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リバーサルストーリー  作者: まーれ
5/6

招かれざる客

「はむっ…」

「そんな声を出さなくても…」


 アニメの女の子が食べ物を食べる時に出す声をしたレイナに、俺は少し困惑していた。

 あれはアニメだから良いものの、現実は相当違和感に感じる。けど、レイナの場合はそれはそれで可愛いから俺は許した。


「すまない凪殿。私は効果音をつい声にしてしまうのだ」


 レイナは俺の食う予定の、オレンジパフェを堪能していた。次々と口に運ぶ姿に楓は「もうちょっとゆっくり食べなさいよ」と注意を促すが、全くペースを緩める気配はない。


「さて、あの重力を扱う人間と、存在感を操るインビシブル人間をどう攻略するか…今から議論したいと思うのだが」

「レイナ、右側の唇に生クリームが付いてる」


 そう言うと楓はポケットから小さい鏡を取りだし、レイナの顔の前に差し出した。


「むっ…」


 テーブルにあった紙を使わず自らの舌で口元のについていた生クリームを舐めた。

 潔癖症の人ならドン引きするかもしれないのし、なにより初対面の人にやってはいけない。


「…すまない。話を逸らしてしまった。では、あいつらを攻略するためにはどうすればいいか…」


 ミステリアスな口調とは裏腹な行動に、俺はその独特なペースに付いていけそうになかった。

 何より突っ込んだら負けなような気がするから。


「うーん…ジョーカー・キルバの存在感薄いなら楓も負けてないんだけどねー」


 とそこに触れてれはいけない地雷のような自虐を言うが、シルバーアクセとオレンジ色に髪を染めて派手に見せようとして存在感ないのは異常なように思える。しかし、そんな事を言ってしまうと、レイナに見せたあの脅迫が俺に来ること一瞬で連想し口が塞がった。


「その装飾と髪の色で目立たないわけがないとおも——」

「え?」

「わぬ!」


 女心って分からない。楓だけかもしれないが、自ら自虐を言ったのに、言われるとキレるという矛盾が分からない。それにしても、思ってしまったことをつい言ってしまうレイナの癖は楓と相性が悪そうだ。

 

「方凪も同じこと思ってたでしょ?」


 意表を突いた牽制に俺は動揺してしまった。


「お…思ってないよ。むしろ存在感の薄い美少女って…ミステリアスな美少女って感じでいいじゃん」


 勿論嘘。その場しのぎの嘘。楓は獲物を狙い済ました蛇のような鋭い眼光でじっと見つめた。


「…分かった」


 その言葉を聞いた瞬間、肩の荷が降りたが「はぁ…」という声は出さないよう我慢した。嘘だと言うことがバレるから。


「じゃあ…レイナちゃーん」


 楓は白い肌をした手を差し出した。

 見た感じ血管が縮小してるから、極寒の真冬に素肌のまま晒した手の温度になってるだろう。

 淹れたての熱いコーヒーを数秒で冷たくするのだから、どんなに冷たいのだろうか。

 それをあの手で触られると考えたら、俺の後頭部から脊髄にかけて寒気がした。


「ひぃぃ…どうかお許しを…」


 本当にレイナは怯えている。

 口は災いの元とはよく言ったもの。今まさに災いが起こる寸前だ。

 それにしてもレイナは『お助けを…』と言いそうな視線を俺に送って来た。


(なんで俺…?)


 楓ともほぼ初対面の俺に無茶なお願いをされたのは半ば嫌気が指すが、楓のあの行動はおかしい思ったのが正直だった。


「楓。恐怖で人を支配してるのはあいつらのやってることと同じだ」

「う…それもそうわね。じゃあ、話を続けましょ」


 正直怖かった。何かを言い返して実力行使してくると思ったが、潔く反省してくれた。


 ※


「んで、あいつらと戦うには…って俺、戦うの無理なんだけど…」


 魔法が使えるわけないし、この目で見たことはないにしても身体能力は楓やレイナに及ばないだろう。

 正直言って、なぜ俺が協力者になったのかが未だに釈然としない。

 他の誰が遠征ここに来て、誰も知らない間にあの2人を逮捕かその場で処刑してほしかった。他力本願なのはしょうがないが、何より死にたくないし、この世界を恐怖に陥れないでほしい。


