婚約者が暴君でツラい ~魔法使いの恋愛裏事情~
――ここは王立学園の相談室。
相談役の教師は魔法使いだ。この学園には魔法科と普通科のクラスがあるが、在籍する力の強い魔法科の生徒に干渉されないように、相談役は魔法使いの教師が担当する決まりになっていた。
とはいっても、学園の教師は宮廷魔法使いにはなれなかった中堅どころの役まわりなので、今在籍する生徒の何人かには、能力で劣っている。それでも先人の知恵を借り、小さな相談室は外部からの魔法不可侵となっている……はずだ。
「先生、私の婚約者の嫌がらせが陰湿すぎてつらいんです」
この日、疲れ切った顔でやってきたのは、普通科の女生徒だった。普通科は人数も多いので、教師が把握しているのは一握りだったが、彼女はその一握りの内の一人だった。
それはこの女生徒が優秀だとか、容姿が整っているという良い意味でも、素行不良などといった悪い意味でもない。
王立学園普通科最上級生、アイラ・ヘネカー。平凡な栗色の髪と、大きめだがおどおどとしたヘイゼルの瞳を持つ彼女は、不運体質として有名だった。
「アイラ・ヘネカー君……だったね? 君に婚約者がいるというのは初耳だ。……資料にもないが」
教師は相談の予約を受けてから準備した、その生徒の名簿に目を通しながら言った。
「秘密なんです。面倒なことになるので。相手は、その……魔法科だから」
ああ、と教師は半分納得する。魔法科の生徒は周囲からエリート集団として認識されている。高位の魔法使いはいうまでもないが、下位の魔法使いであっても国の管理下で確実に仕事がもらえるからだ。
魔力が尽きても年金があり、心を病んでも病床手当をもらえる。犯罪にさえ走らなければ、安心安全の国家公務員の道が約束されていた。
普通科の女生徒達は、密かに魔法科の男子生徒を狙っていると聞く。
確かに、この平々凡々で気の弱そうな女生徒の婚約者が魔法科の生徒であれば、簡単に蹴落とせると考えるライバルも現れるだろう。そこまで推測したところで、教師はふと疑問に気付いた。
「ん? いや待ちたまえ。誰が、誰に嫌がらせをしてつらいと君は言ったのかな?」
「婚約者が、私と私の周囲に嫌がらせをしてつらいんです!」
なぜ一回で伝わらないのかと、弱々しい態度だったアイラは語気を強める。
「先生、私の噂を聞いたことがありますか?」
「非常に運が悪いと聞いている」
「それは全部婚約者のしわざです。……先生は、魔法科のとってもとっても優秀で家柄も良くて顔もいい生徒と、こんな平凡顔の貧乏貴族の娘が婚約しているなんて、信じてくれますか?」
婚約者とやらの評価が異常に高いことを嘘くさいと思いながらも、話が進まないと面倒なのでとりあえず頷いた。
「だったら、その彼がペットのカラスに私のことを監視させていたり、いやがらせに空から鳥のアレを落としてくることや、さわやかな笑顔の裏に、とんでもなく黒い物を腹に飼っていることなんかも信じてくれますか?」
「信じるさ。魔法使いとはそういうものだ」
彼女の言う通り、魔法使いは意中の相手にすぐ固執して、安易に魔法を使ってしまう。
「半径一メートル以内に男子生徒が近づくと、もれなく空から落とし物が落ちてくるんです」
「それが、不運の正体か……」
「男の人は別にいいんです。もう私に近づいてくるひとはいないから。でも最近は女生徒にまで避けられている気がして……。仲良くしてくれるお友達は、今では寮で同室のたった一人。みんな半径一メートルの法則を体で感じ取っているみたいで、机も……こっそり離されてるんです」
「気の毒に……」
だが、実にくだらない。くだらなすぎて、そんなことをする愚かな男子生徒が誰なのか、教師は知りたくなった。しかし詮索は良くない。ここは相談役としての任務を全うしなければならなかった。
「君にできる助言はひとつだ。婚約者と正面から向き合ってみなさい。弱気になってはいけない」
「……………………ですねっ!」
わざとらしい鈍い反応のあとに、女生徒はにっこりとほほ笑む。
(あ、こいつ今心の中で舌打ちしやがったな。こんなクソ役に立たねぇ助言いらねーって)
真っ当で前向きな助言ができたという、教師の根拠のない自信はみごとに打ち砕かれた。
溜め息を外に向かって吐き出すように、何気なく窓の外を見ると、いささか様子がおかしいことに気付く。
「ところで、今日は嵐の予報だったかな?」
さっきまでは晴天だった。それがいつの間にか雨が降り出している。そしてどんどんと黒雲が立ち込め、落雷も発生しはじめた。
「……きっと彼の仕業です。先生、貴重なお時間をありがとうございました。……行かねばっ!!」
焦った様子で消えた女生徒を黙って見送ったが、教師はひとつ気になることがあった。
