いた。
「私とフォース、シックスで調査を行なって来たが獣王に繋がる大きな手掛かりは見つけられなかった。」
そう言って一息間を空けてから再び話し出した。
「だが、近くに村がありそこで獣王の捕虜が拘束されていたので引き渡してもらい、そいつらから違う情報を手に入れた。」
「近くの村?」
フィフスが首をかしげるとファーストが続けて答えた。
「あぁ、東和村と言う村だ。理由を聞く分には村人達が村に攻めて来た獣王の配下の者を撃退し捕らえたらしい。」
「そんな村があるんですね...」
フィフスは少し関心したのか、軽く呟いた。
「それで、聞き出した情報と言うのが《五源器》と思われる物の所有者と戦った言う情報を得た。」
その発言に驚くサードとフィフス。
そして部屋の中心に映像を表示した。
そこには、《五源器》らしき武器の画像が写し出された。
「これは、捕まっていた獣王の配下の者達から聞き出した話と、こちらで持っている《五源器》の情報を合わせて作った画像だ。そして、そいつらの証言から得て絞り出した所有者の写真がこれだ。」
そして次に映されたのは、部長の写真だった。
さらに一空、彩音、仁の写真も映し出されていた。
「こいつらは...」
それを見てセカンドが呟いた。
「最近、粛清対象として上がっている奴らで、お前らも一度は出会った奴らだ。私もこの男とつい最近出会い戦闘を行ったが、獣王発見の連絡を受けてそちらを優先したため、虫の息のとこで見逃した。」
その発言を聞き、フォースが驚いた表情をした。
「だが、そいつは今までに見たことのない力を使用していた。更に、フォースはコイツに負けかけている。」
「っ...」
それを言われてフォースは顔を背けてた。
「そして今回《五源器》所持の疑いが上がったコイツらをこのまま放っては置けない。今は、依頼を受けた獣王の捜索が最優先だが、コイツらの粛清の順位を上げて早急に対処する事にする。異論はあるか?」
それに異論を唱える者はいなかった。
「では、粛清執行者は当初通り序列上位3名で行う。...フォース、次にまた問題を起こしたら序列の剥奪だぞ。」
「分かっている。」
フォースは一瞬だけ、ファーストの目を見て答えまた顔を背けた。
「ひとまず共有する情報は以上だ。他に何かある者はいるか?」
そのファーストの問いかけに誰も答える事はなかった。
「では、解散とする。各自、修復作業を手伝うように。」
そして次々と部屋を出て行く。
するとファーストが、サードとセカンドを呼び止めた。
「今回の失態は、次の粛清執行で挽回してもらうぞ。」
「勿論だ。今回は自分の甘さと傲慢さが原因だった。もう、この失敗は二度としない。」
そうサードが目の色を変えて宣言して部屋を出て行った。
「敵を甘く見ていた。そして、気の緩みもあった。完全に自分の失態だ。」
セカンドはファーストに対して正面を向いて話した。
「自分から甘さを捨て、どんな奴でも冷徹に対処する。」
そう言い残しセカンドも部屋を後にした。そして部屋には、ファーストだけが残った。
ファースト椅子に座り、独り言を言い出した。
「今回の襲撃で良くも悪くも皆の意識に変化があったか......だが何故、革命者は白昼堂々と襲撃を仕掛けて来た?それにどこで《五源器》の情報を掴んだ...」
ファーストは一人で『ブツブツ』と言っているとそこに扉を叩く音がした。
「っ!...何だ?」
ファーストが問いかけると扉を叩いた者が話し出した。
「はっ!先程指示されていた、本日のツアー参加者の現状リストをお持ちしました。」
「そうか、入ってくれ。」
そう言われると部屋に入って来て、ファーストにリスト手渡してすぐに部屋を後にした。
ファーストは貰ったリストに目を通していると、とある名前を見て手が止まった。
「神童 .... 神守七....」
そう呟くとファーストはリストを持って立ち上がり、部屋から足早に出て行き先程リストを持ってきた人物を呼び止めた。
「このリストに書かれている人物写真はあるか?」
「はい、少々時間を頂ければそのリストに記載されている全員分の写真を用意する事が出来ます。」
「いや、全員分でなくていい。この人物の写真を見たいんだ。」
ファーストがそう言うと、リストを持って来た人物がリストを見て返答した。
「それならば、すぐにでも情報部署の方に行けば出せるかと思います。」
「そうか、今から連絡をして用意してもらえるように伝えてくれ。私がそちらに向かう。」
そう言い残し、ファーストは情報部署へと向かった。
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「いきなりですまい。写真は用意出来たか?」
「はい、こちらです。」
情報部署の1人が、ファーストから指定された人物を映し出したディスプレイの前に案内した。
「こちらが、ファーストさんが指定された人物の写真です。隣に写っているのは友人か恋人かと思われます。」
「.......」
「ファーストさん?」
ファーストはディスプレイに映し出されてた人物を見て黙っていたが、すぐに情報部署の1人に指示を出した。
「この2人を詳しく調べてくれ。何か分かり次第私に連絡を入れてくれ。」
「承知致しました。」
そう言い残しファーストは、情報部署を立ち去って小さく呟いた。
「逃げられると思うなよ...」
そして情報部署のディスプレイには、変装した彩音と一空が映し出されていた。