「そこなんだよね。正直言って、あの2人組を確保するのに方凪が居ると余計危ないんだよね」


 これをいつか言われるのは分かってた。

 分かっていたけど、心臓にグサッとくるこの感覚。いわゆる心の傷。でも俺に代わって戦ってくれる楓やレイナに余計な心配はかけたくないのが本音だった。


「しかし今回の依頼では凪殿の護衛をする。そうあったはず」

「そうね。だけど2人じゃ、もしあいつらに気づかれた時じゃ厳しいわね」


 そう言うと楓は、手元にあったパフェの最後の一口を食べて完食した。


 2人が話をしているときにいつの間にか、俺以外の客がいなくなっていた。詳しい話を聞くのは今しかない。


「レイナ…依頼ってなんだ?」


 さっきまでは聞いていない素振りをしたが、誰もいない今なら詳しい話に聞く耳が立った。


「むっ。凪殿聞いてなかったのか?今回のこの世界での依頼はウージー・キタガタ殿のご子息の北方凪をご護衛をしつつ、そこの世界に逃亡したジョーカー・キルバとカジャ・ドレイクの偵察せよとのことだ」

「ウージー・キタガタって…」


 依頼主はどうやら別の人が濃厚だ。レイナが言っていたことがそのまま依頼書の文にあるのなら、父さんが自分の息子をご子息だなんて書くことはまずあり得ない。でも違和感だったのは『ウージー・キタガタ』という父さんの二つ名らしき名前が可笑しくて仕方なかった。確かにゲームも現実もUZI好きの親父に相応しいかもしれない。帰ってきたらイジってやりたい気もしてきた。


「楓、レイナ。正直に思ったこと言っていい?」

「いいよ」

「うむ」

「今はやめといたほうが良くない?」


 正直言って、あいつらの掌の上に踊らされている気がする。何も知らない俺が言える立場ではないが、騒ぎを起こして、自らの敵になる者を呼び、そして戦う(遊ぶ)。そんなことを織り込み済みだからこそ、あいつらは空白の悲劇(交差点の事件)を起こした。ましてやここはレイナにとって別の世界だ。この世界の全住民ほぼ全員が魔法を見たことない人達。空想として知識はあっても目の当たりにしたことはない。

 この世界の事情を何も知らないCENTER WORLDの人がむやみやたらに魔法を使わせ、全世界の人々を発狂させることが目的だとふと思った。つまり一言で言うと「絶望そのものを味わせる」としか思えない。だからこそ、敢えて動かずに様子を見た方がいいと思った。


「今は動かずに日を置いて偵察する考えも確かにあったわ。だけど、いつどこで何をするか分からない2人がいる中で何もしないのは危険極まりないのよ」


 楓の表情が固くなった。


「あの2人……特にジョーカー・キルバは危険なのよ、特にあいつは焦らせることが大っ嫌いで、いつでも私達の気を引かせようと他人を傷つける可能性の方が高いのよ」


 苦虫を食べるようなその表情には、ジョーカー・キルバと因縁があるように感じる。けど楓の話を聞いた時に、そもそも本気で命を懸けて戦ったことのない俺がこの作戦に首を突っ込んではいけないと気づき「ごめん」とすぐに謝った。