彼女が言った婚約者の特徴。優秀で家柄の良い魔法科の生徒は幾人かいるが、生徒会……あの生徒会長の目を盗んでしでかすことができる人物が思い浮かばない。
唯一可能な人間といえば、その生徒会長、銀髪の貴公子レニー・コルドウェル本人ということにはならないだろうか。
「まさかな……」
轟く雷鳴を聞きながら、はたして百年に一度と言われる才能の持ち主の伴侶が、あの頼りない女生徒で大丈夫なのだろうかと不安になった教師だった。
§
無我夢中でアイラは走る。意味もなく走る。
行き先は分からない。わからなくても問題ない。
「やぁ、アイラ何処へ行っていたんだい?」
なぜならアイラが彼を探している時も探していない時も、会いたくない時も、必要があれば彼は自分からやって来るから。
今も予想通り、稲光に合わせてアイラがまばたきをした瞬間に、彼が姿を現した。次代を担う天才魔法使いにして、アイラの婚約者レニー・コルドウェルが。
「相談室で、進路の相談をしていたのよ」
後ろめたい気持ちを隠して、おどおどとアイラが口を開けば、レニーは首を傾げて銀色の髪をさらりと揺らす。
「おかしいな? 君の進路は決っているのに」
じっと紫水晶のような瞳で見つめられると、すべて見透かされているような気持ちになる。一見、笑っているように見えるが、たぶん怒っている。
アイラが彼以外の魔法の干渉を受けたことに気付いたのだろう。
「そ、それより、雨を降らせるのやめてほしい」
「いやだなぁ、自然現象だよ。あ、ほら見て虹だ」
レニーが指を示した方角を見ると、さっきまで降っていた滝のような雨はすっかりやみ、雲の切れ間から差し込む陽の光が、七色のアーチを描きはじめていた。
「わーすごい! じゃなくて、学校で話しかけたらダメって約束したじゃない」
「酷いな……あれもダメ。これもダメ。僕はいつでも君との関係を自慢したいのに」
そんなことされたら、女生徒に私刑にされるとアイラは焦った。いや、それはまだいい。問題はその後だ。レニーの制裁で血の雨が降って学園が混沌の世界になること間違いなし。
実際、昔似たような事件がおきたのだ。
「とにかく、学校で話しかけたらダメ!」
「だったら週末にはちゃんと家に帰って来るんだよ」
彼の言う「家」とは田舎にあるアイラの実家のことではなく、レニーのコルドウェル家を指している。訪問が当たり前ではないのに、まるで義務のような言い方には納得できないが、そこで拒否しようものならレニーが怒るので、逆らったりはできない。
「わかった。約束するから、もう行くね!!」
話を切り上げて強引にレニーと別れたアイラは、周囲に誰もいなかったことを確認し、逃げるようにその場を立ち去った。
二人で一緒にいるところを誰かに見られたら大変だ。以前の事件も、レニーと仲良くしていたから起きてしまった。
あれはまだアイラが六歳の時。教育制度が整ったこの国では、貴族も庶民もみな六歳になると学校へ通う。その入学式の日に突然、銀髪の少年に呼び止められたことが、すべてのはじまりだった。
「きみ、名前は?」
「アイラだよ。アイラ・ヘネカー」
「アイラ……可愛い名前だね。姓には興味ないや。だっていずれコルドウェルを名のるのだから。クラスは……おばか組なんだね、そんなところもかわいい。僕にぴったりだ」
学力順でクラスを分けるという残酷仕様で、アイラは一番成績の悪いクラスだった。だからだろうか、この突然現れた少年が何を言っているのか、あまり理解できなかった。
「僕はレニー。レニー・コルドウェル。今日から僕もアイラのクラスに行くから」
制服のえりに付けられたクラスカラーの目印は青。アイラとは違う優等生クラスの生徒だった。
そういえば父と母はよく「勉強だけがすべてじゃない。生きていくうえで必要なことは他にもたくさんある」とアイラに言っていたが……そうか、勉強だけしていると、このように普段のことがままならない人間になるのかと、アイラは子供ながらに納得した。
それからというもの、銀髪の少年レニーは大人の言うことも聞かずに、アイラのクラスに……そして強引に隣の席に居座った。
「レニー君は自分のクラスにもどりましょう」
「いえ、大丈夫です。お構いなく」
「いや、そうではなくてね……」
教師に注意されてもレニーはちっとも聞かなかった。
「大丈夫です。勉強はちゃんとしてますから」
完璧な天使の笑みで断言されると、なぜか教師も引き下がってしまう。この頃は名門コルドウェル家の威力というものを、アイラも周囲の子供達もよくわかっていなかった。ただ、レニー君はなんだかすごい、そう思っていた。
