5章⑨ 彩音の過去
今から7年前、私がまだ9歳だった頃。
その頃は、世間では言うお金持ちの家の1人娘だったのよ。
お父さん、お母さんと暮らしていて、執事やメイドさんも何人か雇って楽しく暮らしていたわ。
それに私にも、専属の執事がいたの。
執事と言っても私より3、4つ歳が上のお兄さんだったけどね。
そんな幸せに暮らし続けて、私が10歳の誕生日の日だった。
ーーあの【神の名を継ぐ者】と戦争が起こったの。
私が住んでいた所は、戦争の中心からは少し外れていたけど、すぐにそこも戦場となった。
お父さんとお母さんとで逃げ出そうとしたけど、既に外には炎が広まって、怪しい奴らもうろついていて、外には出ずに家の中に一時的に隠れる事にしたの。
私はクローゼットの中に服を被せさせられて入れられたの。
「助けが来るまでここに入っていなさい」と言われ私は体を小さくして隠れていた。
その後、家の中で何かが壊れる音やお父さん達の叫び声などが聴こえて来たの。
だけど私は、言われた事を守り耳を塞いで隠れ続けた。
すると、いつしか声も聴こえなくなって私はただ隠れながら声を潜めて泣いたわ。
そこに扉をいきなり開けてある人物が私の前に立っていたの。
私が顔を上げるとそこには、私の専属執事だった男の子がいたの。
その子は、手を伸ばして話しかけて来たの。
「逃げよう。」
それを聞き、私もその手を掴んでクローゼットから出て男の子に連れられて物陰などに隠れながら家を出て、そのまま戦場を離れたの。
それからは、その男の子について行き一緒に安全な場所を探して歩き続けたわ。
食料や寝る場所とかも男の子が探してくれて、そこで、食べて寝てを繰り返して安全な場所を探し続けていたの。
そんなある日、いつも通り男の子が食料を探しに行って私は洞窟で1人待っていたの。
でも、男の子はそれから何日経っても帰って来なかったの。
だけど、私はずっとそこで待ち続けた。
そこを離れて探しに行ことかとも思ったけど、入れ違いになるんじゃないかと思って待ち続けたの。
そして私の意識が朦朧とし始めて倒れていた頃に、そこで出会ったのが部長だったの。
そこからあまり意識がなくて、うろ覚えだけど、そのまま避難所に運ばれて、次に気付いたら病院にいたわ。
その後は、私のお父さんの叔母が私の名前を見つけて叔母の家に引き取られたの。
それからは、叔母の家での生活が始まって高校でまた部長と出会って今に至るってわけ。
後、戦争が終わって落ち着き始めた頃から、あの時の男の子を探していたけど、結局あの時私を助けてくれた男の子は、あれからどうなったかは今でも分からないままよ。
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「と、まぁ簡単に言うとそんな感じだよ。」
一空はゆっくりと口を開いた。
「そうだったのか...」
「あんまり話すような事じゃなかったかもしれないけど、私はパートナーには隠し事はしたくなかったから。」
「パートナー...」
一空が『ポツリ』と呟いた。
「別に一空にも隠してる事を言って欲しいわけじゃないからね。これは、ただの私の自己満足なんだから。」
「あぁ...」
すると、ゴーグルが声を上げた。
「来た。反応がある箇所を見つけた。」
「うぅぅ...ここは?」
「ロクトル、目が覚めたか。」
イフトがロクトルに声をかけて、状況を説明した。
「そうだったの...ごめん、ゴーグル。」
「起こった事は気にするな。それより、例の反応がこの地下であった。そんな状態で悪いがすぐ動けるか?」
ゴーグルの問いかけにロクトルは、胸を軽く叩いて答えた。
「勿論!失敗は、作戦の貢献で取り返す。」
「よし。...ウィン、俺達は行くがお前の方は?」
それを聞くとウィンは、振り返って答えた。
「私も行くよ。上に行く道も見つけられたからね。」
「そうか。」
そう言い残し、ゴーグル・イフト・ロクトルは近くの出口に向かって歩き出して奥へと消えて行った。
「皆さん、上に続く道を見つけたので私達も動き出しましょう!」
ウィンは声を張って、ツアー参加者達に声をかけた。
すると1人のツアー参加者が問いかけた。
「あんたを信じて本当に大丈夫なのか?騙して、何処かに連れ去ろうとかしてたりしないのか?」
その発言にウィンがすぐに答えた。
「それは、貴方達が決めて下さい。...ただ、ここに残って来るか分からない助けを待つよりかは、私と一緒に上を目指す方が良いと考えますけどね。」
「うっ...」
するとツアー参加者達が、次々とウィンの近くに集まり始めた。
それを見て、一空と彩音も近付いた。
「では、行きましょうか。」
ウィンは、ツアー参加者達を引き連れてゴーグル達が出て行った出口の方へ歩き出した。
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ウィンとツアー参加者達は、廊下の様な通路を何度か右や左に曲がり歩き続けていた。
すると、ウィンが急に止まり前方に向かって話し出した。
「おや?こんなとこで、何故立ち止まっているのですかゴーグル?」
その声にゴーグルが反応して振り返った。
「ウィン?...いや、反応がいきなり途絶えたから、もう一度反応を探しているんだ。」
「そうだったんですか。」
ゴーグルの横にはイフトとロクトルが立っていた。
そしてウィンがゴーグルに近づくと、ゴーグルが右に続く通路を見て呟いた。
「反応を見つけた。こっちだ。」
そう言ってゴーグルに続き、イフトとロクトルが左の通路に走って消えて行った。
一方でウィンは、逆の左に続く通路に曲がって歩き続けた。
すると、ツアー参加者達の後方にいた彩音が一空に呟いた。
「私達も、あっちに行くわよ。」
「えっ...」
そうい言うと彩音は、ゴーグル達が行った方に走って行った。
一空も彩音を追いかける様に走って右の通路に消えて行った。
ウィンとツアー参加者達は、そのまま歩き続けると広い部屋の様な場所にたどり着くと、再びウィンが足を止めた。
すると、ウィンとツアー参加者達に向かって近づいて来る、いくつかの足音が聞こえて来た。
そしてその足音を立てていた者達が、ウィンとツアー参加者達の前に現れた。
「貴方は...」
「こんなとこにいたか...」
そう呟いた人物は、〈神守護〉のサードだった。