「そういうことだ凪殿。では――――」


 ちらっとレイナが外を見たその時だった。


「凪殿!お隠れを!!」

「え?え!?」


 何か見てはいけないものを見たようなレイナの反応に、俺は一瞬パニックになりつつもすぐさま机の下に隠れた。

 客は奇跡的に3人以外いなかったが、カウンターにいた店員がレイナや楓たちの反応を見て大慌てで駆け寄ものの、慌てふためている。


「お客様!どうされました!?」

「今すぐこの場から逃げて。方凪を連れいって!!」

「ちょ、どういう…」


 店員さんが事情を聞こうとしたその瞬間―――カウンター席の窓ガラスが突然割れた。


「きゃぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁ!!」


 店員達の悲鳴が響いた。

 それに続いて、カウンターテーブルがハンマーで叩き割るかのように、粉々に粉砕される音がした。

 こんな人力で派手な破壊ができるのは2人しか思いつかない。

 ジョーカー・キルバとカジャ・ドレイク

 今朝の事件の首謀者だ。


「やぁ、またまた会ったね。もう外に出ないかと想ったのに…」


 明るい茶色の無造作な髪に子供じみた無邪気な顔のジョーカーはニヤニヤしながらカウンターにの机を踏み台にして店内に入った。

 灰色のロングヘアーに額の傷と表情を一切変える気配のない仏頂面が俺たちを威圧するかのようなカジャ・ドレイクは、自らの歩く道の障害になっていたカウンターの椅子をケーキ等が入ったショーケースの方向に蹴り飛ばした。