当時からレニーは目立つ存在で、珍しい銀の髪と紫の宝石のような瞳を持つきれいな王子様だった。当然おませな女の子達は、彼に夢中になった。人気者のレニーに特別扱いされる平凡なアイラが、他の子のやっかみをうけるのも、無理のないことで……
「なんで、レニー君をひとりじめするのよ!!」
少しどつかれただけだった。ただ、あまりに場所が悪かった。アイラは階段から転げ落ちてしまったのだ。
当時、周囲の大人達はレニーの魔法の才能に気付いていたものの、害をなす危険なものだとはあまり認識していなかったらしい。
だが階段の下に倒れていたアイラを発見した瞬間に、隠れていた膨大な力が暴発した。
学舎の屋根が吹き飛び、アイラを突き飛ばした少女が立っていた木製の階段は崩れ落ちた。生徒たちは泣き叫び、奇跡的に軽症だったがけが人も出た。
事件後、アイラは避難することになった。……レニーという存在から。
家族で田舎に引っ越したアイラだったが、レニーは時々、近所に遊びに来たかのようにふらりとやってきて、アイラの両親を困らせた。
アイラはレニーと二人で過ごすのは好きだった。でも誰か他人が絡むとレニーは悪いことに魔法を使う。また人を傷つけてしまうかもしれないと考えると、怖くもあった。
十五歳まで田舎で過ごしたアイラは、コルドウェル家の権力により強引にレニーの婚約者にされて、王都の学園に入学することになった。
なぜ、不釣り合いなアイラにレニーがこれほど執着するのかわからないが、田舎の貧乏貴族が名門貴族に逆らうことはできない。
アイラは現在、学園の寮で暮らしている。
寮は二人部屋になっていて、同室のメグ・リヴェットとはとても良好な関係だ。
頭が良くて勉強が好きなメグは、授業の後に図書室に行くことが日課なので、たいていアイラのほうが先に部屋に戻る。
この日も自室にメグの姿は見当たらず、アイラは二段ベッドの下の、自分の枕元に置かれた灰色の猫のぬいぐるみに向かって「ただいま」を言った。
「きょうも寂しかった? シルヴァ」
ふかふかとした柔らかい灰色の毛並みの、二足歩行できそうな姿をした猫の人形を手に取ると、頬ずりをしてみる。その人形はシルヴァという名を持つ、子供の頃から手放せない宝物だ。
一人の時に話しかけたり抱きしめるのをやめられないアイラだが、今日はごそごそという物音に気付き、はっと動きを止めた。
「……アイラ、あなたもう十七歳なんだから、人形に話しかけるのやめなよ」
あきれたように声をかけられアイラが振り返ると、二段ベッドの上で寝ていたらしいルームメイトのメグが、眠たそうにあくびをしながら起き上がってきた。
「メグ! 先に帰ってきてたの?」
「午後からお腹が痛くなってね。もう大丈夫だけど」
「ならよかった」
アイラは恥ずかしい現場など目撃されていないような態度で、そっと人形をベッドの上に戻した。メグもあえてそれ以上からかったりはしない。
「アイラこそ、今日は少し遅かったのね?」
「うん。さっそく相談室に行ったの……」
メグにはアイラの事情を話してある。
気ままに魔法を使って自分の存在を主張してくるレニーの被害に、いつ彼女が巻き込まれてしまうかわからないから。
不運体質と噂されても、距離を置かないでくれた唯一の友達だが、最上級生になってクラスが別れてしまったため、アイラは今、教室でとても孤独だった。
それをメグに相談すると、魔法使いの悩みは魔法使いに聞いたらどうかと、相談室行きを提案されたのだ。
「いい解決方法は見つかった?」
「いいえ、全く」
「そっかぁ。まぁ、私がいるからいいじゃない」
確かに、メグがいるからランチはひとりぼっちではない。メグの存在と、彼女の楽観的な物言いはアイラにとって救いだった。
ベッドから降りてきたメグと、お茶の時間にしようと決めてクッキーの瓶を開けようとしていたが、部屋の外から甲高い叫び声を聞き取って、その手を止めた。
「今なんか、悲鳴聞こえた??」
メグにも聞こえたらしく、二人は顔を見合わせて頷き合う。確認のために共有の廊下に顔を出すと、他の寮生もつぎつぎに様子を伺う。
騒がしいのは、どうやら廊下の突き当りの一番奥の部屋のようだ。
「ローザと、メアリの部屋よ。行ってみよう」
メグが先頭、次にアイラ、わざと距離を広げて他の寮生が続く。奥の部屋まで辿り着くと、やはり中から揉め事のような。穏やかではない声が聞こえてくる。
「ないわ! どういうこと? 泥棒? 泥棒が入ったの??」
叫んでいるのはローザだった。アイラと同じ最上級生のローザとメアリは貴族の娘で、メアリは今年の寮長も任されている。
しかし二人とも気位が高いので、何かあった時のまとめ役はメグの方が適任だった。
「一体どうしたの?」
そのメグがすすんで扉を開け、冷静に問いかけた。
「私の大切なブローチがないのよ!!」
