プロローグ
平穏。
それは、あらゆる修羅場を潜り抜けたい人が願うこと。
誰もが願う自分の未来の状況は、誰にも縛らない空間を追い求めているだろう。
俺の場合、もしもあの子に出会っていなければ、多分のストレスを抱えながらも、いずれ平穏に暮らせたはずだった。
会社に縛られつつも、皆と同じような普通の人生を送ることが出来ていたのだろう。
だが平穏には一つ短所がある。
それは…刺激がないこと。
未知の世界は一般人の俺にとって、目に見える一つ一つの風景が感動的で、圧倒的で、叙情的で、魅力的。喜怒哀楽の感情全てを奮い立たせた。
だからこそ、何が起こるか分からない環境はある意味刺激的だ。
人ではないあの子と出会って、俺の人生は誰にも真似できない唯一無二の人生になっていた…はずだった。
その当時の記憶を俺は、はっきりと覚えておらず、うっすらと記憶に残っている程度だ。そんな刺激的な記憶をうっすらと覚えている程度に改竄されたかは覚えていないが、ある日を境に夢みたいな平穏な生活が訪れたことは覚えている。まるで、あの魅力的な思い出から今でも遠ざけさせるような平穏の中で生活している。
こんなこともし俺の記憶が有っても無くても、誰も信じてくれないと思う。
だからこそ誰にも話していない戯言の様に聞こえる俺の過去。
だが、俺の手元にある黒い羽が事実だと言うことを俺だけに伝えている。
もう一度逢って、その子の顔が見たい。
その麗しい翼を想う度に、あの幻想的な世界をもう一度確かめたくなる。
1人になった時はいつもそんな馬鹿馬鹿しいことを妄想していた。
いずれ自分の運命が再び予測不能になるなんて、この頃は微塵にも思っていなかったから。