 表情1つ変えることなくいきなり破壊行動をする2人に俺と店員は戦慄していた。


「なぁに手出しはしないよ。ただあの3人と話がしたいだけ。ほら、さっさと逃げなよ。ただ、この空間に人を入れたら…こう」


 といって、カジャは手を俺たちの席に駆け寄った店員に向けてかざした。

 次の瞬間


「ぐっ…あ!!」


 店長は床に這いつくばる形で、重力に押し潰された。


「やめて!店員さんは関係ないわ!!」

「そうだ!手出しをしないて言ったではないか!」


 楓とレイナは強く叫んだ。


「ね。こうするよ。1分待ってあげるからさっさと僕の気に障らない内に逃げなよ。ほらカジャ、解除していいよ」


 自分のペースを貫くジョーカー。楓はレイナの言うことを聞く気などなさそうだ。

 店員にかかった重力がなくなった瞬間、力を失ったのか、そのままパタリを倒れてしまった。

 女性店員達は悲鳴をあげながら外に逃げた。近くにいた二人の男の店員が倒れていた店員を支え、ジョーカーとカジャの目の前の通り過ぎた。

 だが二人ともすれ違う瞬間から青ざめており、無我夢中で店長を抱えながら急いでその場を後にした。


「お前ら!何がしたいんだ!」


 机の下に隠れていた俺は、爆発しそうな怒りを抑えきれずテーブルのから出た。


「あはははっ!いいねぇ!その表情かお。特別に教えてあげるよ。一言で言えば楽しさを追い求めているんだよ!」

「… っ!!」


 とんでもない拍子抜けな回答にもう言葉が出なかった。

 やはりとんでもなく狂っていた。まともな会話などを期待していた俺が馬鹿らしい。


「お主らが、ジョーカー・キルバとカジャ・ドレイクと申すか」

「…そうだけど」


 ジョーカーは問いに答えた。しかし、カジャは口を開かない。


「…凪殿。逃げ道をつくる」


 レイナは左手をかざし——何もないところから水色の鞘に雪の結晶の装飾が施された刀が現れた。


「おいおいおい…まさか君1人で僕たちと戦うつもりかい?」

氷華刀術拾一式ひょうかとうじゅつじゅういっしき氷化裂彩ひょうかれっさい!」


 呪文らしき言葉を詠唱したあと、刀の刃先を後ろの窓ガラスに当てた。

 次の瞬間、窓ガラスが一気に凍りつきヒビが入ったその直後、窓ガラスが粉々になった。


「よし、今だわ!」


 またあの時みたいに俺の右腕を楓は引っ張った。

 ガラスの破片などを気にすることなく外に出た俺達3人は一目散に病院から離れた。

 逃げている最中に何回か後ろを振り返ったが、あの2人の姿はない。

 でも、同時に罪悪感も感じた。

 手のつけようのない2人をあの場に放ってしまったのだ。病院にいるたちが危険に晒されている。


「大丈夫…あいつらの目的は私達よ。能無しを弄ぶ趣味はあいつらにないのは確かよ」

「で…でも」

「もしあいつらがなんの関わりのない人に危害を加えたら、死んでも構わない」

「うっ…分かったよ」


 そこまで言うことは確信が持てているのは間違いない。今はもう、楓の言うことを信じて、走り続けるしかなかった。


 ※


 あの2人から離れ、俺たちは鷹山病院から1mでも離れようと、商店街の端から端まで駆け抜けた。


「はぁ…はぁ…」


 日が落ちてきてるとは言え、まだ外は暑い。

 むしろ俺なんかより熱中症で倒れたレイナが心配だ。生命力がこの世界の人よりずば抜けていようと、もしかしたらまた…。


「レイナ…大丈夫か…」

「先ほど甘いものを摂取したから大丈夫なのだ」


 心配はどうやら杞憂だったようだ。余裕を持ったその表情が何よりの証拠だ。


 この後俺たちは楓の喫茶店に向かった。

 正直言って、また上の服が大変なことになっていた。

 昼お風呂入った意味が打ち消されたが、それはそれで仕方なかった。


「はぁ…はぁ…はぁ」


 病院から3kmくらいだろうか、あの事件の直後に連れてこられた喫茶店へまた着いた。それにしてもかなりハイペースで走ったものだ。体力には多少の自身がある俺でも、誰かを背負っているかのように身体が重く感じた。


「はぁ…はぁ…方凪。この世界の人の割には動けるじゃない」

「楓こそ……めっちゃくちゃ足速いじゃん」

「たった…この距離で……お主ら……体力がない…のう」


「体力がない」とか人に言いつつ、レイナが一番危ない。顔が青白くなっていた。

 ずっと我慢していたのだろう。自分の体に鞭打ってここまで走り出したレイナを俺は見ていられなかった。

 本来は熱中症の応急処置直後だったから、運動してはいけなかった。


「変なプライドはいいから…さっさと中入るよ」


 険しい目をしている楓はレイナの右腕を肩に担ぎ、そのまま喫茶店の中へと入った。

 カランカランと響きのいい音が俺たちを迎えた。


「お…お帰り…ってどしたんや!」


 危篤状態に陥っていたレイナを見て、とっつあんは思わず手に持っていた食器を落としつつも、そのことを気にせず、すぐさま上の階へ上がれるよう経路を確保した。


「あ…ここは…オアシス…」

「変なこと言わなくていいからあともう少しよ!」


 一歩、一歩。レイナの足取りが重くなるのが目に見えていた。

 早く横にさせなければ危ないと、俺もレイナの左腕を肩に担いだ。


「上に上がらせるよ!」

「あ…おう。方凪ちゃん…何があったの?」

「後で教える。今はレイナを助けないと!」

「いいわよ私1人で!」


 そう言われつつも、横幅が人2人分が限界の2階へ続く階段まではレイナの右腕を肩にかけて一緒に歩いた。

 階段の前で「後は任せた」と楓に一言だけ言って、俺はとっつあんがいるカウンターに向かって歩き出した。



 ※



「んなことが…」


 奥のテーブルで向かい合うように座り、俺は今までのことを話した。


「ここの世界にどうやって…」


 恐らく予想外でだったであろう。驚嘆を隠せないその表情が今までの経験を物語っていた。


「とっつぁん…ここの世界って…どういうことなの?」

「ああ、そっか。方凪ちゃんに言わなければいかんわ。えーっと…ここの世界はCENTERWORLDの中でも特別な場所。つまり、許可がないと行けない世界。特別世界の一つなんや。しかもこの世界に来るのを認可する側は2人しかいなくて、一人は君の父さんである氏郷君。もう一人は…俺の嫁」


 この瞬間、このタイミング。とっつあんのここでまさかまさかのカミングアウトに俺は頭の処理が凍結フリーズした。


「ちょっと待って、俺の嫁って…まさか2次元の方違うよね…」

「んな訳あるか!リアルやリア嫁や!確かに異世界いるけど異次元じゃねえわ!……とにかくその2人のどちらかに許可貰わないとあかんわい」


 この状況を考えると、これ以上2人の関係に首を突っ込むのは失礼すぎる。

 この世界は許可しないと来れないと言うことを考えると、楓はとっつあんの娘だし、なにより母親が許可する側だから割と簡単に来れたのだろう。

 レイナの場合は、なぜこの世界に来れたのかは不思議だった。

 だけど、とっつあんに聞いてよくわかった。

 レイナは父さんの右腕(自称かもしれないが)だから許可貰えやすい所にいる。

 だがそれはそれで、新しい疑問が思い浮かんだ。とっつぁんの嫁――楓の母さんも俺の父さんと同じくらいの上の役職にいるのだろうか…。そんなことを今考えたって仕方ないことなんだろうけど。