ローザは手に持っていた小さな箱を開けてみせる。どうやら宝石箱のようだが、中に入っているのは学生らしく華美ではない髪飾りだけで、高価なものは入ってはいなかった。
「ここにブローチがあったはずなの! 皆もみたことあるでしょう? 私のお気に入りだったのに」
「ばらのブローチ?」
寮生の一人が訪ねると、ローザが深く頷いた。
それにはアイラも見覚えがあった。休日、彼女が出かけたり家に帰る時に着るワンピースやブラウスの胸元を飾っていた、カメオのブローチのことだろう。
「今朝、髪留めを取り出した時はあったのよ。それで今、またそれを戻そうとしたら、ブローチがなくなっているじゃない」
「それじゃ、皆がいない間に誰かが入り込んだってこと?」
その場にいた者達が動揺しながら顔を見合わせる。するとメアリが険しく目をつり上げて言い出した。
「もう一つ可能性があるんじゃないかしら? メグ、あなたよ。今日の午後一人で先に帰って来たでしょう。誰もいない寮で何をしてたのかしら?」
この嫌な疑いには、アイラも黙っていられない。メグより前にでて、メアリと正面から対峙した。
「ちょっと待って。メグが盗ったとでも言うの? 部屋には鍵もかかっていたでしょう?」
「寮監室にマスターキーが保管されてるはずよ。それをうまく持ち出せば……」
普段から、メアリ達は優等生のメグのことが気に入らない様子だった。だからといって、こんな暴論が許されるわけがない。
「私は体調が悪くて、部屋で寝ていただけよ」
メグはなかば呆れがちに言う。その余裕のある態度が、メアリ達をかえって刺激してしまった。
「だったら、部屋の中を探させてもらっていいかしら?」
ローザが言い出すと、少し距離を置いて見守っていた寮生たちも息を飲んでメグの反応を待つ。
「いやよ。人に部屋をあさられるなんて」
「潔白なら、問題ないでしょう。それとも後ろめたいことでもあるの?」
アイラは他の寮生たちが止めてくれることを期待した。誰かの部屋の検分が一度許されたら、今度いつ自分が同じような目にあうかわからない。それなのに、彼女達もどこかで疑いを持っているのか、誰も声を上げてはくれなかった。
「わかったわ。お好きにどうぞ……」
メグはあきらめたように吐き出したが、アイラはこんな理不尽に納得できなかった。
「ちょっと待って!! そんなのおかしいよっ」
連れだって、皆が部屋を移動しようとするその背中に向かって、アイラが強く叫んだその時だった。
廊下がぐにゃりと歪んで、建物がガタガタと軋み音をたてはじめる。
「地震??」
立っていられないほどの揺れに、皆がその場に座り込んで怯える。
これは地震ではない。アイラにはすぐにわかった。なぜなら、アイラと隣にいるメグだけは普通に立つことができたから。二人の足元だけ床が揺れていない。
メアリもその不自然さに気付いたようで、身をかばいながらもキッとアイラを睨みつけてきた。
「ちょっと!! アイラ、これはあなたの仕業??」
そんなわけない。そう主張したかったが、そうとも言い切れない心当たりがあるのが辛いところだ。
「あー、きっとこれはね、伝説の寮の亡霊の仕業よ……友人を貶めたり、勝手なことをしようとすると現れるという……恐怖の寮監の亡霊」
「いきなり何言ってるのよっ!!」
まるでアイラの適当な作り話に合わせるように、まだ陽が落ちていない時間の建物の中が暗くなり、いくつかの青い光の球体が近づいてくる。その光はひとつの塊になって、おぼろげな人の姿をとりはじめた。寮監の亡霊のつもりらしい。
「キャァー! キャァー! キャァー!!」
大きな悲鳴を上げる者、泣き出す者、一目散に逃げていく者。寮は恐慌状態に陥り、もう犯人捜しどころではなくなった。
アイラとメグは嵐のような怪奇現象が去っていくと、逃げそびれ放心している他の生徒達を置いてさっさと部屋に引き上げた。
「さっきのは、あなたの婚約者のしわざかしら?」
「うん、多分……」
アイラの話にあわせて、都合よく幽霊らしき物体を出せる人物が他に思い当たらない。
「つまり、ずっとアイラを監視してるってこと?」
「う、うん……そうなるのかな……」
「ローザやメアリよりよほど質が悪い気がしないでもないけど、実際スカッとしたから、お礼を言っとくわ……今回は」
その晩、いつものように猫の人形、シルヴァを抱きしめたアイラは、レニーのことをちょっとだけ頼もしい魔法使いだと見直して、頬をゆるめながら眠りについた。
ただし、レニーへの好感度の上昇は、メグへの嫌疑よりもアイラへの恐怖心を増幅させた寮生達に、怯えた目で避けられる現実を突きつけられた翌朝までの、ごく短い期間で終わった。
§
数日後の休日。レニーとの約束通り、アイラはコルドウェル家を訪問した。
