2章① 入学式当日とメガネ男
入学式当日、一空は世界征服部の部室にて疲れ果てた状態でソファにうつ伏せで横たわっていた。
「あぁぁぁぁーーーつがれたぁーーー」
一空が部室にいる理由は、昨日の入学式準備作業が夜まで続き、終わるとそのまま部室で横になり寝てしまった為だった。
少し寝ボケながら背伸びをしていると部室のドアが『ガラッ』と開き、そこに立っていたのは、彩音だった。
「えぇ! なんで、一空が部室に……」
部室に一空がいる事に物凄く驚いた表情をしたが、直ぐに察する彩音。
「もしかして、昨日の作業が終わった後ここで寝たんじゃ……」
「いや〜寝るつもりじゃなかったんだがな、あの後ちょっと横になったら寝てたわ」
最後は笑顔で答える一空。
その答えに口角が『ピクピクッ』と何度か上がり彩音は大きく息を吸った。
「汚いまま寝るなーー! さっさとシャワールーム行ってこい!」
「っ行ってきまーーーす!」
彩音の声に驚き、直ぐに立ち上がり部室を飛び出すと走ってシャワールームへと向かった。
それを見た彩音は腰に手を当ててため息を漏らした。
「はぁー、普通部室で寝るかな?」
そう一空の行動に疑問を持ちながら部室に入り、まずは窓を開け外の空気を部室に入れた。すると風に乗って桜の花びらも部室に入って来る。
「今日から新しい春か……さて、まずは掃除かな。まさか寝てると思わなかったし。それに部長が来る前にやっとかないとまた怒りそうだしね」
彩音は腕まくりをすると、部室の掃除を始めだす。
――――――
その頃一空は、走ってシャワールームへ向かっていたが途中で息が切れ、膝に手をついて息を整えていた。
「はぁ……はぁ……あそこまで……怒鳴らなくても……いいじゃ……ないか……」
そんな独り言が終わると大きく深呼吸し、息を整え終わると歩きだした。
外部の人は十色学園には、充実した施設が多くあると言われるが、一空自身も全てを知るわけではなかった。
「改めて考えると、シャワールームがあるってだけで凄い学園だよな……他にも知らないだけで、色んな施設があるらしいしな。あの部長に聞けば全部分かりそうだな」
両腕を組みながらそう思う一空だったが、何故か昨日の銃口を向けられた時を思い出していまい、聞いたら理不尽に撃たれそうだと感じ、聞くのは止めておこうと諦めた。
そんな事を考えながら歩いていると、先生に引率された今年の新入生の行列を見かけると、壁の柱にとっさに隠れる。
「……って何で隠れたんだ俺」
先生や新入生に見つかると面倒ごとになると勝手に感じたから、体が反射的に動いていたのだと自分に言い聞かせていた。そうしている間に新入生の行列は過ぎていった。
一空は、その行列を見送ると壁の柱から安堵の息をついた。
「あれは、学園案内か? まぁ今日は在校生は休みだし、見つかったら何か聞かれそうだし、見つからないように行くか」
周囲をよく確認し一空は、再びシャワールームへと歩きだす。そこに、後ろからいきなり声かけられ『ビクッ』とする。
「よぉ、オバケさん!」
そう言って一空の肩を『ポンッ』と叩いたのは部長だった。
「! びっくりした~いきなり声かけるなよ……」
「いや、なんかコソコソしてて気になってなぁ。それより、お前こんな所で何してんだ?」
「え~っと……シャワールームに行くとこ……です……」
一空は部長から目を逸らしながら答えると、部長は腕組みをした。
「ふ~ん……まぁ、昨日はお疲れさん。それと終わったら部室に来い」
「え!?」
部長の言葉に戸惑う一空だが、そんなことは気に留めずに部長は話し続けた。
「お前は、私に聞きたいことがあるんじゃないか?」
「っ! ……あんたが答えてくれるのかよ?」
一空は鋭い目つきで部長に問いかける。
「もちろんだ、今じゃその権利はお前にある」
「権利?」
「それに、もう記憶は消さない……だが、聞いたからには後戻りはもうできないぞ」
「おい、どう言う意味だよ?」
部長に意味を問いかけるが、それに部長は答えることなく振り返り肩に羽織った上着が舞う。
「いいから、さっさとシャワールームへ行け。お前、ちょっと汗臭いぞ」
部長は顔だけ振り返り、鼻で笑いながら一空に言うと歩いて行ってしまう。
一空はそれを聞き、顔が赤くなり先程より早足でシャワールームへ向かった。
――――――
一空はシャワールームにて体を洗い、サッパリしてシャワールームを後にした。そのまま世界征服部の部室へと向かい始める。
「部長の野郎、聞いたら後戻りできないってどう言う意味だよ……」
部長に言われた意味を考えながら部室へ向かい、部室の前に着くとドアを開けた。
そして部室にいたのは、窓辺近くの椅子に座る部長と机の前に立っている彩音と、メガネをかけた見たことのない男がいた。