「とっつあん!スポーツドリンクはある!?」


 楓は居住スペースに続く扉を強く開き、近所迷惑になりそうな声で呼び掛けた。


「あるわけねーよ!コンビニいかんと!」

「仕方ないわね!方凪!レイナをお願い!」

「ちょい待て楓!靴は!?」

「そんなのいらーん!!」


 楓は靴を履かず外に出て行った。


「うそーん……」


 いくらなんでもそれは無茶だ。日は落ちかけてるとはいえ、アスファルトが熱されている部分を必ず通るし、なりより足の皮が剥けてしまう。


「…はぁ」


 とっつぁんは頭を抱えて、深くため息をした。


「どうしたの?」

「あいつ焦ってる時いっつもあれだもんな…誰に似たんやら」

「楓って焦ってるときは無茶するタイプ?」

「そうだよ…。だからいつも追い詰められたときは一歩立ち止まって周り見ろって言ってるのに…まぁ、あいつは水温を操る能力を持ってるけど自分の体温も調節できるんだ。冷やす限定だけどな。それが最近、別の物質の温度まで操れるようになって、今では買い物しようと商店街まで出かけても、裸足ということを忘れて歩いてるほどだから…」

「あ…うん」


 一部デジャヴを感じた。テレビの向こう側で見たような、見てないような。


「それよりほら、レイナ嬢の看病をしてやりな。むしろ今がチャンスかもな…」

「何を言ってんだあんたは…」


 何やらとっつぁんは意味深なことを言ってきたが、それには気にせず俺は2階へ上がった。

 

 2階は一回の店舗同様にヴィンテージ感溢れる加工を施した木をふんだんに使ったリビングとキッチン。そして至るところにスポットライトのような照明があり、1900年以前の西洋のどこかをイメージされてとてもお洒落だった。まだ上の階もあるが、今は人の居住スペースを見学できる暇はない。

 入って奥には和紙を使った幾何学模様の障子しょうじがあり、和洋折衷な感じもなかなか良い。

 恐らく障子の奥は和室になっている。

(そこにいるのか)

 と、歩き出そうとしたその瞬間、障子が勝手に開いた。


「はぁ…はぁ…はぁ…なんだ凪殿か…」


 今にも倒れそうにレイナはフラフラしながらも立っている。


「レイナ…」

「誰かが…はぁ…こっち…に…くる…足音がするから…不安に…はぁ…はぁ…」


 過呼吸気味になっており、今にも倒れそうだった。


「横になれ!無理をするな」

「あ…」


 その瞬間、レイナはそのまま床に倒れそうになったのを俺は間一髪受け止め、なんとか体が床に直撃するのを防いだ。

 ここまでは良かったのだが、何故かレイナが倒れる流れで、そのまま膝の裏と背中を抱え。お姫様抱っこをしてしまった。

 二つの意味で不安だった。一つはレイナの容態。もう一つは…


「あれぇー。方凪ちゃん。レイナを連れてどこへ行くのー?」 


 大丈夫じゃなかった。悪い予感が的中した。


「あーこれはこれは。楓殿。これはかくかくしかじかで…」


 いつの間にか(水温調節の化け物)が俺の背後に立っていた。

 レイナを布団の上に降ろして、後ろをチラ見した。錯覚かもしれないが、何かL字型の物体を俺に向けているようだ。

 クーラーが効いている部屋なのに、なぜか汗がしたたれた。冷や汗だ。背後に見たくない恐怖が俺を戦慄させている。


「レイナと一緒に寝る?心配しないでも死にはしないからね」

「できれば…その凶器を下げてほしいのですが…」


 と言った瞬間、俺は視界が痛覚を感じる暇もなく、真っ暗になった。

 俺の願いは通らなかったようだ






 

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