「こんにちは。おじゃまいたします。本日はお招きありがとうございます」
コルドウェル家はとにかく大きな屋敷で、一歩踏み入れるだけでその豪華さに、アイラは落ち着かない気分になる。
出迎えてくれる使用人にペコペコと頭を下げながら進んで行くと、待ち構えていたレニーに、さっそく注意を受けた。
「やり直し。ただいま、でしょうアイラ」
「うっ……でもここは私の家ではなくて……」
「あと一年もしないうちに、君の家になる。驚かせたくて黙っていたんだけど、今日は大事な用があるんだ」
嫌な予感しかないが、有無を言わせないレニーに案内されるがまま、アイラはとある部屋までやってきた。
(げっ……)
そうして目に入ってきた光景に、心の中で上品とは言えない声にならない声を上げる。
広くて明るい室内には、たくさんのトルソーと、仮縫いでとまっているドレスが並ぶ。まだ縫われていない上質なシルクの布地、レースの見本。そして今か、今かと待ち構えていたらしいレニーの母親と、揃いのお仕着せを着たお針子らしき女性達。
「これは……」
「花嫁衣裳をそろそろ決めないとね」
どんどん退路を断たれている。婚約だって、アイラの意思とは無関係に決められた。
まだ身内だけの取り決めだから、猶予はあると考えていたけれど……甘かった。
アイラは決してレニーのことが嫌いではない。ただ、時折暴走する思考と魔法の力が恐ろしくもある。
「アイラ……どうしたの?」
つい固まってしまったアイラに、レニーが心配そうに声をかけてくる。
でも、言い出せない。考える時間をちょうだいなんてとても言えない。こんな準備万全の状態でそんなことを言ったら、怪奇現象ではすまないことが、きっとおきてしまう。
窓の外の木の枝には、レニーのペットのカラスがちょこんととまっている。目が合うとカラスが鳴いた。まるですべてを理解していてアイラを笑っているようだ。
「なんでもない……」
この日のささやかな抵抗は、ドレスのデザインに迷って決めかねるという時間稼ぎに留まった。が、そのせいで着せ替え人形のように何度も着替えるはめになり、とんでもなく体力と精神を疲弊させることになる。
ぐったりと疲れたアイラの前に、コルドウェル家特製のチェリーパイが置かれた。
ドレスの試着から解放されたアイラは、テラスに用意された席で、レニーと一緒にお茶を飲む。
「そういえばアイラ、僕に何かお願いがあるんじゃないか?」
突然、何か期待するように、レニーが言い出す。
「……特にないわ」
アイラが、困っていることの原因はだいたいレニーにあるが、それはどうせ言っても聞き入れてはくれない。
あっさりと流すと、レニーはおやっと不思議そうな顔を浮かべる。
「たとえば……この前の女子寮の失せ物事件とか、ね」
「その件については、お礼をいうべきか苦情を言うべきか、まだ迷ってるの」
アイラは今、不運体質ではなく、呪い体質と陰で囁かれるようになってしまった。それに以前から行動を監視されていることを察してはいたが、アイラの言動に細かく反応できるほど筒抜けだと思うと、後からじわじわとくるものがある。
「お礼はキスで、いつでも受け付けるよ。ついでに君が願うなら、犯人探しも協力する」
「そんなことできるの!」
「僕にできないことがあるとでも?」
その満ち溢れる自信の正体は一体どこからくるのか知りたいが、一度は疑われてしまったメグの潔白を証明したい。……けれど、
「犯人捜しは、お礼が必要?」
「僕は大切なアイラに、何かを強要したことがある?」
まるで自発的なお礼が必然と言われているようで、アイラはぐぅと唸って頭を抱えた。
§
コルドウェル家を後にしたアイラは、寮の部屋に戻り、すぐにその異変に気付いた。
「いない……。いない。うそ……!!」
アイラの大切な猫の人形、シルヴァが枕元から消えている。
メグがまだ戻っていなかったので、仕方なく寮長のメアリのところに行き、話をしてみた。
「猫の人形は、誰も盗まないわよ……きっと自分で歩いてどこかへ行ってしまったんじゃない? それかゴミに間違えられたとか」
メアリはどうでもいいように、無責任なことを言う。でも本当に捨てられていたらと思うと、確認せずにはいられなくなった。
「ちょっと、ゴミあさってくる」
寮内のゴミ捨て場には何もなかったので、外にある学園内共有の焼却炉まで足を延ばした。
休日の今日、燃やされた形跡がないことに少しほっとするが、念のため灰を掘って紛れ込んでいないか確認もした。
メアリの言う通り、猫の人形なんて盗んでも意味がない。ローザのブローチとは違う。
もし捨てられたのだとしたら、それは嫌がらせということかもしれない。避けられているだけでなくて、誰かに嫌われているのだとしたら?
つい先日、なんの確証もないのにメグを疑った寮生達を腹立たしく感じていたアイラだが、今度はその自分が誰かを疑っている。とても醜い気持ちだ。
自分で自分のことが嫌になり、くやしさでじわっと涙が出てくる。
辺りはすっかり暗くなっていて、空には満ちた月が光っていた。その月と姿を重ねる一羽のカラスを見つけた時に、たまらなくなって震える声を絞り出した。
「レニー、助けて……」
風が通り過ぎる。アイラの視界から月が消え、暗闇に包まれた。
「泣かないで、アイラ。泣く必要はない。大丈夫だから」
闇を作り出したのは、どこからか舞い降りてきたレニーの影だ。アイラは思わず駆け寄ると、つい自分から彼に抱きついた。
「シルヴァがどこにもいないの」
「うん、わかってる。探しに行こう」
レニーはまるで居場所を知っているかのように、アイラの手を引いて歩き出した。
女子寮からは遠ざかり、学舎の奥にある雑木林の方角に向かっている。
「どこへ行くの?」
「シルヴァを探すんでしょう?」
「どうしてわかるの?」
「僕は君の魔法使いだよ」
まるでアイラ自身が魔法にかかったようだ。「だって、彼はレニー・コルドウェルだから」なんでも知っているし、なんでもできる。任せておけば大丈夫。今夜はなぜか素直にそう思えた。
やがて二人が辿り着いたのは、林のなかの小さな小屋だった。なにかの用具入れにでも使っているのだろうか。
窓はないが、たてつけの悪い木製の引き戸から灯りが漏れていて、中に人がいるのだとわかった。
アイラとレニーは扉の隙間から、そっと中を覗いた。
「オークション番号二十四番、ローザ・アボットのカメオブローチ」
小さな小屋の中に、幾人のも男がいた。ほとんどが男子寮で生活している、学園の男子生徒だった。
「レニー、これって……」
「最近噂には流れていたんだ。こういうくだらないオークションが開かれているって」
「なんで男の人がブローチを欲しがるの?」
中から聞こえてくる声から推測すると、どうやら手に入れたがっているのはローザのことが好きな男子生徒のようだ。
「好きな女の子の持ち物を隠し持っていたいってことかしら?」
「…………」
もしそれが理由なら、幼稚すぎではないだろうかとも思えるが、レニーはこの疑問に答える気がないようで、わざとらしく話を変えてきた。
「女子寮は実は地下室から繋がる秘密の通路があるらしい。おそらく男子寮も同じ構造になっていて、簡単に侵入できたんだ」
「でも、部屋には鍵がかかっていたのよ」
「アイラ、寮の部屋の鍵は気休め程度に付けられているだけだ。あんなもの素人でも開錠できる」
窃盗が女子寮の内部で起きたことではなくてよかったが、犯人が同じ学園の生徒だったことにはショックだった。
「ねぇ、レニー。どうやってシルヴァを取り戻せばいい? できればローザのカメオも……盗まれたものは取り返してあげたいんだけど」
レニーが不敵に笑った。普段なら恐怖を覚えるその笑みも、今日は頼もしく思える。
ちょうど小屋の中に置かれた台には、アイラの持ち物……シルヴァが登場した。
「オークション番号二十五番。アイラ・ヘネカーの呪いの人形」
呪いの人形などと評されてしまい、一刻も早く取り戻したくなったアイラは勢いで飛び出そうとするが、その前にレニーに制止される。
「アイラのものを欲しがる不届き者がいるかどうか、興味があるから少し待って」
「薄汚い人形だな」
「本当に呪われそうだ。不幸になるぞ」
「誰も落札しないだろう」
男子生徒たちは次々にヤジを飛ばし、シルヴァは床に投げ捨てられた。
「酷い……」
またじわりと涙がこぼれそうになる。だが、そのシルヴァを拾い上げる生徒が一人だけいた。
「僕がもらおうかな?」
知らない生徒だったが、なぜか救われた気分になる。もちろんシルヴァをあげるわけではないが。
アイラがほっとした横で、なぜかレニーが大きく舌打ちをした。
「……やっぱり、お礼は先払いでもらっておく」
頬に柔らかい何かがあたる。それはレニーの唇がアイラに触れた瞬間だった。
そして彼は、何事もなかったように立ち上がり、ドアをけ破った。
「僕の婚約者を泣かせた責任はとってもらうよ」
レニーからの突然のキスに放心していたアイラは、この時彼が、言う必要のない余計な主張を、どさくさに紛れてしてしまっていることに、全く気付いていなかった。
翌朝、複数の男子生徒が、肥溜めの中に作られた魔法の檻の中から発見された。
§
男子生徒の闇オークション現場をレニーが取り押さえたことで、彼は益々注目されることになった。
あのオークションで競り落とした品物は、魔法で加工をして元の持ち主に戻される予定だったらしい。どんな魔法がかけられるのか、想像してゾッとしたアイラはあまり詳しく知りたいと思わなかった。
このまま平穏を取り戻すかに見えた数日後、異変は急に訪れた。
いつも通り寮を出るところまでは普通だった。でも学舎の方に向かっていくと、アイラをちらちらと見ながら内緒話をしている人を多くみかけた。かろうじて聞き取れたのが「婚約者」という言葉だったので、非常にまずい事態に陥ったことがわかった。
オークションに参加した男子生徒は、ひとまず謹慎処分になっているが、中には彼らと直接話をした生徒がいたのだろう。
レニー・コルドウェルがアイラ・ヘネカーと婚約しているのではないかという噂が、いつの間にか広がっていたのだ。
「それで、隠れてお昼食べるの? 堂々としていればいいじゃない」
こそこそと逃げるように、学舎の裏でパンを食べているアイラに、メグはあきれていた。
「私の予想が正しければ……、うっかりするととてもランチできる状況じゃなくなるのよ」
今日も、外に出ればアイラの視界に黒いカラスが入る。付き合いの長いカラスだ。警戒態勢に入っていることくらいわかる。
しかしずっと隠れているわけにもいかず、午後の授業が始まる前に教室に戻ろうとしたアイラに、懸念通り声をかけてくる人がいた。
「アイラさん? ちょっといいかしら??」
とても友好的とは思えない彼女たちの態度に、一歩後退る。
「だめ、近づかないで!!」
「お話が聞きたいだけよ。ちょっと失礼じゃない?」
迫る女生徒の上を、カラスが旋回しはじめる。これは非常にまずい。
アイラは慌てて走り出した。もう上を見ている余裕はない。しらない女生徒と、カラスからとにかく逃げたかった。
「あっ……」
ふいにアイラに聞こえてきたのは、一緒に逃げてくれたメグの不自然な呟きだった。
振り向くと、メグの制服の袖に、なにか許しがたい物体が付着していた。
(許さないぃぃぃ……私の友達に!!)
アイラの中で何かが切れた瞬間だった。
「レニー!! 出てきなさいっ。今すぐに!!」
大声で怒鳴ると、すぐにレニーが釈明に現れた。
「違う、僕じゃない……本当に!!」
「知ってるわ、あなたじゃなくて、あなたのペットの仕業でしょう」
「だから違うんだ。今のは僕のカラスじゃなくて! 通りすがりの別の鳥だったんだ」
「そんな都合のいい偶然あるわけないでしょう。私の……私の友達によくも。もうレニーとは絶交だから」
「絶交?」
「婚約なんか、絶対破棄!!」
すがるレニーをきっぱりと拒絶して、アイラはメグを連れて立ち去った。
§
雨季のように雨が降り続いている。荒れ狂うわけでもなく、しとしとと、悲し気に。
長雨の原因が何であるか教師たちもわかっていて、アイラに「許してやれよ」とでも言いたげな複雑な顔を向けてくる。
しかしレニーは、いくら才能があると言っても十七歳の未熟な魔法使いのはずで、そもそも今までが自由にさせすぎだったのだ。もっと大人がしっかりしてくれないと困る。アイラは強く訴えたい。
雨はごく局地的なもので、農作物に影響はなさそうなのでアイラは構わずレニーを無視し続けた。
丸一週間雨が続き、女子寮の生徒たちから洗濯物が乾かないという苦情を受けた時はさすがに申し訳ないと思った。
ついこの前まで呪い体質と言われ、彼女達から避けられていたアイラだったが、最近は「あのレニー・コルドウェルより強い女性」となぜか一目置かれる存在に昇格していた。
「私は怒ってないから、許してあげたら?」
鳥の落としものを食らった被害者のメグにも、仲直りをすすめられて、悩んでいたその晩。
ごそごそという物音に、眠っていたアイラは目を覚ました。
はじめは、また泥棒かと思った。レニーが言うには鍵など簡単に開けられるらしいから。
音がするのは机のあたりからで、アイラは防犯のためにこっそり隠し持っていた木の棒を手に持ち、足音をたてないように近づいた。
月明りでかすかに見える光景は非常に奇妙なものだった。
そこにいたのは泥棒ではなく、猫の人形のシルヴァだ。まるで人間のように椅子に座り、小さな前足を二本使ってペンを持ち、カリカリと音を立てながら懸命に紙に何かを書きつけている。
「――何をしてるの??」
思わず声をかけてしまった。すると途端に、シルヴァはペンを放棄しくったりと倒れる。
拾い上げると、さっきまで動いていたとは思えない、意志を持たないただの人形に戻っていた。
「アイラ? どうかした??」
「シルヴァが、動いてたの……」
「え、どういうこと?」
メグはベッドから降りると、手際よくランプを灯してくれる。
少し明るくなった室内、その机の上には、寝る前にはなかったはずの手紙が無造作に置いてあった。
愛するアイラへ
僕はやってない 潔白だ
信じてほしい
僕は君がいないとおかしくなってしまう
君に冷たくされたら
悲しみで世界を滅ぼしてしまうかもしれない
お願いだから話を聞いて
会いたくて死んでしまう
この星が滅亡する前に
週末家に帰って来てください
レニー・コルド……
手紙は最後の署名の途中で終わっている。インクはまだしっかりと乾いていない。
「何この脅迫みたいなラブレター。……この猫の中にアイラの婚約者がいるってこと??」
「ほんとなの? シルヴァ……? レニー?? どっちなの」
シルヴァは何の反応もしない。
でも、さっきは確かに机の上に向かってペンを手にしていた。見間違いのはずがない。レニーのすることだから、なんだってありだろう。
「えっ、でもそれって、いつから??」
今までは、てっきりレニーはカラスを通して自分のことを見ているのだと思っていた。
でももしシルヴァの中にレニーが入りこめるのならば、寮の中でアイラの言葉に応えるように起こした怪奇現象や、盗まれた時になぜあっさりあの場所に辿り着けたのか、納得がいく。
彼がすべてを見ていたのだとしたら?
「まさか、私が寝てるときとか、着替えている時とかも??」
疑惑が膨れ上がり、シルヴァに問いかけても、相変わらずの無反応だ。
「焼き払っちゃえば?」
しれっとメグが言うと、途端に尻尾がぴんと動いた。
「物騒な!! これは僕の髪を材料にして作った最高傑作なんだ。ここまで簡単に形代に入り込めるなんて、代替えはそうそう……」
やっぱりレニーだった。間違いなくレニーの声で、シルヴァがしゃべっている。
「雨が止む方法思いついたわ」
アイラは、さっき手にしていた木の棒をもう一度手にする。そして、ロープを取り出してシルヴァの胴をぐるぐると巻き、棒に括りつけて垂らした。
「それはだめだ。ほんとに」
躊躇なく棒を窓の外に出して、雨の降りしきる中にシルヴァを晒すと、濡れて重くなっていくシルヴァの身体に耐えられなかったレニーは、五分もたたずに雨をやませた。
§
――ここは学園の相談室。
「先生。婚約者がつれなくて……横暴でつらいんです」
つい先日も似たような相談を受けた。その時の相談者は普通科の女生徒で、今度は魔法科の男子生徒だ。彼らの最近のゴタゴタについては、学園のものなら誰でも知っているから、資料は必要なかった。
「そもそも入学するときに、秘密にしておかなきゃ泣くとか言われ……。僕なりに彼女を陰から守ってきたのです。なのにこの前は無実の罪で、ついに切り札の『婚約破棄』が飛び出しました……。僕を狂わせる気でしょうか?」
「いや、でもね、前科があるから疑われるわけで」
「彼女はわかってないんです。自分は冴えない、モテないって言ってるけど、プライドが山より高い薔薇の花より、手なずけやすそうな雑草を手折るのが好きな男も、僕以外に一定数いるということを」
それはさすがに失礼だと思ったが、そもそも目の前の若造は、大きな思い違いをしていると教師は気付いた。
「ああ、私も魔法使いのはしくれだから、わかるけどね。君に助言できることは一つ」
コホンと、わざとらしく咳払いをして続けた。
「あきらめて尻に敷かれなさい。それが魔法使いの宿命だ。伴侶に対して優位にたとうとするのは無駄な足掻き。足にすがりついているくらいがちょうどいい」
魔法使いは自分勝手で執着心が強い。力のある魔法使いほどその傾向にある。身勝手さが暴走し簡単に世界征服でもしてしまいそうだが、それをしないのはひとえに愛する人の為。否、愛してしまった人に嫌われるのが怖いからなのだ。
そして魔法使いが執着する相手は、やたら生命力と正義感が強い。アイラは大人しそうで弱々しい様子だったので不思議に思っていたが、普段は表に出さなくても切れると爆発するタイプだったようだ。
(ああ、そう言えば私の妻もそうだったかも……)
可憐なすみれのようだった愛妻も、今は……。教師はやらかしてしまった時の妻の怒りを思い出し背筋を凍らせた。「愛されている」という絶対の自信は女性を美しく、そして強くする、必要以上に。
今こそ、この目の前の才能豊かで、クソ生意気な若造に、同じ魔法使いの……いや人生の先輩として教えてやろう。
「魔法使いは、皆もれなく恐妻家なんだ」
それが世の理。こうして今日も世界の平和は保たれている。